はじめに
「血圧や体重に気をつけましょう」「適度な運動を」──こうしたアドバイスは、心臓や血管の病気を防ぐためのもの、というイメージが強いかもしれません。
ところが、日ごろの“心臓にやさしい生活習慣”が、実は新型コロナ(COVID-19)の重症化を防ぐことにもつながっていたかもしれない、という興味深い研究が、2026年5月27日に米国心臓協会(AHA)の医学誌 Journal of the American Heart Association(JAHA) で報じられました。
カギとなるのは、米国心臓協会が提唱する 「Life’s Essential 8(ライフズ・エッセンシャル・エイト)」 という、心臓の健康を測る8つのものさしです。今日は、この研究をきっかけに、「生活習慣がなぜ感染症にも効くのか」「8つの習慣とは何か」を、循環器内科の視点からやさしくご紹介します。
今日のニュース
どんな研究だったの?
研究チームは、心血管疾患(心臓・血管の病気)がない約29,740人(平均年齢66歳、女性が61%)を対象に、パンデミックが始まったころ(2020年3月時点)の“心臓の健康度”を調べ、その後の新型コロナによる重症化(入院または死亡)との関係を分析しました。これは、パンデミック前から多くの人を追跡していた米国の14の研究を集めた「C4R」という大規模なデータをもとにしたものです。
心臓の健康度は、米国心臓協会の 「Life’s Essential 8」 という指標で点数化しました。これは後でくわしくご説明しますが、食事・運動・たばこ・睡眠・体重(BMI)・血圧・コレステロール・血糖という8つの要素を点数にしたものです。
わかったこと
解析の結果、次のことが報告されています。
- 心臓の健康度スコアが最も高いグループ(80〜100点)は、最も低いグループ(50点未満)に比べて、新型コロナで入院・死亡するリスクが約46%低い結果でした。
- スコアが14点上がるごとに、重症化リスクが約20%ずつ低くなっていました。
- とくに、運動量が多い・適正体重・血圧が良好・睡眠が整っているという4つの要素が、それぞれ単独でも重症化リスクの低さと関連していました。
- この“心臓の健康度が高いほど重症化しにくい”という傾向は、年齢・性別・人種・ワクチン接種の有無にかかわらず、おおむね共通してみられました。
研究の中心となったTim Plante医師(米バーモント大学)は「もし社会全体の心臓の健康がもっと良かったなら、新型コロナによる甚大な影響を減らせた可能性がある」と述べています。
なぜ“心臓の健康”が感染症にも効くの?
上席著者のElizabeth Oelsner医師(米コロンビア大学)は、こんなたとえで説明しています。
「ウイルス感染は、いわば“管理されていない心臓の負荷テスト(ストレステスト)”のようなものです。」
つまり、感染症で体に大きな負担がかかったとき、普段から心臓や血管・全身のコンディションが整っている人ほど、その“負荷”に耐えやすい、ということです。日々の健康づくりが、いざというときの“予備力”になってくれる、というイメージですね。
「Life’s Essential 8」── 心臓を守る8つの生活習慣
今回の研究で使われた、米国心臓協会の8つのものさしをご紹介します。どれも、私たち循環器内科が日ごろお伝えしている内容と重なります。
- バランスのよい食事(野菜・果物・全粒穀物・魚などを中心に)
- 適度な運動(成人は週に合計150分ほどの中等度の運動が目安)
- たばこを吸わない
- 質のよい睡眠(毎晩しっかり眠る)
- 適正な体重(BMIを健康的な範囲に)
- 良好な血圧
- 良好なコレステロール(脂質)
- 良好な血糖
「8つも?」と身構えてしまうかもしれませんが、ひとつひとつは、私たちが健診や外来でくり返しお話ししている、なじみのある項目ばかりです。
患者さんに知っておいてほしいポイント
- これは“観察研究”です。 大規模で説得力のある結果ですが、観察研究という性質上、「心臓の健康が良いから重症化しなかった」という因果関係を断定するものではありません。あくまで“強い関連”が示された、という段階です。
- 生活習慣は、年齢を問わず“今からでも”積み重ねられます。 8つすべてを完璧にする必要はありません。「まず歩く時間を増やす」「夜ふかしを減らす」など、できることから一つずつで十分です。
- 感染症対策として、ワクチンの役割も忘れずに。 この研究に関わった専門家も、特に高齢の方・心臓の健康度が低い方・心臓病のある方では、合併症を防ぐためのワクチン接種の大切さを強調しています。生活習慣の改善とワクチンは、どちらか一方ではなく“両方”が大切です。
- 血圧・コレステロール・血糖は、自覚症状がないまま進むことがあります。 健診や定期受診で数値を把握しておくことが、心臓の健康度を高める第一歩です。気になる数値があれば、自己判断せずご相談ください。
まとめ・当院からのメッセージ
今回ご紹介した研究は、「パンデミック前の心臓の健康度が高かった人ほど、新型コロナで重症化しにくかった」という、生活習慣の力をあらためて感じさせてくれる報告でした。心臓を守る8つの習慣「Life’s Essential 8」は、心臓・血管の病気を防ぐだけでなく、感染症をはじめとした“体への思わぬストレス”に立ち向かう予備力にもつながる可能性があります。
とはいえ、これは観察研究であり、「生活習慣さえ整えればコロナは怖くない」というものではありません。バランスのよい食事・適度な運動・禁煙・十分な睡眠・血圧と血糖と脂質の管理という地道な積み重ねに加えて、必要なワクチン接種を組み合わせることが、ご自身を守る確かな備えになります。
「血圧やコレステロールの数値が気になる」「運動や食事を見直したいけれど、何から始めればいいかわからない」──そんなときは、ぜひ当院にお声がけください。お一人おひとりの体質や生活に合わせて、無理なく続けられる方法を一緒に考えていきます。 自己判断でのお薬の中断はせず、まずは気軽にご相談ください。
参考・引用元
- American Heart Association Newsroom「Did heart health impact the risk of severe COVID-19 infection during the pandemic?」(2026年5月27日公開): https://newsroom.heart.org/news/did-heart-health-impact-the-risk-of-severe-covid-19-infection-during-the-pandemic
- 原著論文(Journal of the American Heart Association, 2026): https://www.ahajournals.org/doi/10.1161/JAHA.125.048256
- 米国心臓協会「Life’s Essential 8」解説ページ: https://www.heart.org/en/healthy-living/healthy-lifestyle/lifes-essential-8

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