はじめに
「健康診断ではコレステロール、正常って言われてるんですよ。」
「家族に若くして心筋梗塞や脳梗塞になった人がいるけれど、私は大丈夫ですよね?」
外来でよくいただく、こんなご質問。
実は、ここに大事な“盲点”があります。
健康診断で測っている LDLコレステロール(悪玉) や HDLコレステロール(善玉) は、コレステロール全体のごく一部にすぎません。その中に、普通の健康診断ではまず測らない“もうひとつのコレステロール” が隠れています。
それが今日のテーマ、Lp(a)(リポプロテイン エー) です。
「5人に1人が、自分でも知らないうちにこのLp(a)が高い体質を持っている。 そして、その人たちは脳卒中や心血管死のリスクが明らかに高い。」
2026年5月、米国の循環器インターベンション学会(SCAI)2026年学術集会で、こんな衝撃的な解析結果が発表されました。NIH(米国国立衛生研究所)が行った3つの大規模臨床試験のデータ、2万人以上のデータを束ねた研究です。
今日のニュース
何が分かったの?
米国 Baylor Scott & White の Subhash Banerjee 先生らのチームが、SCAI 2026 と カナダ・インターベンション心臓病学会(CAIC-ACCI)合同サミットで発表した内容です。
- 対象は、NIHが行った ACCORD・PEACE・SPRINT という3つの大規模ランダム化試験に参加した 20,070人(40歳以上、平均65歳、男性65%)
- 凍結保存されていた血漿サンプルを、現在の国際標準法(nmol/L単位)で再測定
- 中央値 約4年間追跡し、心筋梗塞・脳卒中・冠動脈治療・心血管死などの 主要心血管イベント(MACE) を追跡
結果は?
Lp(a)の値で4段階に分け、もっとも高いグループ(175 nmol/L以上)を、低いグループ(75 nmol/L未満)と比べると──
| アウトカム | リスク比(HR) | 95%信頼区間 |
|---|---|---|
| 主要心血管イベント(MACE) | 1.31倍 | 1.10–1.55 |
| 心血管死 | 1.49倍 | 1.07–2.06 |
| 脳卒中 | 1.64倍 | 1.14–2.37 |
| 心筋梗塞 | 増えず | ― |
つまり、Lp(a)が高い人は、薬で標準治療をしていても、脳卒中で約1.6倍、心血管死で約1.5倍リスクが高い ──そんな結果でした。
特にこの傾向は、すでに心臓・血管の病気をお持ちの方 で強く出ていました。
責任著者の Banerjee 先生はこう述べています。
「初めて、どの程度のLp(a)レベルから心血管イベントが明確に増えるのか、線引きができた。Lp(a)が高いと分かったら、LDLコレステロールをより積極的に下げ、ほかの危険因子もしっかりコントロールする必要があります。」
そもそも“Lp(a)”って何?
Lp(a)(リポプロテイン エー)は、血液の中を流れる コレステロール粒子の一種 です。
- 見た目は LDLコレステロール(悪玉)にそっくり
- ただし、“アポ(a)”という余分なタンパク質 がくっついている
- そのせいで、血管の壁に入り込みやすく、血のかたまり(血栓)もできやすい
このため、LDLよりも質(たち)が悪い、と言われています。
そして、Lp(a)の値は 生まれつき遺伝でほぼ決まっています。
食事や運動でほとんど動かない、というのが大きな特徴です。
つまり──
「食生活も普通、健康診断もいつも正常。なのに、若くして心筋梗塞や脳梗塞になった」
そんなご家族の背景に、しばしばこのLp(a)が隠れているのです。
世界的な目安は、おおむね5人に1人(約20%) が、Lp(a)が高い体質を持っているとされています。
患者さんへの3つのポイント
① Lp(a)は“一生に一度”の血液検査で分かる
Lp(a)は、
- 採血だけで測れる
- 遺伝でほぼ一定なので、人生で1回測れば、基本的にOK
- 食事・運動・季節などでほとんど変動しない
という、シンプルだけど大事な検査です。
特に次のような方は、一度測っておく価値があります。
- ご家族(親・兄弟)に 若くして(男性55歳未満/女性65歳未満)心筋梗塞・狭心症・脳梗塞 になった方がいる
- ご自身がすでに 狭心症・心筋梗塞・脳梗塞 の既往がある
- LDLコレステロールをしっかり下げているのに、冠動脈や頸動脈に動脈硬化が進む と言われた
- 家族性高コレステロール血症 と言われたことがある
