疾患解説

【人名がついた医療シリーズ 第6回】WPW症候群――3人の医師が見つけた「心臓の近道」

大変ご好評をいただいている「人名がついた医療シリーズ」も、今回で第6回になりました。第1回のブルガダ症候群、第2回の高安動脈炎、第3回の井上バルーン、第4回の川崎病、第5回のホルター心電図に続き、今回はWPW症候群(Wolff-Parkinson-White syndrome)を取り上げます。

「WPW症候群」という名前を聞いたことはありますか。健康診断の心電図で「WPW症候群の疑いがあります」「心室早期興奮を認めます」と指摘されて受診される方もいれば、「突然、脈がものすごく速くなった」「ドキドキが数分から数十分続いて、突然元に戻った」という症状から見つかる方もいます。一見すると暗号のような「WPW」という名前も、実は3人の医師の名前からつけられています。今回は、約100年前に若い人たちの「ちょっと変わった心電図」に気づいた3人の医師の物語と、いまの診療で使われるホルター心電図やカテーテルアブレーションまでを、循環器内科の視点で詳しくやさしくご紹介します。

WPW症候群と「WPW」という名前について

WPWは、次の3人の医師の名字の頭文字です。

  • W:Louis Wolff(ルイス・ウォルフ)
  • P:John Parkinson(ジョン・パーキンソン)
  • W:Paul Dudley White(ポール・ダドリー・ホワイト)

1930年、3人は若く健康そうに見える患者さんの中に、「PR時間が短い」「QRS波の形が通常と異なる」「発作性の頻拍を起こす」という特徴を持つ人たちがいることを報告しました。これが現在のWPW症候群につながる重要な報告です。

特筆すべきは、当時はまだ電気生理学的検査もカテーテルアブレーションもなかったということです。3人が手掛かりにしたのは、患者さんの症状と心電図だけでした。「この心電図の人たちは、なぜ突然頻拍を起こすのだろう?」――その小さな共通点への気づきが、WPW症候群の歴史の大きな一歩になりました。京都市西京区・桂川・桂・洛西口エリアで「動悸がするけれど診察室では正常」と言われた経験のある方にも、ぜひ知っておいていただきたいテーマです。

WPWの名前の由来:3人の医師の観察から始まった
WPWの名前の由来:3人の医師の観察から始まった

医学的背景①――心臓には「電気の道路」があります

WPW症候群を理解するために、まず心臓の電気の流れを整理します。

心臓は筋肉の塊ですが、ただ勝手に収縮しているわけではありません。心臓の中を電気信号が決まった順番で伝わることで、規則正しく拍動しています。電気は、

心房 → 房室結節 → His束 → 心室

という順番で伝わります。道路にたとえると、房室結節は心房と心室を結ぶ「正規ルート」で、しかも意図的に少しスピードを落とす“関所”のような役割をしています。この一瞬の遅れがあるおかげで、心房がしっかり収縮して血液を心室に送り込んでから、心室が収縮できるのです。

ところがWPW症候群の人には、生まれつきもう一本、心房と心室を直接つなぐ「近道」が存在します。これを副伝導路(accessory pathway/ケント束とも呼ばれます)といいます。この近道は正規ルートのような“関所”を持たないため、電気がスピードを落とさずに心室へ伝わってしまいます。この一本の余分な道こそが、WPW症候群のさまざまな心電図所見や症状のもとになります。

医学的背景②――「デルタ波」は電気がフライングした跡

WPW症候群の心電図で有名なのが、デルタ波(δ波)です。

通常、心房から来た電気は房室結節で少し時間をかけてから心室へ伝わります。ところが副伝導路があると、電気の一部が正規ルートを通らず、先に心室の一部へ到達してしまいます。つまり、「よーい、ドン!」の合図の前に、心室の一部がフライングして興奮してしまうわけです。これを「心室早期興奮(プレエキサイテーション)」と呼びます。

このフライングによって、心電図では2つの特徴が現れます。ひとつはPR時間の短縮(心房から心室へ電気が早く届く)、もうひとつがデルタ波(QRS波の立ち上がりがなだらかに“slur”する)です。WPW症候群の心電図を見慣れた医療者なら、この少し「ぬるっ」としたQRSの立ち上がりにピンとくるかもしれません。この所見のパターンを、専門的には「WPWパターン(早期興奮パターン)」と呼びます。

