研究

腕時計で血圧を測れる日は近い?最新研究と「家庭血圧」の基本

ニュース概要

腕に巻くカフ(空気袋)を使わず、腕時計のような機器で血圧や血流を連続的に推定する研究が報告されました。米ユタ大学などの研究グループは、手首で測る電気的な信号と、血液の流れに関する物理モデル、AIを組み合わせる方法を開発し、健康な人だけでなく高血圧や循環器疾患のある人を含む検証を行いました。

腕時計で日中や睡眠中の変化まで把握できれば便利に見えます。しかし、この報告は「家庭で使う腕時計が、上腕式血圧計の代わりになる」と示したものではありません。研究段階の技術であり、測定の精度、長期の安定性、さまざまな年齢・体格・不整脈をもつ人での検証、医療機器としての承認など、確認すべき点が残っています。

医学的背景

なぜ「腕帯なし」の血圧測定が注目されるのでしょうか

血圧は一日の中でも、活動、食事、睡眠、緊張、暑さ、飲酒などで変動します。診察室で一度だけ測る値だけでなく、普段の状態に近い家庭血圧を知ることは、高血圧の診断や治療の調整に役立ちます。

この研究では何を測っているのか:電気インピーダンス(BioZ)

今回の機器は、血圧そのものを手首で直接測っているわけではありません。時計の裏側にある4個の電極から非常に小さな交流電流を流し、そのとき皮膚の表面で生じる電圧の変化を測ります。電流の流れにくさを「電気インピーダンス(BioZ)」といい、ここでは抵抗成分と、交流に対する遅れを表すリアクタンス成分の、拍動に伴うごく小さな変化を利用します。

心臓が収縮するたびに、手首の橈骨動脈では血液量が増え、血管の太さもわずかに変わります。血液は周囲の皮膚・脂肪・筋肉とは電気の通しやすさが異なるため、動脈の血液量や血液の電気伝導性が変化すると、手首で測るBioZの波形も拍動に合わせて変わります。つまり、時計が読んでいるのは「血圧の数字」ではなく、血圧に伴って変わる血管内の状態を反映した電気信号です。

電気信号から血圧へ:物理モデルとAIの役割

電気信号だけでは、血圧を一意に決められません。同じようなBioZ波形でも、血管の太さや硬さ、皮下脂肪の厚さ、電極の位置や押さえる強さ、皮膚の状態、脈拍、血液の成分などで変わりうるためです。

そこで研究チームは、次の3段階をつなげています。

  1. 血圧→血管と血流の変化:血圧の波が上腕から手首へ伝わる過程を、血管壁が弾性をもつ管であることも含めた流体力学の式で表します。
  2. 血管と血液の変化→電気の通りやすさ:血管の半径、血液量、赤血球の向きや変形、血液の伝導性が、電気信号へどう影響するかをモデル化します。
  3. 手首のBioZ波形→血圧波形の推定:測定したBioZと上の物理的な制約を、AI(物理法則を組み込んだニューラルネットワーク)に同時に与え、あり得ない血流・血圧の組み合わせを抑えながら、収縮期・拡張期を含む血圧波形を推定します。

この方法の狙いは、脈波の形だけを大量データから学ぶ「ブラックボックス」型の推定よりも、体の仕組みに合わない答えを出しにくくすることです。原著論文では、手首の表面信号へ至る過程を、血流の方程式、弾性をもつ血管壁の力学、電気の方程式で結び付けています。原著論文の方法を確認する

なぜ実用化にはなお検証が必要なのか

この仕組みは有望ですが、実生活では測定条件が大きく揺れます。時計の位置が数ミリずれる、腕を動かす、接触圧が変わる、脱水・気温・体重変化などで手首の状態が変わるだけでも、BioZの基準値は影響を受けます。研究チーム自身も、今回の長期パイロットでは日ごとの再較正が必要だったこと、家庭や病棟での実地検証、より大規模で多様な参加者による検証が今後必要であることを示しています。

したがって、今回の報告は「腕時計の一表示で診断や薬の調整をする段階」ではなく、連続モニタリングを目指す測定原理の実現可能性を示した研究と理解するのが適切です。単に脈の波形だけから推測する方法より、体の仕組みに沿って計算しようとした点が特徴ですが、研究で精度が示されたことと、日常診療でそのまま使えることは別です。

いま家庭で頼りにするなら上腕式が基本です

日本高血圧学会は、家庭血圧には原則として上腕で測る自動血圧計を勧めています。手首式は腕の位置による影響を受けやすく、腕時計型やカフなし機器についても、表示値だけで降圧薬を増減・中止することは避ける必要があります。

家庭血圧は、起床後1時間以内でトイレを済ませ、朝食や服薬の前に、椅子に座って1〜2分静かにしてから測るのが基本です。夜も就寝前の落ち着いた時間に測り、1回だけの数字で一喜一憂せず、記録を診察時に共有しましょう。測定法の詳しい案内は、日本高血圧学会の家庭血圧測定ガイドも参考になります。

既存の「ウェアラブル」記事との違い

当院では腕時計が不整脈や心停止の兆候に役立つ可能性を扱った記事も掲載していますが、今回の話題は「腕時計が病気を診断する」ことではなく、血圧を連続的に推定する測定技術の研究です。どちらも便利な機器に見えても、症状や正確な血圧評価を置き換えるものではありません。

日常生活で気をつけたいポイント

  • 家庭血圧計は、できれば上腕式を選び、腕の太さに合うカフを使いましょう。
  • 朝・晩など同じ条件で測り、日付、値、脈拍、気になった症状を記録しましょう。
  • 暑い時期は脱水や体調不良で血圧が下がることもあります。ふらつきが続く場合でも、自己判断で薬を止めずに相談してください。
  • スマートウォッチなどの表示は健康管理の参考にできますが、異常表示だけで病気を確定したり、正常表示だけで症状を放置したりしないことが大切です。

受診の目安

繰り返し高い値が出る、家庭血圧の記録が安定しない、動悸・息切れ・胸の痛み・むくみ・強い頭痛などがある場合は、一般内科または循環器内科へ相談してください。急な強い胸痛、息苦しさ、冷や汗、ろれつが回らない・片側の手足が動かしにくい症状があるときは、血圧の再測定にこだわらず救急要請を検討してください。

当院で相談できること

医療法人グロース 桂川さいとう内科循環器クリニックは、京都市西京区下津林南大般若町37番地 リペアス下津林2Fにある一般内科・循環器内科・腎臓内科のクリニックです。高血圧、脂質異常症、糖尿病などの生活習慣病から、動悸、息切れ、胸痛、不整脈、心不全までご相談いただけます。

桂川、桂、洛西口エリアから通いやすく、駐車場とWEB予約に対応しています。血圧計の選び方・測り方や記録の見方も、循環器内科の診療案内一般内科の診療案内を踏まえ、個々の生活や治療内容に合わせて一緒に確認します。受診をご希望の方はWEB予約をご利用ください。

まとめ

腕時計型の腕帯なし血圧モニターは、将来の血圧管理を変える可能性がある研究テーマです。一方で、現時点で毎日の判断に最も役立つのは、上腕式血圧計で条件をそろえて測った家庭血圧の記録です。新しい機器の数字も、症状と記録を合わせて医療者と確認し、薬は自己判断で変えないようにしましょう。

出典

ニュース:University of Utah/EurekAlert!「New tech can continuously monitor blood pressure without the pesky cuffs」(2026年6月1日)ニュースリリースを読む

原著論文:Crandall H, et al. Cuffless hemodynamic monitoring with physics-informed machine learning models. Nature Communications, 2026. 論文を読む


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