該当する方は、外来でぜひ一言、「Lp(a)も測ってください」 とお声かけください。
② “数字が高い=今すぐ重病”ではない。でも“地図が変わる”
Lp(a)が高いと分かっても、ご安心ください。今すぐ重病になる、というお話ではありません。
ただし、その方の 「これからの心血管リスクの地図」 は確実に変わります。
- LDLコレステロールの 目標値をより厳しめに 設定する
- 高血圧・糖尿病・喫煙・肥満などの ほかの危険因子をより本気でコントロール する
- 必要に応じて 頸動脈エコーや心臓CT で、動脈硬化の進み具合を可視化する
- ご家族にも検査を勧める(同じ体質を共有している可能性が高いため)
「敵が見える」ことで、はじめて作戦が立てられます。Lp(a)は、“見えない敵を見える化する”ための検査だとお考えください。
③ Lp(a)そのものを下げる薬は、まさに今、研究中
今までは、「Lp(a)が高いと言われても、それ自体を下げる薬がほとんどない」というのが医療現場のもどかしさでした。
ところが今、世界中で Lp(a)だけをピンポイントで下げる新しい注射薬(核酸医薬・抗体薬)の大規模臨床試験が走っています。早ければ数年以内に、日本でも使えるようになる可能性があります。
今回のSCAI 2026の発表でも、Banerjee 先生は最後にこうコメントしました。
「新しいLp(a)を標的とした治療薬がもうすぐ登場することを考えると、今のうちにLp(a)が高い方を見つけておくこと自体に大きな意味がある。」
つまり、
- 今のうちに測っておく
- そして、LDL・血圧・血糖・体重・禁煙 で土台を固めておく
- 数年後、新しい武器(Lp(a)を下げる薬)が登場したときに、すぐ使える立ち位置でいる
これが、Lp(a)についての“今、できること”です。
まとめ・当院からのメッセージ
今回ご紹介した研究は、
- 対象: NIH 3大試験(ACCORD・PEACE・SPRINT)の20,070人
- 測定: 標準化されたLp(a)測定法(nmol/L)
- 結果: Lp(a) ≥ 175 nmol/L の方は、脳卒中 約1.6倍/心血管死 約1.5倍 リスク上昇
- 結論: コレステロール治療を受けていても、Lp(a)が高いとリスクが残る。簡単な血液検査で、隠れたリスクを見つけることができる
というものでした。
桂川さいとう内科循環器クリニックでは、
- Lp(a)を含む “詳しい脂質検査” (Apo-B、non-HDL、Lp(a) など)
- 家族性高コレステロール血症 の評価とご家族への助言
- 頸動脈エコー・血管年齢検査 による動脈硬化の見える化
- LDL目標値の 個別オーダーメイド設定(リスクに応じて)
- 必要な方への 冠動脈CT・心臓ドック のご相談
を、循環器内科の立場で一括してご提案しています。
「家族に若くして心臓や脳の病気の人がいる」
「LDLは正常なのに、本当に大丈夫か不安」
「Lp(a)って、自分も測れますか?」
こんなご相談、大歓迎です。
健康診断の“いつも正常”の裏に、人生で一度だけ確かめておくと安心な数字があります。
Lp(a)は、ご自身と、そしてご家族の未来を守るための、“一生もの”の検査です。
参考・引用元
- One in five people may carry this hidden cholesterol risk without knowing it — ScienceDaily, 2026-05-15
- Banerjee S, et al. Lipoprotein(a) and Major Adverse Cardiovascular Events: A Pooled Analysis of the ACCORD, PEACE, and SPRINT Trials. Late-Breaking Clinical Trial, SCAI 2026 Scientific Sessions / CAIC-ACCI Summit, Montreal, May 2026.
- Society for Cardiovascular Angiography & Interventions (SCAI)
- 日本動脈硬化学会 — 動脈硬化性疾患予防ガイドライン
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「脂質異常症」

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