医学的背景③――なぜ突然、脈が速くなるのか

副伝導路があるだけなら、必ずしも症状が出るとは限りません。問題になるのは、この副伝導路を利用して電気がぐるぐる回る回路(リエントリー)ができてしまう場合です。

たとえば、電気が

心房 → 房室結節 → 心室 → 副伝導路 → 再び心房 →(また房室結節へ)

というように、正規ルートと近道の間を周回し始めることがあります。これが房室回帰性頻拍(AVRT:atrioventricular reentrant tachycardia)です。いったんこの電気のループが完成すると、「ドドドドドドド……」と心臓が突然、規則正しく速く打ち始めます。そして、何かの拍子にループが切れると、「スッ……」と突然、正常の脈に戻ります。

患者さんがよく表現される「急に始まって、急に止まる」という動悸は、まさにこの仕組みから起こります。だんだん速くなってだんだん治まるのではなく、スイッチのようにオン・オフする――これがWPWに関連した発作性上室頻拍の典型的な感じ方です。なお、こうした仕組みの評価や治療方針は自己判断で決めるものではなく、症状と心電図をふまえて主治医と相談することが大切です。

なぜ突然、脈が速くなるの?(正常な電気の流れと副伝導路)
なぜ突然、脈が速くなるの?(正常な電気の流れと副伝導路)

発作性上室頻拍は、当院でもよく診る不整脈です

発作性上室頻拍は、当院でも比較的よく診察する不整脈のひとつです。患者さんからは、

  • 「突然、脈が150〜200くらいになりました」
  • 「胸がドキドキして、しばらくしたら急に治りました」
  • 「スマートウォッチを見ると、何もしていないのに心拍数がものすごく上がっていました」

といったご相談をいただきます。ところが、ここに不整脈診療ならではの難しさがあります。クリニックに来たときには、もう治っているのです。診察室で心電図をとってみると「正常洞調律です」となってしまう。不整脈診療では、これが実によくあります。発作は気まぐれで、たいてい病院に着く頃には収まっているのです。

では、どうやって診断するのでしょうか。ここで、このシリーズの前回の主役が再登場します。

第5回の主役「ホルター心電図」が、ここでも活躍します

「人名がついた医療シリーズ」第5回でご紹介したのが、ホルター心電図でした。「Holter」も人名で、開発者のNorman J. Holter(ノーマン・ホルター)先生に由来します。ホルター先生は「診察室の短い心電図ではなく、患者さんの日常生活の中の心電図を記録したい」と考え、その発想が長時間心電図モニタリングを生みました。

通常の12誘導心電図が記録しているのは、患者さんの一日のうちほんのわずかな時間です。発作がその数十秒に偶然起きてくれればよいのですが、そう簡単にはいきません。そこでホルター心電図の出番です。小型の心電計を装着したまま普段どおり生活していただき、「いつもの動悸が起きた瞬間の心電図を捕まえる」ことを目指します。たとえば、

朝は正常 → 仕事中も正常 → 夕食後、突然動悸 → 心拍数180/分の規則正しい頻拍 → 10分後、突然正常化

という様子が記録できれば、診断の大きな手掛かりになります。前回ご紹介したホルター先生の「日常生活の中の心臓を記録する」という発想が、WPW症候群や発作性上室頻拍の診療でもそのまま生きているわけです。

ただし、「24時間つければ必ず見つかる」わけではありません

ここは患者さんにもよく説明するポイントです。たとえば「動悸は2〜3か月に1回です」という患者さんに24時間だけホルター心電図を装着しても、その日に発作が起こらなければ当然、記録できません。

そのため不整脈の検査では、症状の頻度に合わせて記録期間を考える必要があります。毎日のように症状があるなら24〜48時間のホルターで十分捕まえられることが多いですが、数日〜数週間に1回なら、数日〜1、2週間記録できる長時間心電計や、症状が出たときに自分で記録するイベントレコーダーなどが向いています。不整脈診療でいちばん大切なのは、「検査をしたかどうか」ではなく「症状が起こった、その瞬間の心電図を捕まえられたかどうか」です。ここは非常に重要なので、繰り返しお伝えしています。

