ニュース概要
先日、当院のブログでは板東英二さんの訃報をきっかけに「慢性心不全」の受け止め方と“悪化のサイン”を解説しました。今回はその続きとして、先日も取り上げた慢性心不全を、もう一歩ふみ込んで深掘りします。前回が「すでに心不全と付き合っている方の悪化サイン」だったのに対し、今回は「まだ診断されていない方が“むくみ・息切れ”から気づき、HFpEFというタイプを診断・治療する」という切り口です。
米国心臓病学会(ACC)は2026年7月、「左室駆出率が保たれた心不全(HFpEF)の管理に関する専門家合意による診療の道筋(Expert Consensus Decision Pathway)」の改訂版を学会誌JACCで公表しました(2023年版を新しい臨床試験の結果をふまえ更新)。
改訂版の特徴は3つ。ひとつは、HFpEFを心臓だけの病気ではなく、内臓脂肪・慢性的な炎症・代謝の乱れが関わる“全身の症候群”としてとらえ直し、患者さんのタイプ(フェノタイプ)ごとに個別化した診療を求めた点。ふたつめは、息切れやむくみといった症状から診断へたどり着くための手順——似た病気との見分け、診断スコア、男女差——を整理した点。みっつめは、SGLT2阻害薬・非ステロイド型MRA(フィネレノン)・GLP-1系(インクレチン製剤)などの治療を早めに始める重要性を示した点です。
夏の暑い時期、京都市西京区・桂川・桂・洛西口エリアでも「足のむくみ」「階段での息切れ」を“年齢や夏バテのせい”と感じている方は少なくありません。しかしその一部には、早めの対応が望まれるHFpEFが隠れていることがあります。本記事では、「気づき→診断→タイプ分類→最新治療」の順に深掘りしていきます。
医学的背景
HFpEF(ヘフペフ)とは──「押し出す力」は保たれているのに苦しい
心臓のポンプには「血液を送り出す力(収縮)」と「血液を受け取ってふくらむ力(拡張)」があります。HFpEFは、送り出す力=駆出率(左室駆出率が50%以上)は保たれているのに、心臓の筋肉が硬くなってうまくふくらめず、血液や水分が体にたまってしまうタイプの心不全です。
ふくらみにくい心臓は、血液を受け取るために内側の圧が高まります。その圧が肺に伝われば息切れ、全身にたまればむくみとして現れます。とりわけ、動いたとき(坂道・階段・家事)に圧が急に上がりやすく、「安静時は平気でも、動くと苦しい」のがHFpEFらしさのひとつ。健診の心エコーで「収縮は問題ない」と言われても安心できないのはこのためです。心不全のタイプ(HFrEF/HFmrEF/HFpEF)で治療の考え方が変わる点は、当院の関連記事でも解説しています。
誰に多い?──背景が重なるほどリスク
HFpEFは、高血圧・糖尿病・肥満(内臓脂肪)・慢性腎臓病・睡眠時無呼吸・心房細動などを背景に、高齢の方や女性に多いことが知られています。2026年のACC指針は、こうした背景の違いによってHFpEFにも“いくつかの顔(タイプ)”があるととらえ、原因に合わせた対応を求めています。
どう診断する
むくみ・息切れの原因は心臓だけではなく、腎臓・肝臓・甲状腺・貧血・薬の影響・静脈の病気などさまざまです。診療では、心電図・心エコー・血液検査(BNP/NT-proBNP)を組み合わせ、診断スコアや、HFpEFに似た別の病気(心アミロイドーシスなど)の可能性も念頭に置いて評価します。動いたときだけ症状が出る方には、負荷をかけた検査を行うこともあります。なお、自己判断で市販の利尿サプリを使ったり処方薬を中断したりせず、まず原因を正しく調べることが大切です。
日常生活で気をつけたいポイント
- 毎日、体重をはかる:数日で1〜2kg以上増えるときは、体に水がたまっているサインのことがあります。
- 足のむくみを見る・押してみる:夕方に両足のすね・甲がむくみ、指で押してへこみが残るときは要注意です。
- 息切れの変化に気づく:坂道・階段で以前より息が切れる、横になると苦しい、夜に咳が出る、などの変化をメモしましょう。
- 背景の病気を整える:高血圧・糖尿病・脂質異常症・肥満・睡眠時無呼吸などの管理が、心臓の負担を減らします。
- 塩分と水分は主治医の指示に合わせる:暑い季節は脱水も心配です。自己流の極端な制限は避け、かかりつけ医に相談を。
受診の目安
- 夕方に足がむくむ、数日で体重が増える、坂道・階段で息が切れる → 一度、循環器内科でご相談ください。
- 片足だけが急に腫れて痛い・熱い → 足の静脈血栓(深部静脈血栓症)の可能性。早めの受診を。
- 安静にしても息が苦しい/横になると苦しくて眠れない/ゼーゼーする → 心臓に水がたまっているおそれ。ためらわず医療機関に連絡してください(救急要請も検討)。
まとめ
「足のむくみ」「息切れ」は、暑さや年齢のせいだけではなく、HFpEFという心不全の入口であることがあります。2026年のACCの新しい指針でも、早期の診断と、心臓・腎臓・代謝をまとめて守る治療の“早めの開始”が強調されました。こわがりすぎる必要はありません。大切なのは、早めに気づいて相談することです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。診断・治療、服薬の変更は自己判断せず、主治医・かかりつけ医にご相談ください。
当院で相談できること
医療法人グロース 桂川さいとう内科循環器クリニックは、京都府京都市西京区下津林南大般若町37番地(リペアス下津林2F)にある一般内科・循環器内科・腎臓内科のクリニックです。阪急桂駅・JR桂川駅・洛西口・桂川エリアからご来院いただけます。むくみ・息切れの原因を、心電図・心エコー・血液検査(BNPなど)で調べ、高血圧・糖尿病・肥満といった背景の病気の管理まで一緒に行います。「これって心臓かな?」と気になる方は、どうぞお気軽にご相談・ご予約ください。
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