疾患解説

若いアスリートの突然死は防げる――学校心臓健診で心臓突然死が約75%減少した日本の取り組み

学校心臓健診の重要性を循環器内科医が解説

スポーツに打ち込む健康な若者が、練習中や試合中に突然倒れ、帰らぬ人となってしまう――。

こうしたニュースを耳にすると、「あんなに元気だったのに、なぜ?」と驚かれる方も多いのではないでしょうか。

実は、心臓の病気の中には、それまでまったく症状がなくても、突然、命に関わる不整脈を起こすものがあります。

特に若いアスリートでは、激しい運動がきっかけとなって、心停止を起こす場合があります。

しかし、こうした悲劇を減らすため、日本では長年にわたって取り組みが続けられてきました。

その代表的なものが、学校心臓健診(学校心臓検診)です。

そして実際に、日本の学校管理下における心臓突然死は、この数十年間で大幅に減少しています。

今回は、そのデータを紹介しながら、若年アスリートの突然死の原因と学校心臓健診の重要性について、循環器内科医の立場から解説します。

1.日本では、学校での心臓突然死が約75%減少している

まず、非常に興味深いデータをご紹介します。

2016年、日本小児循環器学会雑誌に掲載された鮎沢衛先生の論文では、日本スポーツ振興センターの統計をもとに、1983年から2013年までの学校管理下における突然死の推移が分析されています。

その結果、学校管理下における心臓系突然死の年間発生率は、

  • 1980年代:約0.4件/児童生徒10万人
  • 2010年代:約0.1件/児童生徒10万人

へと減少していました。

これは約75%、つまり4分の3の減少に相当します。

なお、同論文の抄録では、1980年代の発生率を約0.5件、2010年以降を0.1件未満と記載しています。いずれも、学校管理下の心臓突然死が大幅に減少したことを示しています。

【図1】日本の学校管理下における心臓突然死の減少

日本の学校管理下における心臓突然死の減少(約75%減少)

出典:鮎沢 衛.学校管理下突然死の現状と課題.日本小児循環器学会雑誌.2016;32:485–497.本文記載の時代別概数をもとに作成。児童生徒10万人あたりの年間発生率。競技アスリートだけを対象とした統計ではありません。

この減少は、日本の学校における心臓突然死対策が大きく進歩してきたことを示しています。

ただし、ここで一つ注意が必要です。

「学校心臓健診が始まったことだけで、突然死が75%減少した」とは断定できません。

学校心臓健診による早期発見だけでなく、心臓病の治療技術の進歩、AEDの普及、心肺蘇生教育など、さまざまな要因が関係していると考えられています。

2.日本の学校心臓健診は、世界的にも特徴的な制度

日本の学校心臓健診には、50年以上の歴史があります。

1973年:学校心臓検診の制度化

学校保健法施行規則の改正により、学校心臓検診が定期健康診断に組み込まれました。

1995年:心電図検査の義務化

小学1年生、中学1年生、高校1年生の全員に心電図検査が義務づけられました。

2004年:一般市民によるAED使用が認められる

学校の教職員なども、心停止した児童生徒に対してAEDを使用できるようになりました。

2009年頃:学校へのAED設置が広く普及

突然の心停止に対して、学校現場で迅速な救命処置を行える環境が整備されてきました。

日本の学校心臓健診の大きな特徴は、症状のない子どもにも、一定の学年で心電図検査を実施していることです。

海外では、スポーツ参加前の問診や診察を中心とする国もあり、無症状の児童生徒全体に心電図検査を行う日本の制度は、国際的にも特徴的です。

3.なぜ、健康な若いアスリートが突然亡くなるのか?

