疾患解説

【人名がついた医療シリーズ 第5回】ホルター心電図――「ホルター」は人の名前だった

おかげさまで大変好評をいただいている「人名がついた病名・治療シリーズ」も、今回で第5回になりました。第1回のブルガダ症候群、第2回の高安動脈炎、第3回の井上バルーン、第4回の川崎病に続き、今回は循環器内科の日常検査、ホルター心電図(Holter monitoring)を取り上げます。

「今日はホルター心電図をつけてみましょう」。診察室でよく使う言葉ですが、この「ホルター」を機械の名前だと思っている方は少なくありません。実はこれは、一人の研究者の名字です。開発者は、アメリカの物理学者 Norman Jefferis Holter(ノーマン・ジェフェリス・ホルター)。そしてこの検査は、当院でも大活躍している検査のひとつです。

ホルター心電図とはどんな検査?

ホルター心電図は、胸に電極を貼って小型の心電計を身につけたまま、通常24時間程度、日常生活を送りながら心電図を記録する検査です。動悸・脈の飛び・めまい・失神など、診察室での短い心電図では捉えにくい“気まぐれな”症状の瞬間を、生活の中で記録できるのが最大の強みです。

この検査の名前の由来となったのが、1914年にアメリカ・モンタナ州ヘレナで生まれた Norman J. Holter先生。意外なことに、彼は医師ではなく、物理学や化学を学んだ研究者でした。1940年代、離れた場所から生体の電気信号を記録する「生体テレメトリー」の研究の中で、歩いている人の心電図を記録する装置を生み出し、のちに携帯型の長時間心電図へと発展させました。開発者の名から Holter monitoring/Holter ECG と呼ばれるようになり、日本でも「24時間心電図」より「ホルター心電図」の呼び名が定着しています。京都市西京区・桂川・桂・洛西口エリアで「動悸がするけれど診察室では正常」と言われた経験のある方にも、身近な検査です。

医学的背景――なぜ「長時間」記録するのか

通常の12誘導心電図は、不整脈・心筋梗塞・心肥大・伝導障害など多くの情報が得られる重要な検査です。しかし弱点は、記録時間が数十秒と非常に短いこと。不整脈は気まぐれで、診察室ではきれいな洞調律なのに、家に帰ると動悸、翌日はまた正常――ということが日常的に起こります。「病院に来たときには治っている」というわけです。

ホルター先生は、短時間の心電図だけで心臓を評価することを、「鉱山技師が、山全体を一つの石だけで評価するようなもの」と例えたと紹介されています。山全体にどんな鉱物があるかを知りたいのに、石を一つ拾っただけでは分からない。心臓も同じで、一日のうち数秒だけ記録して「異常なし」と言っても、一日中何も起きていないとは限らない――この発想が、長時間心電図モニタリングにつながりました。

なお、ホルター心電図で異常が出なかったからといって「絶対に不整脈がない」とは言えません。こうした検査結果の意味づけは自己判断せず、症状の経過とあわせて主治医と相談することが大切です。

「38kgの装置」から「胸に貼るだけ」への進化

ホルター先生が1940年代に作った初期の装置は、被験者が背負う約38kg(約85ポンド)の無線送信機でした。心電図信号を無線で飛ばして記録する方式です。当初は脳波(EEG)の無線記録を試みましたが、脳波は信号が小さく扱いにくいため、比較的信号の大きい心電図へと対象を移していきました。

しかし無線方式では、患者さんが動ける範囲が受信機との距離に制限され、本当の日常生活を記録できません。そこで「その場で全部記録して、あとで解析する」という発想へ転換。磁気テープ式の携帯記録器と高速解析装置の組み合わせが1961年に報告され、臨床に普及していきました。ホルター心電図は単に「小さな心電計を作った」だけでなく、(1)長時間記録する、(2)患者さんが日常生活を送れる、(3)大量の心電図(1日約10万回の心拍)を効率よく解析する――この3つを一つのシステムとして成立させた点に意義があります。現在はデジタル記録器やパッチ型モニターへと進化し、記録期間も数日〜2週間と長くできるようになりました。

日常生活で気をつけたいポイント

  1. 症状が出たら「時刻」と「様子」をメモする……ホルター中に動悸やめまいを感じたら、記録器のイベントボタンを押し、時刻と症状をメモしましょう。「症状のときに何が起きていたか」を心電図と対応づけることが診断の鍵です。
  2. いつも通りの生活を送る……検査中は特別におとなしくする必要はありません。仕事・家事・入浴・睡眠など、普段どおりに過ごすほど、日常の心臓の状態が分かります。
  3. 電極や記録器はできるだけ外さない……かゆみや違和感が強いときは無理をせず、装着方法を医療機関に相談してください。
  4. 「1回で異常なし」でもあきらめない……症状がまれな場合は、より長い期間の記録(長時間モニターやイベントレコーダー)が向いていることがあります。
  5. 気になる症状は記録・共有する……スマートウォッチなどで気づいた脈の乱れも、受診時に医師へ伝えると診療の助けになります。

受診の目安

  • 動悸(急にドキドキする・脈が飛ぶ・突然速くなる)が繰り返すとき
  • めまい・ふらつき・失神があり、脈が遅くなる感覚を伴うとき
  • 夜間や早朝など、決まった時間帯だけ症状が出るとき
  • 「心電図では異常ありませんでした」と言われたが、症状が続いているとき

なお、失神を繰り返す・動悸に強い息切れや胸の痛みを伴う・意識が遠のくといった場合は、緊急の対応が必要なことがあります。ためらわずに医療機関へ、状況によっては救急要請(119番)をご検討ください。

まとめ――「病院の外の心臓」を診るという発想

ホルター心電図の本当のすごさは、「患者さんを機械のところへ連れてくる」のではなく、「機械を患者さんと一緒に生活させた」という発想の転換にあります。歩く・働く・食べる・眠る――その間もずっと動いている心臓を、その状態のまま記録する。これによって「診察室では正常なのに、家では起こっている病気」を捕まえられるようになりました。

そして現在のスマートウォッチやウェアラブル心電図も、「日常生活の中で生体情報を測る」というホルター先生の考え方の延長線上にあります。機械は38kgから数十グラムへ、磁気テープはデジタルへ、解析は人の目からAIへと変わっても、「患者さんの生活の中で起きていることを捉える」という医学の本質は変わりません。次に「ホルター心電図」という言葉を耳にしたら、「これは人の名前だったんだ」と、少し思い出していただければうれしいです。

当院で相談できること

医療法人グロース 桂川さいとう内科循環器クリニックは、京都府京都市西京区下津林南大般若町37番地 リペアス下津林2Fにあり、阪急桂駅・JR桂川駅・洛西口・桂川エリアからお越しいただけます。一般内科・循環器内科・生活習慣病の診療を行っています。

ホルター心電図(長時間心電図)は、当院でもよく行う検査のひとつです。次のような場面でお役に立てます。

  • 動悸・脈の乱れの評価:発作性心房細動・上室性頻拍・期外収縮などが隠れていないかを確認します
  • めまい・失神の評価:徐脈性不整脈や一時的な房室ブロックなどがないかを調べます
  • 症状と心電図の対応づけ:症状を感じた時刻と心電図の変化が一致するかを確認します
  • 記録期間の選択:症状の頻度に応じて、24〜48時間のホルターや、より長期のモニターを検討します

「動悸がするけれど診察室では正常と言われた」「ときどき失神・めまいがある」「脈の飛びが気になる」という方は、どうぞお気軽にご相談・ご予約ください。

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引用文献・参考サイト


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