当院は循環器クリニックですので、健康診断や人間ドックの二次検査のご相談を日々お受けしています。その中でも、結果票を手にとくに不安そうな表情でいらっしゃるのが「ブルガダ型心電図」「Brugada型」「Coved型ST上昇」と指摘された方です。
ネットで検索すると「突然死」という言葉が真っ先に出てきて、心臓がどきりとされた方も多いと思います。この記事では、循環器を専門とする立場から、できるだけ正確に、そして落ち着いて読めるように解説します。
ブルガダ型心電図とは
1992年にスペインのブルガダ兄弟という医師が報告した心電図所見で、胸の右側(V1〜V3誘導)のST部分が特徴的な形に上昇するものを指します。
日本人を含むアジア人の成人男性にやや多いことが知られていますが、「ブルガダ型心電図」と言われた方すべてが病気というわけではありません。これは「心電図の形」につけられた名前であって、「病気の名前」ではないからです。
実際、健診で見つかる方の多くは何の症状もなく、生涯にわたって何事もなく過ごされる方が大半です。
Type 1(Coved型)とType 2(Saddle-back型)
ブルガダ型心電図には主に2つのタイプがあります。

- Type 1(Coved=弓状型):弓のような形にST部分が上がっているタイプ。診断的に最も重要で、循環器の専門評価が推奨されます。
- Type 2(Saddle-back=鞍型):馬の鞍のような形。多くは経過観察で十分です。
健診結果にどちらと書かれているか、まずご確認ください。
どのくらい危険なのか ― 数字で見る
「突然死」と聞くと身構えてしまいますが、冷静に数字を見てみましょう。
- 症状がなく、ご家族にも若くして突然死した方がいない場合、致死的な不整脈(心室細動)が起こる確率は年間0.5%以下と推定されています。
- 1000人に5人未満、ということになります。
- 一方で、ゼロではないため、「放置せず、一度きちんと評価する」ことが大切です。
つまり、過度に怖がる必要はないが、そのままにもしない ― これが基本姿勢です。
日本の20年追跡データが示すこと
「健診で見つかったブルガダ型心電図の方が、その後どうなったか」を実際に20年近く追跡した日本の研究があります。Circulatory Risk in Communities Study(CIRCS研究) と呼ばれる、日本の地域住民を対象にした大規模な前向き研究です。
1982〜1986年に健康診断を受けた40〜64歳の7,178名の心電図を解析し、中央値で18.7年(約19年)追跡した結果が、米国心臓協会の学術誌に報告されています。
健診で見つかった頻度
| 心電図のタイプ | 人数 | 割合 |
|---|---|---|
| Type 1(Coved=弓状型) | 8名 | 0.1%(1000人に1人) |
| Type 2・3(Saddle-back型) | 84名 | 1.2% |
| 非典型的なST上昇 | 228名 | 3.2% |
健診で実際に「弓状型のType 1」と判定される方は、1000人にわずか1人程度と、決して多くありません。
約19年間の追跡で起きた心臓突然死
| 心電図のタイプ | 心臓突然死 | 割合 |
|---|---|---|
| Type 1(弓状型) | 0名/8名 | 0.0% |
| Type 2・3(鞍型) | 1名/84名 | 1.2% |
| 非典型的なST上昇 | 7名/228名 | 3.1% |
| 異常なし(対照群) | 50名 | 0.7% |
注目すべきは、健診で偶然見つかったType 1の方では、19年間で心臓突然死が0名だったことです。
この結果が意味すること
ただし、Type 1群はそもそも8名と少ないため、「絶対に安全」と断言できる数字ではありません。それでも、症状がなく健診で偶然見つかったブルガダ型心電図の方の予後は、思っているよりずっと良好であることが、日本人を対象とした長期データから示されています。
一方で、「非典型的なST上昇」のあった方では、心臓突然死リスクが対照群の約4倍になっていました。これは、「ブルガダ型ではないけれど、右側胸部のST部分に変化がある」というタイプの所見も軽視できないということを示しており、自己判断せず、一度は循環器内科で評価を受けるべき根拠の一つになります。
