疾患解説

【人名がついた医療シリーズ 第9回】ウェンケバッハとモビッツ――2人の医師が解き明かした房室ブロック

健康診断の心電図で、「第2度房室ブロック」「Wenckebach型」「Mobitz I型」と書かれて、心配になって受診される患者さんがいます。京都市西京区・桂川・桂・洛西口エリアの当院にも、こうしたご相談があります。

循環器では「ウェンケバッハ」「モビッツ」という言葉はあまりにも日常的で、病名の一部として何気なく使っています。しかし、WenckebachもMobitzも実は人の名前で、しかもこの2人は同じことを発見したわけではありません。一人は心電図がまだ臨床で使われていなかった時代に脈の微妙な変化から異常を見抜いた医師、もう一人はその約25年後に心電図という新しい技術で房室ブロックを整理・分類した医師です。今回は「観察の時代」から「心電図の時代」へ、房室ブロックをめぐる二人の医師の物語です。

心電図がない。それでもウェンケバッハは気づいた

心電図がない時代にウェンケバッハが脈の抜け方の周期性に気づく(房室ブロックの由来)

最初の主人公は、オランダ出身の医師 Karel Frederik Wenckebach(カレル・フレデリック・ウェンケバッハ、1864–1940)です。時代は19世紀末。ウェンケバッハが患者さんを診ていた時代には、心電図もホルター心電図もありません。頼れるものは、患者さんの症状と自分の指、そして脈の記録でした。

ウェンケバッハは、不規則な脈を持つ患者さんを注意深く観察し、「抜けること」ではなく「抜け方」に注目しました。よく見ると、ランダムに脈が抜けているのではなく、そこには一定の周期性がある。ウェンケバッハは1899年、この周期的な伝導障害を詳細に報告し、後に Wenckebach periodicity(ウェンケバッハ周期)と呼ばれるようになります。

ウェンケバッハが見抜いた「だんだん、だんだん……落ちる」

正常な心臓では、洞結節 → 心房 → 房室結節 → His束 → 心室、の順に電気が伝わります。心電図では心房の興奮をP波、心室の興奮をQRS波として観察でき、その間の時間がPR間隔です。ウェンケバッハ型では、PR → 少し長いPR → さらに長いPR → P波だけでQRSが出ない、という具合に、だんだん伝導が遅くなり、ついに一回伝わらなくなってリセットされる周期を繰り返します。これが現在の Mobitz I型第2度房室ブロック=Wenckebach型です。

面白いのは、ウェンケバッハ本人はPR間隔を見ていないことです。心電図がまだ臨床に普及していなかったからです。彼は患者さんの脈の周期性から「心房から心室への伝導が徐々に遅くなり、最後には一回伝わらなくなるのではないか」と考えました。病態の理解が先で、検査機器が後から追いついたのです。

そこへ「心電図」という新しい目が登場する

20世紀に入ると、心電図が登場します。オランダの生理学者 Willem Einthoven(ウィレム・アイントホーフェン)らの仕事によって、心臓の電気活動を人間で記録できるようになりました。医師が指で感じていた「脈が飛んだ」「遅くなった」が、P波・PR間隔・QRS波として紙の上に現れます。ウェンケバッハが推測していた現象も、PR間隔が徐々に延長 → QRSが脱落 → 再び短いPRから始まる、という形で目に見えるようになりました。医学は「脈を読む時代」から「電気を読む時代」へ進みます。

第2の主人公、ウォルデマール・モビッツ

モビッツが心電図で第2度房室ブロックをI型とII型に分類(Mobitz II型は突然ブロック)

その新しい道具で房室ブロックを整理したのが、ドイツの医師 Woldemar Mobitz(ウォルデマール・モビッツ、1889–1951)です。1924年、モビッツは第2度房室ブロックの心電図を解析し、同じ「時々QRSが落ちる房室ブロック」でも二つの異なるパターンがあることを示しました。

一つは、PR間隔が徐々に延長してからQRSが脱落する Mobitz I型(ウェンケバッハが約25年前に脈から見抜いた現象=Wenckebach型)。もう一つは、PR間隔が延びていないのに前触れなく突然QRSが落ちる Mobitz II型です。モビッツは「第2度房室ブロックは全部同じではない」ことを、心電図を使って明確にしました。

I型とII型――名前の違いだけではありません

Mobitz IとIIは「心電図の形が少し違う」だけでなく、臨床的な意味が大きく違います。

Mobitz I型(Wenckebach型)は、典型的には伝導障害の場所が房室結節にあります。若い方・睡眠中・スポーツをしている方・迷走神経緊張が強い状態などでは、病的とはいえないWenckebach型がみられることがあり、無症状で夜間だけ・QRS幅も狭い場合は経過観察になることも少なくありません。

Mobitz II型は話が違います。伝導障害がHis束以下のHis-Purkinje系にあることが多く、より末梢の刺激伝導系そのものに病変がある可能性が高い。そして完全房室ブロックへ進行する危険性があります。そのため、後天性Mobitz II型では、可逆的な原因がなければ、症状がなくてもペースメーカー治療の適応を考えます。数字が一つ違うだけですが、医師が受け取る印象はかなり違うのです。

では「2:1房室ブロック」はどっち?

