ある日、健診結果が届いて…
5月の連休明け。封を開けた健診結果に、こう書かれていた。
「心電図:要精査」
「不完全右脚ブロックあり」
「ST-T変化」
「サドルバック型ST上昇の疑い」
──血圧やコレステロールは大丈夫だった。なのに、なぜか「心電図」のところだけ、見たことのない言葉が並んでいる。
「これって、危ないやつ?」
「お父さんも同じこと書かれていたけど、結局放置しちゃってる…」
外来でも、5月から夏にかけて、こうした健診結果を持ってご相談に来られる方がぐっと増えます。
実は、健診の心電図異常には、ほうっておいて大丈夫なものから、命にかかわる病気の入り口まで、幅広いパターンがあります。
今日はそれを、循環器内科の立場で5つのパターンに整理してお伝えします。
まず結論:3行で
- 心電図異常には「ほうっておいてOK」「様子見でいい」「すぐ受診すべき」の3レベルがある
- 3つのサイン(失神、家族の突然死、強い動悸)があれば何があってもすぐ受診
- 一番怖いのは「放置」。10分の精密検査で安心できることがほとんどです
Q1. なぜ健診で「心電図異常」と言われやすいの?
A. 健診の心電図は“安静時の十数秒”を切り取った断片だからです。
人の心臓は、24時間ずっと動いていて、そのリズムは姿勢・呼吸・気分・体温で常に揺れています。
健診で記録されるのは、そのほんの十数秒だけ。
- たまたまそのタイミングで揺れたリズムが、機械に「異常」と判定される
- 体型・性別・年齢で生まれつき出やすい「個性」がある
- まったく問題ない「正常変異」もたくさんある
だから、「異常あり」と書かれた人の多くは、実は元気な人です。
ただし、その中に“ほうっておいてはいけない人”が混じっている。それを見分けるのが循環器内科の仕事です。
Q2. 一番多い5つのパターンと、その意味は?
① 不完全右脚ブロック(ふかんぜん うきゃくブロック)
判定の重さ:★☆☆(ほうっておいてOKなことが多い)
健診で一番よく書かれる異常です。
心臓の電気の通り道のひとつ(右脚)が、すこしゆっくり信号を伝えるパターン。
- 若い男性や、痩せ型の方によく見られます
- ほとんどの場合、生まれつきの個性
- 単独であれば、そのまま様子見でOK
ただし、動悸・失神・息切れがある場合や、心エコーで心臓に変化がある場合は別。一度ご相談ください。
② ST-T変化(エスティーティーへんか)
判定の重さ:★★☆(要精査が多い、原因を見極める)
「ST」と「T」は、心臓の筋肉が酸素や栄養を受け取る休息のフェーズを表す波です。
ここが変化していると、考えられる原因は幅広いです。
- 心筋への血流が足りない(狭心症・虚血性心疾患)
- 高血圧で心臓が厚くなっている(心肥大)
- 電解質バランスの乱れ(低カリウムなど)
- 自律神経のゆらぎ、体型による“非特異的な変化”
胸の痛み・息切れ・坂道や階段でつらいなどの症状があれば、できるだけ早くご相談ください。
症状がない場合でも、運動負荷心電図や心エコーで原因を見ておくと安心です。
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③ PQ短縮(ピーキューたんしゅく)/WPW症候群の疑い
判定の重さ:★★☆(動悸があれば要相談)
心房から心室に、通常より早道で電気が流れているパターン。
WPW症候群という名前のついた状態の入り口です。
- 突然始まって突然止まる激しい動悸がある方は、ぜひご相談を
- 動悸がない方は経過観察でいいことが多い
- 発作性の頻拍を起こすと、息苦しさ・冷や汗・失神を伴います
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④ サドルバック型ST上昇/ブルガダ症候群の疑い
判定の重さ:★★★(必ず一度は循環器で精査)
馬の鞍(saddleback)のような形のST波の上昇を指します。
ブルガダ症候群という、ごく稀に突然死の原因になる病気の心電図サインの一つです。
- 一般人で見つかること自体は珍しくない
- ただし家族に若くして突然死した方がいる場合、リスクが上がります
- 失神したことがある方は、必ず精密検査を
健診で指摘された場合、ほとんどは無症状で経過観察で済みますが、一度は循環器内科でフォローするのが鉄則です。
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⑤ 心房細動(しんぼうさいどう)
判定の重さ:★★★(必ず受診)
心房という心臓の上の部屋が、ばらばらに痙攣する不整脈です。
日本国内に100万人以上の患者さんがいる、もっとも頻度の高い「治療すべき不整脈」です。
- 動悸が強いタイプもあれば、無症状で見つかるタイプも
- 一番怖いのは脳梗塞(心臓内にできた血の塊が脳に飛ぶ)
- 適切な薬と治療で、脳梗塞は大きく予防できます
健診で初めて指摘された方は、できるだけ早めにご相談ください。
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Q3. ぜったいに見落としてはいけない「3つのサイン」
健診の文字だけで判断せず、この3つに1つでも当てはまるなら、即受診でお願いします。
サイン1:失神したことがある
意識を失って倒れたことが過去にあれば、それが心臓性の可能性があります。
特に「前触れなく、突然」「運動中・水泳中」「横になっていたのに」起きた失神は要注意。
サイン2:家族に若くして突然死した人がいる
40〜50代以前に、原因不明で亡くなった親・兄弟・親戚がいる場合は、遺伝性の不整脈を考えます。
ブルガダ症候群、QT延長症候群、肥大型心筋症など、家族歴が手がかりになります。
サイン3:強い動悸・息切れが「突然始まって突然止まる」
ふつうの動悸(運動後、緊張時)は、徐々に強くなって徐々に治まります。
突然・スイッチが入るように始まる動悸は、不整脈の可能性が高くなります。
Q4. 受診したら、どんな検査をするの?