一度は循環器内科を受診してください
健診で指摘された段階では、心電図の一枚だけで判断はできません。一度、循環器内科を受診して、以下の評価を受けることをお勧めします。
特に以下に当てはまる方は、早めの受診をお願いします。
- 過去に原因不明の失神を起こしたことがある
- 寝ているときに、うなされていた・苦しそうに呼吸していたと家族に言われたことがある
- 45歳未満で突然亡くなった血縁者がいる(兄弟・親・祖父母など)
- 健診結果が**Type 1(Coved型)**と書かれている
クリニックではどんな検査をするのか
不安に思われる方も多いので、実際の流れをお示しします。
- 詳しい問診 ― 失神歴、夜間の様子、ご家族の突然死歴などを丁寧に伺います。
- 心電図の取り直し ― 電極の位置を肋骨1〜2本分上にずらして記録すると、より正確に評価できます。
- 24時間ホルター心電図 ― 普段の生活の中で危険な不整脈が出ていないか確認します。
- 心臓超音波検査(心エコー) ― 心臓の構造に異常がないかを確認します。
- 必要に応じて専門病院へ紹介 ― 電気生理検査や遺伝子検査が必要と判断した場合、不整脈専門医のいる施設へご紹介します。
ほとんどの方は、1〜4までの検査で「経過観察で大丈夫」という結論になります。
日常生活で気をつけたい4つのこと
ブルガダ型心電図を指摘された方は、日常生活で少しだけ気をつけていただきたいことがあります。
① 発熱への対応
高熱が不整脈の引き金になることが知られています。風邪などで熱が出たら、
- こまめに冷やす(首・脇・足の付け根)
- アセトアミノフェン(カロナールなど)を早めに使う
- 38.5℃以上が続く場合は受診する
を心がけてください。
② 飲み合わせに注意したい薬がある
一部のお薬がブルガダ型心電図の方では避けたほうがよいとされています(一部の抗不整脈薬、三環系抗うつ薬、リチウムなど)。
他の医療機関を受診するときや、市販薬を買うときは、必ず「ブルガダ型心電図を指摘されています」と伝えてください。お薬手帳に書いておくと安心です。
③ 過度な飲酒・大量の夜食を控える
迷走神経が強く働く状況(特に夜間・食後・飲酒後)で不整脈が出やすいとされています。「ほどほどに」が大切です。
④ 運動は基本的にOK
適度な運動は問題ありません。ジョギング、ウォーキング、軽い筋トレなどはむしろ健康に良いので、安心して続けてください。
こんな症状が出たら受診を
以下の症状があれば、迷わず受診してください。
- 突然意識を失った
- 動悸が止まらず、意識が遠のく感じがする
- 高熱に加えて、胸の違和感や動悸が出た
おわりに
「ブルガダ型心電図」と言われると不安になるのは自然なことですが、ほとんどの方は適切な評価と少しの生活上の注意で、いつもどおりの生活を続けられます。
大切なのは、自己判断で放置せず、また過度に怖がりすぎず、一度循環器内科で評価を受けることです。
桂川さいとう内科・循環器内科クリニックでは、健診で心電図異常を指摘された方の精査・経過観察に対応しております。検査結果をお持ちのうえ、お気軽にご相談ください。
参考文献
- Tsuneoka H, Takagi M, Murakoshi N, et al. Long-Term Prognosis of Brugada-Type ECG and ECG With Atypical ST-Segment Elevation in the Right Precordial Leads Over 20 Years: Results From the Circulatory Risk in Communities Study (CIRCS). J Am Heart Assoc. 2016;5(8):e002899.
- 日本循環器学会/日本不整脈心電学会合同ガイドライン『2024年JCS/JHRS フォーカスアップデート版 不整脈治療』
- 厚生労働省難治性疾患研究班「遺伝性不整脈の診療に関するガイドライン(2017年改訂版)」

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