健康診断の季節になると、「コレステロールが高めですね」「中性脂肪に印がついていますよ」と言われて、ドキッとされる方が少なくありません。結果票の小さな数字を見て、「すぐに薬かな」「もう手遅れかな」と不安になってしまう——そんな声をよく耳にします。
でも、結論から言えば、印がついたからといってあわてる必要はありません。大切なのは、その数値が何を表しているのかを正しく知り、自分にとって必要な次の一歩を落ち着いて選ぶことです。今日は、健診でよく出てくる脂質の数値について、循環器内科の視点でやさしく整理してみます。
そもそもコレステロールや中性脂肪って何?
コレステロールも中性脂肪(トリグリセライド)も、どちらも体に欠かせない「脂質(しっし=あぶらの仲間)」です。ゼロにすればよいというものではありません。
なかでも健診で注目されるのが次の3つです。
LDLコレステロールは、いわゆる「悪玉」と呼ばれるもの。増えすぎると血管の壁にたまり、動脈硬化(どうみゃくこうか=血管が硬く狭くなる状態)を進める原因になります。HDLコレステロールは反対に「善玉」で、余分なコレステロールを回収してくれる役割があり、低すぎる方が問題になります。そして中性脂肪は、食べすぎ・飲みすぎや運動不足で上がりやすく、これも動脈硬化に関わってきます。
つまり、これらの数値は「いまの血管の負担ぐあい」をそっと教えてくれるサインのようなものなのです。
数値はどこからが「高め」?
日本動脈硬化学会の「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版」では、空腹時の採血をもとに、おおよそ次のように整理されています。
LDLコレステロールは140mg/dL以上で「高い」、120〜139mg/dLは「境界域(けいかいいき=注意が必要な手前のゾーン)」とされます。中性脂肪は空腹時で150mg/dL以上(食後など随時の採血では175mg/dL以上)、HDLコレステロールは40mg/dL未満が、それぞれ注意の目安です。
ここで覚えておきたいのは、これらはあくまで「脂質異常症かどうかを見分けるための線引き」であって、「この数字を超えたら即治療」という意味ではないということです。同じLDL150mg/dLでも、年齢や血圧、血糖、喫煙の有無、これまでに心臓や脳の病気をしたことがあるかどうかによって、血管にかかるリスクは人それぞれ大きく変わります。だからこそ、数値は一つだけを見るのではなく、全体のバランスで考えることが大切なのです。
「久山町スコア」——数字一つではなく、あなた全体で考える
では、リスクを「全体のバランス」で見るとは具体的にどういうことでしょうか。その目安として、いまのガイドラインで使われているのが久山町スコア(ひさやままちスコア)です。
これは、福岡県久山町で60年以上続いている有名な住民健康調査をもとに作られた、リスク計算の仕組みです。年齢・性別・血圧・血糖(糖尿病があるか)・喫煙の有無・コレステロール値といった複数の情報を組み合わせて、「これから10年の間に心筋梗塞や、動脈硬化が原因の脳梗塞を起こす確率」をおおまかに見積もります。
2022年版のガイドラインからこのスコアが採り入れられたのには理由があります。以前使われていた計算法(吹田スコア)は心臓の病気しか見ていなかったのに対し、久山町スコアは脳梗塞も合わせて評価できるためです。日本人の生活実態に近いデータから作られている点も特徴です。
このスコアで10年以内の発症確率がおよそ2%未満なら低リスク、2〜10%なら中リスク、10%以上なら高リスクと分けられ、その人がどのくらいLDLコレステロールを下げた方がよいか(管理の目標)も変わってきます。つまり、同じLDL値でも、低リスクの方と高リスクの方とでは目指す数字が違うのです。「自分はどのあたりなのか」を知ることが、過不足のない対策の第一歩になります。診察では、健診の数値とあわせてこうしたリスクも一緒に確認できます。
印がついたら、まず何をすればいい?
中性脂肪は、前日の食事やお酒、採血が空腹時だったかどうかで大きく変動します。たまたま高く出ることもあるので、一度の結果だけで決めつけないことも大事です。
そのうえで、生活の中でできることはたくさんあります。野菜や魚を中心としたバランスのよい食事、食べすぎ・飲みすぎを控えること、ウォーキングなどの適度な運動を続けること。こうした習慣を3〜6か月ほど続けると、数値が改善してくる方も多くいらっしゃいます。まずは無理のない範囲で、続けられることから始めてみましょう。
まとめ・受診の目安
健診でコレステロールや中性脂肪に印がついても、それは「血管を守るために、いま少し気にかけてみませんか」という体からのメッセージです。あわてず、できることから始めていただければ大丈夫です。
そのうえで、次のような場合は一度医療機関でご相談されることをおすすめします。結果票に「要再検査」「要精密検査」「要受診」と書かれている場合、高血圧や糖尿病など他の項目にも印がついている場合、ご家族に若くして心筋梗塞や脳卒中になった方がいる場合、そしてご自身がこれまでに心臓や血管の病気をされたことがある場合です。こうした方は、生活改善だけでよいのか、治療を考えた方がよいのか、数値の意味も含めて一緒に整理していけます。
「この数字、どう受け止めればいいの?」と迷ったときは、結果票を持って気軽にご相談ください。
本記事は一般的な健康情報の提供を目的としたものであり、個々の診断や治療に代わるものではありません。検査値の評価や治療方針は一人ひとりの状態によって異なります。自己判断で服薬や治療を始めたり中止したりせず、気になる症状や数値があるときは医療機関にご相談ください。
参考・引用元
- 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版(日本動脈硬化学会)
- 脂質異常症診療のQ&A(日本動脈硬化学会)
- 動脈硬化疾患予防ガイドラインについて(同友会メディカルニュース)
- 久山町スコア 2022年版で新採用(HOKUTO/ガイドライン解説)
- 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版 主な改訂点5つ(ケアネット)

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