ニュース概要
2026年8月6日、世界的な医学誌 NEJM(New England Journal of Medicine) に、失神の最新総説「Syncope」(Rose Anne Kenny医師、N Engl J Med 2026;395:582-91)が掲載されました。失神とは、脳の血流が一時的に足りなくなって起こる短時間(ふつう1分未満)の意識消失で、すぐ自然に回復するのが特徴です。生涯で人口の3分の1〜2分の1が経験するありふれた症状で、原因は大きく反射性(神経調節性)・起立性低血圧・心原性の3つに分けられます。
とくに知っておきたいのは、若い成人では反射性(神経調節性)失神が90%以上を占め、その代表が血管迷走神経性失神だということ。迷走神経が一時的に過剰に働き、脈が遅くなる・血圧が下がることで、朝礼・採血・満員電車・暑い場所などで“スーッと”倒れます。多くは良性ですが、発作の30%以上でけがを負い、まれに心臓が原因の“危ない失神”が隠れていることもあります。
京都市西京区・桂川・桂・洛西口エリアでも、学校や職場で倒れて心配になった若い方や、そのご家族からのご相談は少なくありません。今回は当院に多い若年の神経調節性失神を中心に、仕組みから予防、危険サインの見分けまで、くわしく整理します。
医学的背景
血管迷走神経性失神は、自律神経のうち心臓や血管をゆるめる方向に働く迷走神経が一時的に過剰になり、①徐脈(脈が遅い)、②血圧低下(血管がゆるむ)、③その両方——のいずれかで脳血流が一瞬落ちて起こります。引き金は、長時間の立位・暑い/混雑した場所・強い痛みや採血・強い情動・食事などです。多くは倒れる前に前ぶれ(前駆症状)——顔面蒼白・冷や汗・吐き気・あくび・目の前が暗くなる・耳鳴り・動悸——があり、この前ぶれのうちに横になれば失神を防げることが多いのが特徴です。排尿・咳・嚥下などに伴う状況失神も反射性の仲間です。
一方で見逃せないのが心原性失神です。運動中・臥位や座位での失神、動悸に続く突然の失神、前ぶれのない失神、50歳未満の若年突然死の家族歴、心臓病の既往、心電図異常(ブルガダ型・QT延長/短縮・脚ブロック・非持続性心室頻拍・WPW・不整脈原性右室心筋症所見など)は危険なサインで、緊急の心臓評価が必要です。自己判断で「良性のいつものやつ」と片づけず、これらのサインがあれば必ず受診してください。なお、失神はてんかん・低血糖・心因性偽失神・脳血流障害(TIA)などとまぎらわしく、尿失禁や舌かみ・けいれん様の動きは失神でも起こりうるため、詳しい病歴と目撃者情報が診断の鍵になります。お薬の調整は自己判断で行わず、主治医にご相談ください。
日常生活で気をつけたいポイント
- 前ぶれを感じたら、すぐしゃがむ・横になる:可能なら足を高く。立ったまま我慢しないことが、けが予防の最重要ポイントです。
- 身体的対抗手技を覚える:脚を組んで力を入れる、こぶしを強く握る、両手を引っぱり合うと、血圧が上がって失神を防ぎやすくなります。
- 水分をこまめにとる:脱水は失神の大きな誘因。とくに夏・運動時・朝は意識して。
- 塩分・電解質を控えすぎない:血圧が低めで失神しやすい若い方では、医師の指導のもと適度な塩分が役立つことがあります(※高血圧・心臓病・腎臓病で塩分制限中の方は自己判断で増やさないでください)。
- 引き金に備える:長時間の立位・暑い場所・混雑を避け、立つときはゆっくり。立ち仕事では足踏み・かかと上げを。採血や献血は無理せず座って受ける。
- 生活リズムを整える:睡眠不足・欠食・過度なダイエット・飲酒は誘因になります。
動画で見る:身体的対抗手技(参考)
言葉だけではイメージしにくい動作なので、参考になる動画をひとつご紹介します(内容は制作者によるもので、当院が作成・監修したものではありません。実際の対処は本文の説明を基本にしてください)。
「脚を組んで太もも・お尻・お腹の筋肉にぎゅっと力を入れる(レッグクロス)」「手を強く握る」といった身体的対抗手技を、短くまとめて紹介した動画です(約2分半・英語)。動画の中では、脚を組んだ姿勢を「症状が治まるまで1〜2分ほど保つ」ことがすすめられています。英語ですが、体の動かし方が視覚的によく分かります。
上の動画の内容を、当院オリジナルのイラストで①〜④の流れにまとめました。

※これらの手技は「前ぶれ(冷や汗・吐き気・目の前が暗い)」を感じたときの一時的な対処です。前ぶれのない失神・運動中の失神・動悸に続く失神など「危ないサイン」があるときは、手技で対応しようとせず、下記の受診の目安を確認してください。
受診の目安
次のいずれかがあれば、早めに循環器内科を受診してください(心臓が原因の失神を見逃さないため)。
- 運動している最中に倒れた/横になっている・座っているときに失神した
- 動悸が突然始まった直後に失神した/前ぶれがまったくなくいきなり倒れた
- 家族に若くして(おおむね50歳未満で)突然亡くなった人、または遺伝性不整脈(ブルガダ症候群・QT延長症候群など)の人がいる
- もともと心臓の病気がある/失神の前後に胸の痛みがあった/心電図異常を指摘された
- くり返す失神や、失神でけがをしたことがある
※運動中の突然の失神、けいれんを伴う・意識の戻りが悪い・呼吸がおかしいときは、ためらわず救急要請(119番)を。
まとめ
若い方に多い神経調節性(血管迷走神経性)失神は、多くが良性で、水分・塩分・引き金回避と、前ぶれのうちに横になる習慣で再発をかなり減らせます。ただし、倒れたときのけがには注意が必要で、運動中の失神・前ぶれのない失神・動悸に続く失神・若年突然死の家族歴・心電図異常などのサインがあるときは、心原性失神を見逃さないための評価が欠かせません。「若いから大丈夫」と決めつけず、気になる失神は一度ご相談ください。
※本記事は一般的な情報提供であり、診断・治療や服薬の調整は必ず主治医にご相談ください。
当院で相談できること
医療法人グロース 桂川さいとう内科循環器クリニックは、京都府京都市西京区下津林南大般若町37番地(リペアス下津林2F)にあり、阪急桂駅・JR桂川駅・洛西口・桂川エリアからご利用いただけます。失神・立ちくらみでは、まずくわしい問診・診察・臥位/立位の血圧測定・心電図を行い、必要に応じてホルター心電図・心エコー・ヘッドアップティルト試験などで、良性の失神か注意すべき失神かをていねいに見きわめます。専門的な検査や治療が必要な場合は、三菱京都病院・京都桂病院などの専門施設と連携します。
「若いのに倒れてしまって不安」「くり返す立ちくらみ・失神がある」「家族に若くして突然亡くなった人がいて心配」という方は、どうぞお気軽にWEB予約またはアクセスページからご来院ください。診療内容は循環器内科のページもご覧いただけます。
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引用文献・参考サイト
- Kenny RA. Syncope. New England Journal of Medicine 2026;395:582-91(DOI: 10.1056/NEJMcp2517255)
- 2018 ESC Guidelines for the diagnosis and management of syncope(欧州心臓病学会)
- 2017 ACC/AHA/HRS Guideline for the Evaluation and Management of Patients With Syncope(米国)
- 失神の診断・治療ガイドライン(日本循環器学会)

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