心臓突然死というと、高齢者の心筋梗塞などを思い浮かべる方が多いかもしれません。

しかし、若い人では原因となる病気が異なります。

若年アスリートの突然死では、先天的な心臓の異常や、遺伝的な背景を持つ心筋症・不整脈などが重要です。

① 肥大型心筋症(HCM)

心臓の筋肉が通常より厚くなる病気です。

心臓の筋肉に異常があることで、心室頻拍や心室細動などの危険な不整脈を起こすことがあります。

若い人でも発症し、運動中の失神や突然死につながる場合があります。

学校心電図で心肥大を疑う所見や異常なT波などが見つかり、心臓超音波検査で診断につながることがあります。

② QT延長症候群

心臓の電気的な回復に時間がかかることで、危険な不整脈が発生しやすくなる病気です。

運動、精神的興奮、突然の音などが発作のきっかけになることがありますが、病型によって異なります。

特徴的なQT延長が心電図で見つかることがあり、学校心臓健診が早期発見の機会となります。

③ WPW症候群

心臓の中に、通常とは異なる電気の通り道が存在する病気です。

心電図でデルタ波などの特徴的な異常が見つかることがあります。

多くの患者さんは良好な経過をたどりますが、一部では危険な頻脈性不整脈を起こすことがあります。

④ 不整脈原性心筋症

心筋に異常が生じ、心室頻拍や心室細動などを起こすことがある病気です。

特に一部の病型では、激しい運動が病気の進行や不整脈の発生に関係することがあります。

⑤ カテコラミン誘発多形性心室頻拍(CPVT)

運動や精神的興奮によって、危険な心室性不整脈が誘発される病気です。

重要なのは、安静時の心電図が正常なことが多いという点です。

そのため、学校心電図だけでは見つからず、運動中の失神などの症状が診断のきっかけになることがあります。

⑥ 冠動脈起始異常

心臓に血液を供給する冠動脈が、生まれつき通常とは異なる位置から出ている病気です。

一部の形態では、激しい運動中に心筋への血流が不足し、突然死につながることがあります。

通常の安静時心電図では発見できないこともあります。

4.学校心臓健診では、何を調べているの?

学校心臓健診では、主に問診、診察、心電図などを組み合わせて、心臓の異常がないかを確認します。

心電図検査は、痛みを伴わず、短時間で実施できる検査です。

心臓の電気的な活動を記録することで、危険な不整脈や心筋の異常を疑う手がかりが得られます。

例えば、QT延長症候群、WPW症候群、一部の心筋症などは、学校心電図で発見される可能性があります。

一方で、心電図だけでは見つけにくい病気もあります。

そのため、一次検診で異常が指摘された場合には、二次検診で詳しく調べることが重要です。

二次検診では、必要に応じて次のような検査を行います。

  • 12誘導心電図:不整脈や心筋異常を疑う所見を確認
  • 心臓超音波検査(心エコー):心臓の形や動き、弁の異常などを評価
  • ホルター心電図:日常生活中の不整脈を確認
  • 運動負荷心電図:運動によって誘発される不整脈などを評価

さらに専門的な検査が必要な場合には、心臓MRIや遺伝学的検査などを検討することもあります。

5.学校心臓健診とAED、どちらが突然死を減らしたの?

学校管理下の心臓突然死が減少した理由を考えるうえで、非常に重要なポイントです。

学校心臓健診とAEDには、それぞれ異なる役割があります。

学校心臓健診は、心停止を起こす前に病気を発見するための仕組みです。

一方、AEDは、心停止が起きてしまったときに命を救うための仕組みです。

2016年の鮎沢先生の論文では、1995年の心電図検査義務化による追加的な効果は、すでに多くの地域で心電図検査が実施されていたこともあり、限定的だった可能性が指摘されています。

一方、2005年以降の学校教職員によるAED使用の普及は、心臓突然死の減少に大きく貢献した可能性があります。

また、日本循環器学会の学校心臓検診ガイドラインでも、突然死の減少には、学校心臓健診、AEDの普及、手術治療、内科的管理の進歩などが関係していると考えられています。

つまり、突然死を減らすためには、

① 危険な心臓病を早期に発見すること

② 発見された病気を適切に治療・管理すること

③ 万が一、心停止が起きたときに迅速に救命すること

この3つが重要なのです。

6.学校心臓健診で異常が見つかったら、スポーツは禁止?

