研究

心不全の「世界共通の定義」が2026年に改訂――早期発見が大事

ニュース概要

2026年6月29日、米国心臓協会(AHA)・米国心臓病学会(ACC)・欧州心臓病学会(ESC)・世界心臓連合(WHF)を中心に、米国心不全学会・欧州心不全協会・日本心不全学会なども加わった国際チームが、心不全(heart failure)の世界共通の定義を全面的に見直した専門家コンセンサス文書『第2版ユニバーサル定義(Second Universal Definition of Heart Failure)』を発表しました。2021年の初版を5年ぶりに更新したもので、医学誌 CirculationJACCEuropean Heart JournalGlobal Heart に同時掲載されています。

心不全は世界で6,400万人を超える人がかかえるとされ、高齢化に加えて肥満・2型糖尿病・高血圧の増加が背景にあります。今回の改訂の柱は、EF(左室駆出率)の厳密な数値の線引きに頼りすぎないこと、原因を世界共通で分類すること、そして症状が出る前の早い段階での発見と、心不全は良くなることもある“動的な状態”という前向きな考え方を重視したことです。健診で心臓や血圧を指摘された経験のある方が多い京都市西京区・桂川エリアの皆さんにとっても、「早く気づくほど手を打てる」という点で自分ごとにできる話題です。

医学的背景

まず、心不全の定義を整理しておきましょう。現在の国際的な定義では、心不全はおおむね次のように説明されます。

心不全とは、心臓の構造的または機能的な異常によって生じ、息切れ・むくみ・だるさなどの症状や徴候を伴う臨床症候群で、血液検査のナトリウム利尿ペプチド(BNP/NT-proBNP)の上昇、または肺や全身のうっ血(水がたまること)などの客観的所見によって裏づけられるもの。

大切なのは、心不全は「心エコーで測るEF(駆出率)が低いこと」だけでは決まらないという点です。診断には次の3つを組み合わせて考えます。

  1. 心臓の異常:収縮の力の低下、心臓が広がりにくい(拡張障害)、弁膜症、心筋の肥大や病気、心筋梗塞・狭心症などの虚血性心疾患 など
  2. 症状・徴候:動いたときの息切れ、横になると苦しい(起座呼吸)、足などのむくみ、首の血管の張り、体重増加、疲れやすさ など
  3. 客観的な裏づけ:BNP/NT-proBNPの上昇、胸部X線・心エコー・肺エコーなどで見られる肺や全身のうっ血

今回の第2版でも、この基本的な考え方はそのまま引き継がれています。そのうえで、EFについて「◯%以上/未満」ときっちり線を引くのではなく、EFには性別・年齢・人種による差があることをふまえ、「低下(reduced)」「保たれている(preserved)」「改善した(improved)」という、臨床で使いやすいカテゴリーに整理し直しました。日ごろ耳にするHFrEF(EFが低下した心不全)HFpEF(EFが保たれた心不全)といった分け方を、より柔軟に運用していく方向です。

さらに新しいのは、心不全を「一度なったら固定して変わらない診断」ではなく、時間とともに“改善・寛解・進行”しうる動的な状態と位置づけた点です。適切な治療や生活の工夫で良くなる(EFが改善する)こともあるという考え方は、患者さんにとって希望のあるメッセージだといえます。なお、これは診断・分類の枠組みを整理した国際的な合意文書であり、個々の治療方針を変えるものではありません。すでに通院中の方が自己判断でお薬を減らしたり中止したりするのは避け、変更は必ず主治医にご相談ください。この文書は、2027年後半に予定されるAHA/ACCの新しい心不全ガイドラインの土台になる見込みです。

日常生活で気をつけたいポイント

  1. 「早く気づく」を最優先に。 息切れやむくみが強く出てからではなく、軽いサインの段階で相談することが、今回の改訂でも重視されています。
  2. 毎日の体重をはかる。 数日で2〜3kg以上の急な増加は、体に水がたまっているサインのことがあります。むくみと合わせてチェックしましょう。
  3. 血圧・血糖を整える。 高血圧・糖尿病・肥満は心不全の重要な原因・悪化要因です。土台の生活習慣を整えることが、そのまま心不全予防につながります。
  4. 息切れの「変化」に注目。 「以前は上れた坂で息が切れる」「平らな道でも苦しい」「夜、横になると咳や息苦しさが出る」といった変化は受診のサインです。
  5. 自己判断で水分や塩分を極端に制限しない。 適切な量は状態によって異なります。制限が必要かどうかは主治医に確認しましょう(当院の関連記事もご参照ください)。

受診の目安

次のような場合は、一度かかりつけ医や内科・循環器内科にご相談ください。

  • 以前より息切れしやすくなった足やすねのむくみが続く
  • 急な体重増加(数日で2〜3kg以上)がある
  • 横になると咳・息苦しさが出て、起き上がると楽になる
  • 健診で心電図・血圧・心臓の所見に指摘があった
  • すでに高血圧・糖尿病・弁膜症などで通院中で、体調の変化が気になる

なお、強い胸の痛みや締めつけ、安静にしても治まらない激しい息切れ、意識がもうろうとするといった場合は、ためらわず救急要請(119番)をご検討ください。

まとめ

今回の国際的な定義改訂が教えてくれるのは、心不全は「こわい病気」と身構えるより、早く気づいて上手につきあうことが大切であり、適切に対応すれば良くなることもあるという前向きな視点です。EFという一つの数字だけにとらわれず、症状・検査・原因を合わせて総合的に見る——これは私たち循環器内科が日々大切にしている考え方でもあります。

※本記事は一般的な健康情報の提供を目的としたもので、特定の検査・治療や服薬を推奨・指示するものではありません。今回ご紹介した文書は診断・分類の枠組みを整理した国際的な合意であり、個々の治療方針を定めるものではありません。服薬の変更やサプリの開始・中止は自己判断せず、必ず主治医にご相談ください。

当院で相談できること

医療法人グロース 桂川さいとう内科循環器クリニックでは、一般内科・循環器内科・腎臓内科の立場から、心不全の早期発見、心エコー・血液検査(BNP/NT-proBNP)による心臓のチェック、高血圧・糖尿病・脂質異常症などの生活習慣病、健診後のフォローなどのご相談をお受けしています。「最近、息切れやむくみが気になる」「健診で心臓を指摘された」という方も、どうぞお気軽にご相談ください。

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引用文献・参考サイト


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