WPWの心電図の特徴と、若くても起こる頻拍発作
WPWの心電図の特徴と、若くても起こる頻拍発作

「WPWの心電図」と「WPW症候群」は、少し違います

もう一つ、知っておいていただきたい大切なことがあります。健康診断などで特徴的なデルタ波(早期興奮)が見つかっても、それだけで全員が頻拍発作を起こすわけではありません。副伝導路による早期興奮が心電図上に見えていても、これまで一度も頻拍などの症状がない方もいます。

そのため医学的には、「単に心電図上の早期興奮所見がある状態(無症候性のWPWパターン)」と、「頻拍などの臨床症状を伴うWPW症候群」を区別して考えることがあります。つまり、「WPW型の心電図がある=全員すぐに治療」というわけではありません。年齢、症状の有無、頻拍発作の頻度、そして副伝導路の“電気の通りやすさ”などを総合的に評価して、経過をみるのか、精密検査や治療を検討するのかを判断します。健診で指摘されて不安になった方も、まずは落ち着いて一度ご相談いただくのがよいと思います。

見逃せない不整脈――「早期興奮を伴う心房細動」

WPW症候群というと発作性上室頻拍(AVRT)が有名ですが、循環器内科としてもう一つ重要視するのが心房細動です。

通常、心房細動では心房から非常に多くの不規則な電気信号が房室結節へ押し寄せます。房室結節には、すべての電気をそのまま心室へ通さない“フィルター(関所)”の働きがあり、心室が異常に速くなりすぎないよう守っています。ところがWPW症候群では、この関所を通らない副伝導路という「別ルート」があります。副伝導路の性質(電気の通りやすさ)によっては、心房細動の非常に速い電気信号がフィルターを介さずに心室へ伝わってしまうことがあります。

これは早期興奮を伴う心房細動(pre-excited atrial fibrillation)と呼ばれ、非常に速く不規則な心室応答を示し、まれながら心室細動という命に関わる不整脈につながる危険があります。だからこそWPW症候群は、「若い人に見つかるちょっと変わった心電図」で終わらせず、症状や不整脈歴、動悸の様子をきちんと確認することが大切なのです。

現代では、「心臓の近道」そのものを治療できます

1930年当時、Wolff・Parkinson・Whiteの3人が観察できたのは、患者さんの症状と心電図だけでした。しかし現在では、心臓の中を電気がどこを、どの方向に、どのくらいの速さで伝わっているのかを詳しく調べる心臓電気生理学的検査(EPS)があります。太ももの付け根などの血管からカテーテルを心臓内に進め、電気の流れを直接記録して、頻拍の回路や副伝導路の位置を突き止めます。

そして、原因となる副伝導路の場所が分かれば、カテーテルの先端から高周波などのエネルギーを加えて、その一点だけを電気が通れないようにできます。これがカテーテルアブレーションです。ひとことで言えば、不整脈を起こす「余分な電気の近道」を見つけて、その道を通れなくする治療です。薬をずっと飲んで発作を抑えるだけでなく、頻拍を起こす原因そのものを取り除ける可能性がある――これはWPW症候群という病気の大きな特徴であり、患者さんにとって大きな希望でもあります。

当院からもアブレーション治療へご紹介することがあります

当院でも、発作性上室頻拍の患者さんはよく受診されます。診療ではまず症状を詳しくうかがい、12誘導心電図でデルタ波(早期興奮)の有無を確認し、ホルター心電図などで発作の瞬間の心電図を捕まえることを目指します。

そのうえで、頻拍発作を繰り返している、症状が強い、あるいはカテーテルアブレーションによる根治治療が適切と考えられる場合には、専門施設へご紹介します。当院では、こうした患者さんを三菱京都病院や京都桂病院などへご紹介することが多くあります。専門施設では電気生理学的検査によって頻拍の回路を詳しく調べ、原因となる副伝導路を同定し、必要に応じてカテーテルアブレーションを行います。

患者さんからすると、「動悸がする」という一つの症状から始まった診療が、症状を聞く → 心電図を確認する → 発作を捕まえる → 不整脈の仕組みを突き止める → 必要なら原因そのものを治療する、というところまで一本の線でつながっていきます。当院はその入口として、症状の整理と診断、そして適切なタイミングでの専門施設との橋渡しを担っています。

