ニュース概要
千葉大学と順天堂大学などの研究グループは、肺高血圧症で肺の血管が狭く、硬くなっていく過程に「MYL9/12」というタンパク質が関わる可能性を報告しました。低酸素状態になると、血小板や異常な肺血管内皮細胞からMYL9/12が放出され、肺の細い血管にできる微小な血栓へ集まり、炎症や血管壁が厚くなる変化を促すという内容です。
肺高血圧症のマウスへMYL9/12の働きを抑える抗体を投与したところ、微小血栓、炎症、血管壁の変化が軽減し、血流が改善しました。また、患者さんの血液ではMYL9濃度と病気の重症度に相関がみられました。
ただし、これは新薬の承認や、人での治療効果を示す臨床試験ではありません。抗体による改善は主にマウスで確認された段階で、血中MYL9も一般診療で肺高血圧症を診断できる検査として確立したものではありません。「新しい治療の手がかりが見つかった」という位置づけで受け止めることが大切です。
出典
研究ニュース:千葉大学大学院医学研究院・医学部「難治性疾患『肺高血圧症』の新たな治療標的を同定~血管構造の悪化を引き起こすタンパク質『MYL9/12』~」(2026年7月2日)千葉大学の研究発表を読む
原著論文:Kuriyama S, et al. Hypoxia-Induced Epas1-Myl9/12 Axis Shapes the Pathology of Pulmonary Hypertension. Circulation Research. 2026. PubMedで論文情報を確認する
一般向け参考資料:日本循環器学会「患者さんのための肺高血圧症に関するガイドライン サマリー」学会のお知らせを読む
医学的背景
肺高血圧症は「肺の空気圧」や一般的な高血圧とは別です
肺高血圧症は、心臓から肺へ血液を送る肺動脈の流れが悪くなり、肺動脈の圧が高くなる病気の総称です。腕で測る血圧が高い「高血圧」とは、測っている場所も病気の仕組みも異なります。肺の血管が狭くなったり詰まったりすると、右心室は強い力で血液を押し出さなければならず、進行すると右心不全につながります。
原因は一つではありません。肺動脈そのものの病気、左心系の心不全や弁膜症、肺疾患や低酸素、慢性の肺血栓塞栓症など、さまざまな病態が含まれます。そのため、症状だけで「肺高血圧症」と決めることはできず、心エコーなどの検査を組み合わせ、必要に応じて専門施設で右心カテーテル検査を行って分類と重症度を判断します。国立循環器病研究センターの解説
MYL9/12は何をしているのでしょうか
MYL9/12はミオシン軽鎖と呼ばれるタンパク質の仲間です。今回の研究では、低酸素に反応した血小板や、異常に増殖した肺血管内皮細胞から細胞外へ放出され、肺血管内の微小血栓にたまる様子が確認されました。そこへ炎症に関わる細胞が集まり、血管壁が厚くなる「血管リモデリング」を後押しする可能性が示されています。
血管が厚く狭くなるとさらに血液が流れにくくなり、局所の低酸素が進みます。今回の研究は、低酸素、微小血栓、炎症、血管リモデリングが悪循環をつくる過程にMYL9/12が関わるという見方を提示しました。
「抗体で改善」は、そのまま新しい治療が使えるという意味ではありません
MYL9/12を抑える抗体で肺高血圧症モデルマウスの状態が改善したことは、新しい治療候補を考えるうえで重要です。しかし、マウスと人では病態や薬の効き方、安全性が異なります。人で使うには、抗体の投与量、標的以外への影響、出血や免疫への作用、長期安全性などを調べ、段階的な臨床試験を行う必要があります。
患者さんの血中MYL9濃度と重症度の相関も、「MYL9を測れば診断できる」「数値を下げればよい」と証明したものではありません。別の集団で再現できるか、既存検査より診断や経過観察に役立つかを今後確認する必要があります。
既存の当院記事との違い
当院では2025年2月に、肺高血圧症の原因・症状・治療を広く紹介する記事を掲載しました。今回の記事は疾患総論の繰り返しではなく、MYL9/12を介した新しい病態仮説と、研究成果をどこまで日常診療へ当てはめてよいかを中心に解説しています。現時点の診療がこの抗体へ置き換わるものではなく、すでに治療中の方が薬を自己判断で変更する理由にもなりません。
日常生活で気をつけたいポイント
- 以前は上れた階段や坂道で息切れする、歩く速度が落ちたなどの変化を「年齢のせい」と決めつけないようにしましょう。
- 息切れが出た状況、続いた時間、動悸・胸痛・めまい・失神・むくみの有無をメモすると、受診時の手がかりになります。
- 高血圧、脂質異常症、糖尿病などの生活習慣病がある方も、腕の血圧が良好だから肺の血管も問題ないとは限りません。定期診療を続けましょう。
- 肺高血圧症で治療中の方は、塩分、水分、運動量、酸素療法などを自己判断で変えず、専門医の指示に従ってください。
- ネットで見た研究中の抗体や検査を個人で試そうとせず、現在の治療を中断しないことが重要です。
受診の目安
次のような変化が続く場合は、一般内科または循環器内科へ相談してください。
- 階段や坂道、平地の歩行で以前より息切れしやすい
- 動悸、胸の圧迫感、強い疲れやすさがある
- 両足のむくみ、急な体重増加、腹部の張りがある
- 息切れのため日常の動作を途中で休むことが増えた
強い息苦しさ、胸痛、失神、唇が青紫になる、血を吐く、意識がもうろうとするといった症状は緊急性があります。様子を見続けず、救急要請を検討してください。
当院で相談できること
医療法人グロース 桂川さいとう内科循環器クリニックは、京都市西京区下津林南大般若町37番地 リペアス下津林2Fにある一般内科・循環器内科・腎臓内科のクリニックです。
息切れ、動悸、胸痛、むくみなどの症状を確認し、心不全、不整脈、狭心症、肺の病気、貧血なども含めて初期評価を行います。肺高血圧症が疑われ、専門的な検査や治療が必要な場合は、適切な専門医療機関と連携します。高血圧、脂質異常症、糖尿病などの生活習慣病についても、全身の血管リスクをまとめて相談できます。
阪急桂駅、JR桂川駅、洛西口、桂川エリアからアクセスしやすく、駐車場とWEB予約に対応しています。診療内容は循環器内科のご案内と一般内科のご案内をご覧ください。所在地や交通手段はアクセスページ、受診をご希望の方はWEB予約をご利用いただけます。
まとめ
肺高血圧症でMYL9/12が微小血栓、炎症、血管リモデリングに関わるという研究は、病気の仕組みを理解し、新しい治療や検査を開発するための一歩です。一方、抗体治療はマウス研究の段階で、血中MYL9も一般診療で使える検査ではありません。
新しい研究へ期待しつつ、今できる最も大切なことは、続く息切れ、失神、むくみなどを放置せず、適切な診断につなげることです。すでに治療中の方は、研究ニュースを理由に薬や生活上の指示を自己判断で変更しないでください。
※この記事は一般的な情報提供を目的としています。個別の診断・治療は、診察のうえで医師にご相談ください。

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