疾患解説

「急性虫垂炎・腹膜炎」とは?──“ただの腹痛”との見分け方とガイドラインが示す治療方針

ニュース概要

2026年7月8日、米米CLUBのボーカルとして知られる石井竜也さん(66)が、公式サイトで「急性虫垂炎・腹膜炎」と診断され入院したことを公表されました。報道によれば、7月7日に腹痛を訴えて受診し、1週間程度の入院と安静が必要と判断され、7月11〜13日に予定されていたクルーズ公演の出演を見合わせられたとのことです。一日も早いご回復をお祈り申し上げます。

急性虫垂炎は「盲腸」の名で広く知られ、日本人のおよそ15〜20人に1人が生涯に一度は経験するとされる、ごくありふれた病気です。しかし受診が遅れると穿孔(穴があく)から腹膜炎に進むことがあり、その一線を見分けることが大切です。京都市西京区・桂川・桂・洛西口エリアにお住まいの方も、「お腹が痛いけれど、これは様子を見ていい痛みなのか?」と迷った経験は少なくないはずです。本記事では、その判断のものさしと、病院で実際に用いられているガイドラインの診断基準・治療方針を、一般内科の視点でお伝えします。

(※本記事は公表された事実に基づく一般的な病気の解説であり、特定の方の診断内容・治療経過を推測するものではありません。)

医学的背景

虫垂は、大腸のはじまり(盲腸)からぶら下がる長さ5〜10cmほどの細い袋状の臓器です。ここが便のかたまりやリンパ組織の腫れで詰まると、内部で細菌が増えて炎症を起こします。これが急性虫垂炎です。

炎症が進むと虫垂の壁が薄くなり、やがて穴があくこと(穿孔)があります。すると膿や腸の内容物がお腹の中に漏れ出し、腹部の臓器を包む「腹膜」に炎症が広がります。これが腹膜炎で、強い痛みと発熱を伴い、放置すれば細菌が全身にまわる敗血症に至ることもあります。入院のうえ、手術や抗菌薬による治療が必要になります。

見分ける手がかりは、痛む場所が移動するという特徴的な経過です。はじめは「みぞおち〜おへその周り」がなんとなく痛く、吐き気や食欲不振を伴います。この時点では多くの方が「胃の調子が悪い」と感じます。それが半日〜1日ほどかけて右下腹部へ移り、はっきり痛むようになります。

注意したいのは、高齢の方では典型的な症状が出にくいことです。痛みや熱がはっきりせず、「思ったより元気そう」に見えるために受診が遅れ、その結果として穿孔・腹膜炎に進む割合が高くなることが海外の研究でも報告されています。受診までの時間の遅れが、穿孔の最大の危険因子とされています。

なお、腹痛の原因は虫垂炎だけではありません。感染性胃腸炎、胆石、尿路結石、大腸憩室炎、そして心筋梗塞や大動脈の病気が「みぞおちの痛み」として現れることもあります。市販の痛み止めや下剤で痛みをごまかしながら様子を見ることは、こうした重大な病気の発見を遅らせます。自己判断でのお薬の使用は避け、続く腹痛は医療機関にご相談ください。

ガイドラインに基づく診断基準

急性虫垂炎の診療は、世界緊急外科学会(WSES)の「エルサレム・ガイドライン」(2020年改訂版、および2025年版)が国際的な標準とされ、日本でも急性腹症の診療は『急性腹症診療ガイドライン2025(第2版)』に沿って進められます。病院で実際に行われる評価の流れは、次の3段階です。

① 臨床スコアでリスクを層別化する

問診・診察・血液検査を点数化し、虫垂炎の可能性を「低リスク/中リスク/高リスク」に振り分けます。

Alvarado(アルバラード)スコア(10点満点)

項目点数
痛みが右下腹部へ移動した1
食欲不振1
吐き気・嘔吐1
右下腹部の圧痛2
反跳痛(手を離すと響く)1
発熱(37.3℃以上)1
白血球増加(10,000/μL超)2
好中球優位(75%超)1
  • 0〜4点:低リスク(虫垂炎の除外に有用。感度が高く、4点以下ならほぼ否定的)
  • 5〜6点:中リスク / 7〜10点:高リスク

AIR(Appendicitis Inflammatory Response)スコア(12点満点)

嘔吐(1点)/右下腹部痛(1点)/反跳痛・筋性防御(軽度1・中等度2・高度3点)/体温38.5℃以上(1点)/好中球比率(70〜84%で1点、85%以上で2点)/白血球数(10,000〜14,900/μLで1点、15,000以上で2点)/CRP(10〜49mg/Lで1点、50mg/L以上で2点)。

  • 0〜4点:低リスク / 5〜8点:中リスク / 9〜12点:高リスク
  • WSESガイドラインは、感度92%と成績のバランスに優れるAIRスコアを最も実用的なスコアとして推奨しています。

スコアで層別化する目的は、低リスクの方に不要な画像検査・不要な手術(陰性虫垂切除)を行わないことにあります。

② 画像検査で確定する

  • 腹部超音波(エコー)が第一選択です。被ばくがなく低侵襲で、特に小児・若年者・妊娠中の方ではまずエコーを行います。
  • エコーで判断がつかない場合にCT(成人では低線量CTも可)を追加します。CTは穿孔・膿瘍・糞石(虫垂内の石)の有無まで評価できます。
  • 妊娠中でCTを避けたい場合はMRIが推奨されます。

