疾患解説

【人名がついた医療シリーズ 第8回】「突然、意識を失う」――アダムス・ストークス発作を見抜いた2人の医師

「急に目の前が真っ暗になって倒れました」――循環器内科では、とても緊張する訴えの一つです。京都市西京区・桂川・桂・洛西口エリアの当院にも、こうしたご相談があります。

失神には、脱水や迷走神経反射など比較的良性のものもあります。一方で、心臓が一時的にほとんど血液を送り出せなくなることで起こる失神もあります。その代表的な病態を、私たちは今でも「アダムス・ストークス発作(Adams–Stokes attack)」と呼んでいます。今回の「人名がついた医療シリーズ」は、2人のアイルランド人医師、Robert Adams(ロバート・アダムス)とWilliam Stokes(ウィリアム・ストークス)のお話です。

※本記事は医学史の読み物と一般向けの解説であり、診断・治療を断定するものではありません。失神・けいれんは原因の見きわめが大切です。

失神なのに、なぜ心臓?

脳は血流が途絶えることに非常に弱い臓器です。たとえば高度房室ブロックなどによって心拍が極端に遅くなると、心臓から送り出される血液が急減します。その結果、脳への血流が不足して突然意識を失います。

これがアダムス・ストークス発作の基本的な考え方です。現在の医学用語では、主として高度徐脈・房室ブロックなどの不整脈によって心拍出量が急激に低下して生じる失神発作として理解されています。典型的には、次のような特徴を認めます。

  • 突然の失神
  • 高度の徐脈
  • 完全房室ブロックなどの伝導障害
  • ときにけいれん様運動

ここで重要なのが、「けいれんしている=てんかん」とは限らないことです。脳血流が著しく低下すると、心原性失神でも四肢のけいれん様運動を伴うことがあります。昔の医師にとって、これは非常に難しい問題だったはずで、歴史的な記録でも「失神」「てんかん」「pseudo-apoplexy(仮性卒中)」などとして表現されていました。

1827年、アダムス先生が気づいた「失神+遅い脈」

1827年 ロバート・アダムスが失神と異常に遅い脈に気づく(アダムス・ストークス発作の由来)

時代は約200年前。もちろんホルター心電図はありません。12誘導心電図すらありません。

アイルランド・ダブリンの医師 Robert Adams は1827年、繰り返し意識を失う患者について報告しました。そこで彼が注目したのが、「この患者、脈が異常に遅い」という事実でした。報告された患者は68歳。長年にわたり何度も「apoplectic attack」と表現される発作を繰り返しており、脈拍は約30/分という著しい徐脈だったとされています。

今なら、「完全房室ブロックでは?」「長い心停止が入っているのでは?」と心電図を取りたくなるところです。しかし、当時は心臓の電気活動を記録する手段そのものがありません。それでも、意識消失という“脳の症状”と、異常に遅い“心臓の脈”を結びつけた。ここが大きなポイントでした。

そしてウィリアム・ストークス先生へ

1846年 ウィリアム・ストークスが徐脈・房室ブロックの患者を詳細に報告

約20年後の1846年。同じくダブリンで活躍した医師 William Stokes が、永久的に遅い脈拍を呈する患者について、さらに詳細な報告を行いました。Robert Adams:1827年 → William Stokes:1846年 と臨床観察が積み重なり、のちにこの病態は2人の名前をとって Adams–Stokes syndrome(あるいは Stokes–Adams syndrome)と呼ばれるようになりました。

興味深いことに、この病態を思わせる記述は彼らよりさらに古く、18世紀にも存在します。歴史的レビューでは Gerbezius、Morgagni、Spens らの先行記載が紹介されており、「世界で最初に発見した2人」というより、この臨床像を医学界に定着させた2人と考える方が正確でしょう。

ところが、2人とも「心電図」を見ていない

アダムスが報告したのは1827年、ストークスは1846年。心臓の電気現象を臨床的に記録できるようになるのは、さらに後の時代です。20世紀初頭、Willem Einthoven(ウィレム・アイントホーフェン)らによる心電図の発展によって、ようやく医師は心臓の電気活動を直接見ることができるようになりました。

それ以前の医師が持っていたものは、患者さんの話、意識消失の様子、そして自分の指で触れる脈。ほぼそれだけです。にもかかわらず「意識を失うこと」と「脈が異常に遅いこと」は関係しているのではないか、と考えた。この観察力は驚くべきものだと思います。

現代のクリニックではどう見つける?

