〜SHIONOGI Web Conference(2025年5月22日)より〜
2025年5月22日、塩野義製薬主催のWeb講演会に参加しました。登壇されたのは、大阪公立大学の掛屋弘先生と、長崎大学の髙園貴弘先生。COVID-19はひとまず落ち着いた印象があるなかで、「いま、あえてこのテーマを取り上げる意義」と「臨床での実際」を丁寧に解説いただきました。
本稿では2つの講演を要約しながら、私なりの解釈も交えて紹介します。
🧬【講演①】掛屋 弘 教授
テーマ:COVID-19の現状と課題
🔷 1. ワクチンと抗ウイルス薬、両者の併用が重要
掛屋先生はまず、「ワクチンを打っただけ、または治療薬だけでは不十分」という点をデータで示されました。実際、両方を受けた人がもっとも重症化率が低かったとされ、予防と治療の“二本柱”が重要であると強調されました。
🔷 2. ワクチン接種率の低下が示す課題
現在、ワクチン接種率(特に65歳以上)15%程度と低迷。背景には、副反応への懸念や2024年4月以降の自己負担増(約15,000円)も影響しているとのこと。国民の「もういいかもしれない」という空気感が、接種行動に表れていると考察されていました。
特に重要なのは、重症化リスクの高い層(高齢者・基礎疾患・免疫抑制状態)では、ワクチンによる予防は今も重要な“盾”だという点でした。
🔷 3. 抗ウイルス薬の選択と投与率の低さ
抗ウイルス薬は、発症後なるべく早期(3〜5日以内)に投与することで、ウイルスの増殖を抑え、重症化や長期的な後遺症のリスクを減らせるという目的があります。
ところが、自己負担が3割となって以降、処方率は10〜15%程度と大幅に低下。薬の存在を知らない、費用の問題、副作用への不安など、さまざまな要因があるようです。
🔷 4. 外来での実践例:インフォームドコンセントの工夫
大阪市内の中浜医院では、患者に抗ウイルス薬の効果・副作用・費用を2〜3分で説明した後、3〜5分考えてもらうスタイルを導入。その結果、有料化後でも希望率は56%に達しているとのこと。患者との“対話”が、治療選択に大きく影響することがよくわかる事例でした。
💊【講演②】髙園 貴弘 教授
テーマ:COVID-19に対する抗ウイルス薬投与の意義
🔷 1. 治療薬の目的:症状緩和ではなく「ウイルス量の低下」
抗ウイルス薬の目的は、発症のピークを越えてからの症状緩和ではなく、早期にウイルス量を減らし、結果として重症化や他者への感染リスクを減らすこと。その点で、感冒薬などとは根本的に目的が異なります。
🔷 2. 高リスク患者層の定義
- 高齢者(特に75歳以上)
- 免疫不全患者(HIV、化学療法中など)
- 未接種者
- 透析患者・腎機能障害者
これらの方々は、インフルエンザよりもはるかに高い死亡率が報告されており、抗ウイルス薬の投与が真に意味を持つ集団です。
🔷 3. 各薬剤の特徴とエビデンス
薬剤 | 特徴・主な知見 |
---|---|
パキロビット | 高リスク群にて入院率を77%減少(リスク比0.22) |
モルヌピラビル | 香港のリアルワールドデータで死亡率40~50%減 |
エンシトレルビル | 日本初の国産薬。ウイルス量の劇的な減少(-1.56)をRCTで確認 |
🔷 4. 後遺症にも関係?
長引く倦怠感やブレインフォグなど、いわゆる“Long COVID”に対しても、初期に抗ウイルス薬を使った群では発症率が低かったとのエビデンスが蓄積されつつあるとのことでした。
🧭 今後に向けて
現時点で大流行は落ち着いたものの、COVID-19は消えたわけではありません。また、高齢者や免疫不全患者にとっては、依然として重篤化し得る疾患です。
✅ 印象に残った学び
- 抗ウイルス薬は“治す薬”というよりも「防波堤」の役割
- 高齢者にはワクチン+治療薬の“セット”が重要
- データと経験に基づいた医療のバランスを取ることが求められている
✍ まとめ:今後も学びを深めていきます
COVID-19をめぐる医療体制も薬剤も、数年で大きく変化してきました。流行が収まりつつある今だからこそ、冷静に振り返り、次に備えることの大切さを感じた講演会でした。
抗ウイルス薬やワクチンの進化、現場での実践事例など、医療者として知っておくべき知識はまだまだ多いと実感しています。これからも引き続き、エビデンスと現場の声を学びながら診療に活かしていきたいと思います。
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