健診の心電図1枚だけでは判断しきれないので、必要に応じて以下を組み合わせます。
| 検査 | 何を見る? | 所要時間 |
|---|---|---|
| 詳細な12誘導心電図 | 健診より精度の高い波形を再確認 | 5分 |
| 24時間ホルター心電図 | 1日中の脈・不整脈を全部記録 | 装着10分 + 翌日返却 |
| 心エコー(心臓超音波) | 心臓の動き・弁・厚みをリアルタイムで | 20〜30分 |
| 運動負荷心電図 | 運動中の心臓の反応を見る | 30分 |
| 加算平均心電図 | 微小な異常を検出(不整脈リスク評価) | 10分 |
| 遺伝性疾患の問診・家族歴 | ブルガダ・QT延長などの確認 | 10分 |
ほとんどの方は、これらの一部を組み合わせて1〜2回の通院で結論が出ます。
Q5. 健診結果を持っていくとき、どう準備する?
スムーズな診療のために、ぜひ以下を持参してください。
- 健診結果用紙(できれば過去2〜3年分)
- 飲んでいるお薬の一覧(おくすり手帳)
- 家庭血圧の記録があれば
- スマートウォッチの心拍データがあれば
- ご家族の病歴(特に若くして亡くなった方)
❓ よくある質問(FAQ)
Q. 「異常あり」と書かれていますが、症状はゼロです。それでも受診すべき?
A. パターン①(不完全右脚ブロック)単独なら様子見でもよいですが、②〜⑤は一度は循環器の目で見ておくことをおすすめします。10〜30分の検査で安心できます。
Q. 毎年同じ「異常」と書かれていますが、いつも放置しています
A. 状態が毎年同じであれば、それは「あなたにとっての正常」である可能性が高いです。ただし1度は精査を受けて「これは経過観察でいい」と確認しておくと、以後の心配が消えます。
Q. 「サドルバック型ST上昇」とだけ書かれて怖いです
A. 単独ならほとんどが経過観察で済みますが、家族の突然死歴、失神歴があれば必ず受診を。詳しい検査と、必要なら遺伝相談まで対応します。
Q. 心房細動と言われました。すぐ受診しないとダメですか?
A. はい、できるだけ早くお願いします。ご本人に症状がなくても、脳梗塞のリスク評価と予防が必要です。
Q. 健診と当院の心電図、結果が違うことはあるの?
A. あります。姿勢・呼吸・タイミングで心電図は揺れるため、別日に撮ると違う波形が出ることはよくあります。詳しい検査で「本当の状態」を見極めます。
こんな方は、ぜひ一度ご相談ください
- 健診で「心電図要精査」「ST-T変化」「右脚ブロック」「PQ短縮」「サドルバック型ST上昇」と書かれた方
- 動悸・息切れ・胸の痛み・失神の経験がある方
- ご家族に若くして亡くなった方がいる
- スマートウォッチで「心房細動の疑い」と通知が出た方
- 去年と今年で健診の心電図所見が変わった方
まとめ──「異常」と書かれた紙を、ひとりで抱えないでください
- 健診の心電図異常には、ほうっておいてOK/様子見でいい/すぐ受診すべきの3レベルがある
- 一番頻度が高いのは不完全右脚ブロックで、多くは様子見でOK
- ただしST-T変化・PQ短縮・サドルバック型ST上昇・心房細動は一度は精査を
- 失神/家族の突然死/突然始まる強い動悸があれば、何があってもすぐ受診を
- 10〜30分の検査で「これは大丈夫」と分かれば、それからの毎日がぐっと楽になります
健診結果の紙を、ひとりで抱え込まないでください。
「異常」の中身を一緒に翻訳して、必要な準備をするのが、私たち循環器内科の仕事です。
当院でできること
桂川さいとう内科循環器クリニックでは、
- 健診で指摘された心電図異常の精密検査(12誘導心電図、ホルター、心エコー、運動負荷など)
- 心房細動・不整脈の精査と治療
- ブルガダ症候群の専門相談(家族歴の聴取・経過観察)
- スマートウォッチの記録の読み取り
- 同日中に心エコー・ホルター装着まで完結できる体制
を提供しています。
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参考

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