漢方薬は、自然界にある植物や鉱物などの生薬を、原則として複数組み合わせて作られた薬です。何千年という長い年月をかけておこなわれた治療の経験によって、どの生薬を組み合わせるとどんな効果が得られるか、また有害な事象がないかなどが確かめられ、漢方処方として体系化されました。西洋医学は科学ですが人体は複雑であり、科学では説明できない部分も多く残っています。そのような「分類ができない、診断がつかない」患者さんに漢方薬は有効と考えています。

漢方診療


日本に中国から医学が伝わったのは5~6世紀以降とされています。その後日本の風土、食事などに合わせて研究が重ねられました。現在の漢方は腹診の発展など中医学とは異なる点も多く、日本独自のスタイルとなっています。

 

漢方の診察は四診によって行われる


漢方の診察は望・聞・問・切の4つの診察法(四診) によって行われます。望診はいわゆる視診と同じように患者さんの顔色や歩き方、全体像を見ることにより行われます。舌診は望診に入ります。脈診、腹診は切診に入ります。「漢方の診断をする時は、この四診を総合して注意深く行わなくてはならない」と言われています。

 

舌診


舌診では、形、色、大きさ、舌苔、舌の裏にある2本の静脈などを観察します。気虚、陽虚、痰湿、湿熱、血虚、陰虚、瘀血、歯痕など所見を得ることができます。

 

脈診


脈診とは、人差し指、中指、薬指で病人の脈を触り、脈のパターンを判別し、望診、聞診、問診の三診を組み合わせて、病気の陰陽、表裏、寒熱の虚実を診断することです。脈診は簡便にできるため舌診、腹診と並んで重要な検査項目です。

 

腹診


もちろん漢方医学は中国由来ですが腹診は日本において江戸時代に独自に発展した診察技術とされています。腹診は『難経』という中国の古文献で言及されていますが、中国では発展することが無かった診断技術です。日本では鍼灸家の間で研究、発展したとされています。

 

漢方医学の腹診では、患者を仰向けに寝かせて、両足を伸ばさせ、手を両脇に軽く置かせ、腹部に力を入れないようにさせます(西洋医学では通常は腹壁の緊張をとるため、わずかに股膝関節を曲げて触診することが多い.)。診察は右手の手掌または指先で行います。

 

下記のような診察所見を得て処方を考えます。

 

【心下痞硬(しんかひこう)】

鳩尾がつかえるという自覚症状、同部位の抵抗・圧痛です。上部消化管病変や胸腔内病変と深く関連しています。心不全などとも関連すると考えられています。漢方ではこの所見があると半夏瀉心湯、人参湯などを使用します。

 

【胃内停水(いないていすい)】

鳩尾の腹壁を軽く叩くとピチャピチャと音がする所見です。

六君子湯、人参養栄湯などが使用されます。

 

【胸脇苦満(きょうきょうくまん)】

両側もしくは片側の季肋部辺縁を中心に出現します、気管支炎、肺炎、胸膜炎、肝炎など横隔膜周囲の臓器の病気、また精神疾患ででやすいとされます。胸脇苦満の患者さんでは背中の筋肉の疼痛がありストレス状態にあると考えられます。柴胡という生薬の入った漢方薬すなわち柴胡剤の使用を考慮する所見とされています。小柴胡湯、大柴胡湯などを症状に応じて処方します。

 

【腹皮拘急(ふくひこうきゅう)】

腹直筋が過度に緊張した状態です。交感神経の過緊張状態と考えられています。

直腹筋の拘攣は、芍薬でゆるめるのが通常の方法で、四逆散、小建中湯、桂枝加芍薬湯、などが処方されます。

 

【小腹不仁(しょうふくふじん)】

下腹部が軟弱無力、圧迫すると腹壁が容易に陥没する状態です。足腰や下半身の弱い人、高齢者などによくみられます。臍下不仁(さいかふじん)とも言われます。八味地黄丸・牛車腎気丸が処方されます。特に手足の冷えを伴う高齢者には八味地黄丸が良く効きます。

 

【正中芯】

腹部正中線上の皮下に索状物を触れる。臍上に正中芯があれば人参湯や四君子湯などの胃腸の機能を高める薬を,臍下に正中芯があれば八味地黄丸や真武湯などの腎の機能を高める薬が選択されます。

 

【臍傍圧痛】

臍周囲に出現する圧痛・瘀血病態の存在を示唆します。瘀血は微小循環障害の蓄積と考えます。便秘傾向があれば,桃核承気湯、瘀血の兆候のみで, 便秘傾向がなければ桂枝茯苓丸が,体質が虚弱な者には当帰芍薬散や温経湯が用いられます。

漢方診療は大学の先輩であるよしだ循環器内科クリニックで学びました。