学校心臓健診で異常を指摘されると、「もう部活動を続けられないのでは?」と心配される保護者の方もいらっしゃいます。

しかし、心電図に異常があるからといって、必ずしもスポーツが禁止されるわけではありません。

例えば、スポーツをしている若い人では、心拍数が遅くなる洞性徐脈など、生理的な変化が心電図に現れることがあります。

一方、同じ心電図異常でも、背景に心筋症や危険な不整脈が隠れている場合があります。

大切なのは、異常の原因を正しく評価することです。

心臓病が見つかった場合でも、病気の種類、重症度、治療状況などによって、許可される運動の範囲は異なります。

学校心臓健診の目的は、子どもたちからスポーツを奪うことではありません。

安全に運動を続けられるように、適切な判断をすることが重要です。

7.学校心臓健診が正常でも、注意すべき症状があります

学校心臓健診は非常に重要ですが、すべての心臓病を発見できるわけではありません。

特に、以下のような症状がある場合は注意が必要です。

  • 運動中に失神したことがある
  • 運動中に強い動悸や胸痛が起こる
  • 運動中に原因のわからないめまいや息切れがある
  • 家族に若くして突然亡くなった方がいる
  • 家族に遺伝性不整脈や心筋症と診断された方がいる

特に重要なのが、運動中の失神です。

運動後の立ちくらみなどとは異なり、運動している最中に突然意識を失う場合には、危険な不整脈や心臓の構造的な異常が隠れている可能性があります。

このような症状がある場合には、学校健診で異常がなくても循環器内科での精密検査が必要です。

原因が確認できるまでは、激しい運動や競技への参加を控えることが大切です。

8.当院でも学校心臓健診の二次検診に対応しています

桂川さいとう内科循環器クリニックでは、学校心臓健診で心電図異常などを指摘されたお子さんの二次検診に対応しています。

心電図の異常が何を意味するのか、心臓に病気が隠れていないか、部活動やスポーツを続けても問題ないかなどを、循環器内科の立場から評価します。

必要に応じて、心臓超音波検査やホルター心電図などを行い、より専門的な評価が必要な場合には、高次医療機関と連携します。

「学校健診で心電図異常と言われた」

「部活動を続けても大丈夫か心配」

「運動中に動悸やめまいがある」

このような場合は、お気軽にご相談ください。

まとめ:学校心臓健診は、子どもたちの命と未来を守るために

日本では、1980年代から2010年代にかけて、学校管理下における心臓突然死が大幅に減少しました。

学校心臓健診は、症状のない子どもの心臓病を早期に発見できる重要な機会です。

そして、AEDの普及や心肺蘇生教育、心臓病の治療技術の進歩も、突然死の減少に貢献してきたと考えられています。

もちろん、学校心臓健診だけですべての突然死を防げるわけではありません。

しかし、危険な病気を早く見つけ、適切に管理し、万が一のときには迅速に救命する。

こうした取り組みの積み重ねが、子どもたちの命を守ることにつながります。

子どもたちが安心してスポーツに取り組み、健やかに成長できるように。学校心臓健診の大切さを、ぜひ知っていただきたいと思います。


参考文献


  1. 鮎沢 衛.学校管理下突然死の現状と課題:救急蘇生・AED普及に伴うパラダイムシフト.日本小児循環器学会雑誌.2016;32(6):485–497.

    https://doi.org/10.9794/jspccs.32.485



  2. 日本循環器学会ほか.2016年版学校心臓検診のガイドライン.

    https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2016/02/JCS2016_sumitomo_h.pdf



  3. 小澤綾佳,市田蕗子.学校心臓検診を臨床に生かす.呼吸と循環.2016;64(7):718–724.

    https://doi.org/10.11477/mf.1404205998



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