現代の診療 ホルター心電図で失神時の高度房室ブロックや長い心停止を捉える

「一度だけ気を失った」「突然目の前が真っ暗になった」「ふらっとして倒れそうになった」という患者さんが受診し、診察室で心電図を記録しても正常――これは珍しくありません。発作が起こっていない時間帯だからです。

ここで、これまでのシリーズに登場した検査が再び活躍します。第5回で紹介したホルター心電図です。24時間、あるいはさらに長時間記録することで、「普段は正常だけれど、夜間に高度房室ブロックが出ている」「失神した時刻に長い心停止がある」といった異常を捉えられる可能性があります。症状の頻度が低ければ、より長期間の外来心電図モニタリングや植込み型心電計が必要になることもあります。つまり、アダムス先生たちが指で感じていた“脈の異常”を、現代では長時間心電図で追いかけているのです。

見つかったらどうする?

高度房室ブロックが原因ならペースメーカーで心臓のリズムを支え再発を防ぐ

原因が高度房室ブロックなどの重篤な徐脈性不整脈であれば、治療の中心になるのがペースメーカーです。19世紀のアダムスやストークスは「脈が遅い患者が突然意識を失う」ところまで見抜きましたが、その心臓を電気で安定して動かし続ける治療法はありませんでした。現在なら、症状 → 心電図 → 不整脈を特定 → 必要ならペースメーカー、という流れで、命にかかわる失神を予防できる時代になっています。なお、治療の要否は診察と検査のうえで判断します。自己判断はせず、医療機関にご相談ください。

「ただの失神」で済ませてはいけない理由

特に気をつけたいのが、前触れなく突然倒れる失神です。迷走神経反射では気分不良・冷汗・吐き気などの前駆症状を伴うことが比較的多いのに対して、不整脈による失神では本当に突然、スッと意識がなくなることがあります。転倒して頭部や顔面をけがして初めて受診される方もいます。「失神したけれど、すぐ戻ったから大丈夫」とは限りません。循環器内科医としては「なぜ脳への血流が突然途絶えたのか?」を考える必要があります。

受診の目安

次のようなときは、たとえすぐ回復しても、早めに循環器内科へご相談ください。

  • 前触れなく突然、意識を失って倒れた(気づいたら倒れていた)
  • 失神のときにけいれん様の動きがあった/脈がとても遅い・とぶと感じる
  • 失神で転倒してけがをした、運転・入浴・階段など危険な状況で気が遠くなった
  • 動悸・胸の痛み・強い息切れを伴う失神があった

意識が戻らない、呼吸がおかしい、強い胸痛が続くなど緊急のときは、ためらわず救急要請(119番)をしてください。

これまでのシリーズと同じものが見えてくる

このシリーズを書いていて毎回感じるのは、名前を残した先生たちが使ったのは最先端の検査機器ではなかった、ということです。アダムス先生とストークス先生も、「失神する患者は、脈が遅い」という、一見別々に見える現象の間に共通点を見つけました。高安動脈炎でも、川崎病でも、橋本病でもそうでした。医学を前に進めた最初の一歩は、しばしば巨大な発見ではなく、「この患者さんたち、何か共通していないだろうか?」という小さな違和感です。

おわりに――そして第5回と第8回がつながる

今回個人的に面白いと思うのは、第5回「ホルター心電図」→ 第8回「アダムス・ストークス発作」がきれいにつながることです。200年前の医師は患者さんの手首に指を当てて「脈が遅い」と気づきました。現代の私たちは、小さな心電計を患者さんにつけて日常生活の中の一拍一拍を記録します。道具は劇的に変わりましたが、「症状が起きた瞬間、心臓では何が起こっていたのだろう?」という問いは、200年前の医師たちも考えていました。その観察は今も「アダムス・ストークス発作」という2人の名前とともに、私たちの日常診療の中に残っています。

当院で相談できること

医療法人グロース 桂川さいとう内科循環器クリニックでは、失神やめまい、動悸などの症状に対して、心電図・ホルター心電図(24時間・長時間)などを用いて、背景に危険な不整脈(徐脈・房室ブロックなど)が隠れていないかを確認します。「一度、気を失った」「前触れなく倒れた」というときは、放置せず・怖がりすぎず、どうぞお気軽にご相談ください。

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引用文献・参考サイト


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