治療は「近道をなくす」アブレーションの時代へ
治療は「近道をなくす」アブレーションの時代へ

日常生活で気をつけたいポイント

  1. 動悸の「始まり方・止まり方」を覚えておく……「急に始まって急に止まる」のか「だんだん」なのか。持続時間や脈の速さ(数えられれば1分間の回数)も、診断の大きな手掛かりになります。
  2. スマートウォッチ・スマホの記録を活用する……心拍数や心電図アプリの記録があれば、受診時にぜひ見せてください。発作時のデータは、診察室では得られない貴重な情報です。
  3. 発作時に楽になる方法は主治医と確認する……人によっては、息をこらえていきむ・冷たい水を飲むといった工夫で止まることがありますが、適応や安全な方法は必ず事前に医師と相談してください。
  4. 誘因を知っておく……睡眠不足、過労、強いストレス、カフェインやアルコールのとりすぎなどで発作が誘発されやすくなることがあります。
  5. 健診でWPWを指摘されたら一度相談を……症状がなくても、評価が必要かどうかを確認しておくと安心です。とくにスポーツを本格的に行う方やお子さんでは、方針を相談しておく意味があります。

受診の目安

  • 急に始まって急に止まる動悸を繰り返すとき
  • 動悸に強い息切れ・胸の痛み・めまい・ふらつき・失神を伴うとき
  • スマートウォッチなどで、安静にしているのに心拍数が急上昇しているのに気づいたとき
  • 健診でWPW症候群・心室早期興奮・デルタ波を指摘されたとき

なお、動悸に加えて意識が遠のく・実際に失神した・強い胸痛や息苦しさがある場合は、危険な不整脈が関係している可能性があり、緊急の対応が必要なことがあります。ためらわずに医療機関へ、状況によっては救急要請(119番)をご検討ください。

まとめ――100年前の「気づき」が、いまの治療につながっている

WPW症候群の歴史を調べていて面白いと思うのは、最初から「副伝導路」という近道が見えていたわけではない、ということです。Wolff・Parkinson・Whiteの3人が手にしていたのは、患者さんの症状と心電図だけでした。若くて、一見すると心臓に大きな異常はなさそうで、でも心電図が少し変わっていて、発作性の頻拍を起こす。一人ひとりを別々に見ていれば、単なる「ちょっと変わった心電図」で終わっていたかもしれません。ところが3人は、複数の患者さんの間にある共通点を拾い上げ、そこから一つの疾患概念を築きました。

そして現在では、電気生理学的検査で副伝導路の場所を突き止め、カテーテルアブレーションで「余分な電気の近道」を通れなくする根治的な治療まで可能になりました。「動悸がする」という一つの症状から、症状を聞き、心電図を確認し、発作を捕まえ、仕組みを突き止め、必要なら原因そのものを治療する――医学史の教科書に載っている人たちの発見が、いまも毎日の診療室の中で生きている。そこがこの「人名がついた医療シリーズ」の面白さだと感じています。私自身もこのシリーズを書きながら、目の前の患者さんに真剣に向き合い、小さな違和感や共通点を見過ごさないことの大切さを、あらためて感じています。

当院で相談できること

医療法人グロース 桂川さいとう内科循環器クリニックは、京都府京都市西京区下津林南大般若町37番地 リペアス下津林2Fにあり、阪急桂駅・JR桂川駅・洛西口・桂川エリアからお越しいただけます。一般内科・循環器内科・生活習慣病の診療を行っています。

発作性上室頻拍やWPW症候群が疑われる方には、次のような形でお役に立てます。

  • 動悸・頻拍の評価:まず症状を詳しくうかがい、12誘導心電図で早期興奮(デルタ波)の有無を確認します
  • ホルター心電図(長時間心電図):発作の瞬間の心電図を捕まえることを目指します
  • 記録期間の選択:症状の頻度に応じて、より長期のモニターやイベントレコーダーも検討します
  • 健診でのWPW指摘のご相談:無症状の方も、経過観察でよいか評価が必要かを一緒に整理します
  • 専門施設との連携:根治的なカテーテルアブレーションが適切と考えられる場合は、三菱京都病院・京都桂病院などの専門施設へご紹介します

「急に始まって急に止まる動悸がある」「健診でWPWと言われた」「スマートウォッチで脈の急上昇に気づいた」という方は、どうぞお気軽にご相談・ご予約ください。

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「人名がついた医療シリーズ」のこれまでの記事です。あわせてどうぞ。とくに第5回のホルター心電図は、本記事のWPW症候群の診断と深くつながっています。

引用文献・参考サイト


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