③ 「単純性」か「複雑性」かを判定する

穿孔・膿瘍・腹膜炎を伴わない単純性虫垂炎か、それらを伴う複雑性虫垂炎かで、治療方針は大きく変わります。ニュースにあった「急性虫垂炎・腹膜炎」は、後者にあたる状態を指す表現です。

ガイドラインに基づく治療方針

単純性虫垂炎:手術と抗菌薬治療の2つの選択肢

  • 腹腔鏡下虫垂切除術が引き続き標準的な術式です(開腹より疼痛が少なく回復が早い)。
  • 抗菌薬単独による非手術治療(NOM)も、ガイドラインで選択肢として位置づけられています。米国の大規模ランダム化比較試験(CODA試験, N Engl J Med 2020)では、30日時点の健康状態で手術に対し非劣性が示されました。ただし抗菌薬群の約29%が90日以内に虫垂切除を受けており、糞石がある方では約41%、ない方では約25%と差がありました。フィンランドのAPPAC試験でも5年で約39%が手術に至っています。
  • そのため、糞石や穿孔のない単純性虫垂炎で、再発リスクを理解したうえで患者さんが希望する場合に抗菌薬治療が選ばれます。どちらを選ぶかは医師と患者さんの共同意思決定(shared decision making)で決めることが推奨されています。
  • 手術のタイミング:単純性虫垂炎であれば、24時間以内であれば手術を待っても予後は悪化しないとされています。

複雑性虫垂炎(穿孔・腹膜炎・膿瘍)

  • 汎発性腹膜炎では、輸液と抗菌薬に加えて緊急手術が必要です。
  • 限局した膿瘍・炎症性腫瘤(フレグモーネ)では、まず抗菌薬+必要に応じて経皮的ドレナージで炎症を鎮静化させ、手術を行わない方針がとられることもあります。
  • 術後抗菌薬は、単純性では追加不要または短期、複雑性でも2〜3日程度の短期投与にとどめることが推奨されています。
  • 非手術治療で軽快した40歳以上の方では、大腸内視鏡等による腫瘍の除外が推奨されます。大腸がんが虫垂の入口を閉塞して虫垂炎を起こすことがあるためです。

※以上は、病院で外科医が診断・判断したうえで選択される治療方針です。患者さんがご自身で治療法や薬を選ぶためのものではありません。まず受診し、単純性か複雑性かを見極めてもらうことが最初の一歩です。

日常生活で気をつけたいポイント

  1. 痛みの「場所」と「時間」をメモする:いつから、どこが、どのくらい強く痛むか。みぞおち→右下腹部へ移動したかどうかは、診断の大きなヒントになります。
  2. 市販の痛み止め・下剤で様子を見ない:痛みが一時的に隠れて受診が遅れ、こじれる原因になります。
  3. お腹を温めない・強く押さない・マッサージしない:炎症を悪化させる可能性があります。
  4. 無理に食べない・飲まない:吐き気が強いときは無理をせず、手術が必要になった場合に備え、受診前の飲食は控えめに。
  5. 同居のご家族が「いつもと違う」と感じたら受診を後押しする:とくに高齢の方は症状が軽く見えがちです。周囲の気づきが早期受診につながります。

受診の目安

次のような場合は、早めの受診をご検討ください。

  • 腹痛が数時間以上続き、だんだん強くなっている
  • 痛む場所がみぞおち → 右下腹部へ移動した
  • お腹を押して急に手を離すとズンと響く(反跳痛)
  • 歩く・咳をする・車の段差でお腹に響く
  • 発熱を伴う、吐き気で水分もとれない
  • 高齢の方・糖尿病のある方で、「なんとなく元気がない」「食欲がまったくない」

次の場合はためらわず救急要請(119番)をご検討ください

  • お腹が板のように硬い、冷や汗が出てぐったりしている
  • 突然の激しい腹痛・背部痛が出現した
  • 胸やみぞおちの締めつけられる痛みが続く、冷や汗を伴う(心臓の病気の可能性)

まとめ

急性虫垂炎は「よくある病気」ですが、時間が経つほど腹膜炎という重い状態に進みやすい病気でもあります。ポイントは、痛みの移動・反跳痛・発熱という3つのサインと、「待たない」という判断です。ガイドラインでも、臨床スコアとエコー・CTで「単純性か複雑性か」を早期に見極め、それに応じて手術か抗菌薬かを選ぶ流れが示されています。とくに年齢を重ねてからの腹痛は、症状が軽く見えても油断できません。

本記事は一般的な情報提供であり、個別の診断・治療方針を示すものではありません。腹痛が続く場合は自己判断で市販薬を用いず、医療機関にご相談ください。すでに治療中のお薬の変更は必ず主治医にご相談ください。

当院で相談できること

医療法人グロース 桂川さいとう内科循環器クリニックは、京都府京都市西京区下津林南大般若町37番地 リペアス下津林2Fにあり、阪急桂駅・JR桂川駅・洛西口・桂川エリアからご来院いただけます。

一般内科として、腹痛の原因を切り分ける初期評価を行っています。問診・診察に加え、血液検査(白血球・CRPなどの炎症反応)、腹部エコー、心電図などを組み合わせ、胃腸炎・胆石・尿路結石・虫垂炎、さらには心臓や血管の病気まで幅広く鑑別します。手術や入院が必要と判断した場合は、速やかに連携病院へおつなぎします。

「たかが腹痛」と我慢せず、続く腹痛・いつもと違う腹痛はどうぞお早めにご相談ください。

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引用文献・参考サイト


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