P波2回につきQRSが1回の 2:1房室ブロックでは、伝導したP波の次が必ずブロックされるため「PR間隔が徐々に延びているか」を見ることができません。つまり、心電図を一枚見ただけではI型かII型か分類できないことがあります。QRS幅・運動時の変化・基礎心疾患・症状などを合わせて、ブロックの部位を考えていきます。

健診で「Wenckebach」「Mobitz」と言われたら?

現代の診療 ホルター心電図で夜間のウェンケバッハ型房室ブロックを確認し治療につなげる

大切なのは、心電図の名前だけで判断しないことです。次のような点を確認します。

  1. めまい・ふらつき・失神がないか
  2. 動いたときに極端に息切れしないか
  3. 日中にも高度の徐脈がないか
  4. QRS幅が広くないか、脚ブロックを合併していないか
  5. 房室伝導を抑える薬(β遮断薬・ベラパミル・ジルチアゼム・ジギタリスなど)を飲んでいないか
  6. いびき・無呼吸・日中の眠気など睡眠時無呼吸を疑う所見がないか

12誘導心電図だけでなく、必要に応じて心エコーで構造的心疾患がないかも評価します。そしてここで、第5回で紹介したホルター心電図が再び活躍します。房室ブロックは昼間は正常でも夜間だけ出現することがあり、24時間・長時間記録することで「睡眠中だけWenckebach型」「めまいのあった時刻に高度房室ブロック」といった実態を捉えられます。不整脈診療では「異常があるか」だけでなく「症状が起きた瞬間に心臓で何が起きていたか」を結びつけることが重要です。

なお、夜間に房室ブロックが多い方でいびき・無呼吸・肥満・日中の眠気があれば睡眠時無呼吸症候群(SAS)も考えます。「房室ブロックがあるからペースメーカー」ではなく、まず「なぜこの患者さんに房室ブロックが起こっているのか」を考えることが大切です。お薬の影響や電解質異常・心筋虚血・心筋炎など、可逆的な原因が隠れていないかも確認します。治療の要否は自己判断せず、医療機関にご相談ください。

受診の目安

  • 房室ブロックに加えて、めまい・ふらつき・失神・目の前が暗くなるがある
  • 動くと強い息切れがする、日中も脈が極端に遅い
  • 健診で 高度(Mobitz II型・完全房室ブロックなど) を指摘された、QRS幅が広い/脚ブロック合併と言われた
  • 失神して転倒・けがをした

意識が戻らない、呼吸がおかしい、強い胸痛が続くなど緊急のときは、ためらわず救急要請(119番)をしてください。

ウェンケバッハは「現象」を、モビッツは「違い」を見抜いた

ウェンケバッハがすごかったのは測れないものを観察から推測したこと、モビッツがすごかったのは新しく測れるようになったものを分類し、その違いに意味を見いだしたこと。一見対照的ですが、二人とも「同じに見えるものの中に、規則性や違いがないか」を注意深く見ていました。

「人名がついた医療シリーズ」も第9回。医学を変えた発見は、必ずしも最先端の機械から生まれるわけではなく、多くの人が見ていた現象の中の小さな規則性を拾い上げることから始まっていることが多いように思います。AIや長時間心電図、ウェアラブルで情報が増えた今も、「何を不思議と思うか」「どの違いに注目するか」「患者さんの背景をどう結びつけるか」は、変わらず医師の仕事です。約125年前に脈を見つめたウェンケバッハ先生と、その後、心電図を見つめたモビッツ先生。二人の名前が今も一つの心電図診断の中に並んでいるのは、味わい深い医学史だと思います。

当院で相談できること

医療法人グロース 桂川さいとう内科循環器クリニックでは、房室ブロックや徐脈、めまい・失神などに対して、心電図・ホルター心電図(24時間・長時間)・心エコーなどで背景を確認し、必要に応じて専門施設と連携します。健診で「房室ブロック」「Wenckebach型」「Mobitz型」と指摘されて不安なとき、めまいや失神があるときは、放置せず・怖がりすぎず、どうぞお気軽にご相談ください。

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引用文献・参考サイト


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