ニュース概要
「少量のワインは健康によいのでしょうか」。この長年の疑問に、あらためて注目を集めそうな研究が2026年、Scandinavian Journal of Public Healthに掲載されました。
研究は、ノルウェーの男女18万7,294人を平均21.1年間追跡し、ビール、ワイン、蒸留酒の飲酒量と、全死亡・心血管病死亡・がん死亡などの関係を調べたものです。研究開始時に心筋梗塞、狭心症、脳卒中、糖尿病、がんのある人は除外され、追跡中に1万5,642人が亡くなりました。
2週間の総飲酒量が0杯の人と比べた全死亡のハザード比は、1〜9杯で0.91、10〜19杯で1.01、20杯以上で1.44でした。数字だけ見ると、少量飲酒群では死亡率が9%低く、多量飲酒群では44%高かったというJ字型の関連です。酒種の組み合わせでは、少量のワインを含む群で全死亡が低く、ワインを含まない組み合わせでは低下が明確ではありませんでした。
しかし、この結果を「ワインを飲めば長生きできる」と読むのは早計です。これは飲酒を割り付けた臨床試験ではなく、生活習慣の違う人々を追った観察研究です。研究者自身も、因果関係は確定できず、健康目的でワインを勧める根拠にはならないと慎重な解釈を求めています。
出典
- 原著論文:Tverdal A, Selmer R, Thelle DS. Associations between beer, wine, and spirits consumption and major mortality outcomes in 187,294 Norwegian men and women, with a focus on low-level wine intake. Scandinavian Journal of Public Health. 2026.
- 循環器分野の参考資料:American Heart Association「Alcohol Use and Cardiovascular Disease」(2025年)
- 日本の参考資料:国立がん研究センター「科学的根拠に基づくがん予防法5+1」をより伝わりやすく刷新(2026年)
医学的背景
この研究で実際に分かったこと
参加者は1994〜2003年の健診時に、直近14日間に飲んだビール、ワイン、蒸留酒の「グラス数」を1回だけ回答しました。研究者は年齢、喫煙、コレステロール、中性脂肪、BMI、収縮期血圧、教育歴、運動、婚姻状況などを統計的に調整しています。
主な結果は次の通りです。
- 全死亡:0杯を基準とすると、1〜9杯/14日でハザード比0.91、10〜19杯で1.01、20杯以上で1.44
- 虚血性心疾患死亡:1〜9杯で0.86、10〜19杯で0.82、20杯以上で1.09
- がん死亡:1〜9杯で0.97、10〜19杯で0.99、20杯以上で1.27
- アルコール関連死:1〜9杯で1.63、10〜19杯で4.47、20杯以上で13.0
ここで見落としたくないのは、少量群で全死亡や虚血性心疾患死亡が低くても、がん死亡の低下は確認されず、アルコール関連死は少量群から増えていた点です。また、飲酒者だけを比べると、1〜9杯群より飲酒量が多くなるほど全死亡は段階的に上がりました。
「関連がある」と「ワインが原因で守った」は違う
観察研究では、ワインそのものの作用と、ワインを選ぶ人の生活背景を完全には分けられません。今回の論文でも、ワインを飲む人は食事、所得、医療へのアクセス、飲み方、飲酒時の食事などが他の群と違った可能性があります。食事内容は調整されていません。
さらに、基準になった「0杯」群には、生涯まったく飲まなかった人だけでなく、体調を崩して飲酒をやめた元飲酒者が含まれた可能性があります。元飲酒者の健康状態が悪ければ、現在飲んでいない群の死亡率が高く見え、少量飲酒が実際以上によく見えることがあります。これは「シック・クイッター効果」と呼ばれる問題です。
遺伝的な体質を手がかりに、長期の飲酒影響を推定するメンデルランダム化研究では、少量飲酒による明確な心血管保護効果は一貫して確認されていません。米国心臓協会も、少量〜中等量飲酒と心血管病の関係は、観察研究では利益を示すものがある一方、遺伝学的研究では明確な保護効果が見られず、結論は混在していると整理しています。
「1杯」を日本のお酒にそのまま換算できない
この研究では、ビール、ワイン、蒸留酒のグラスの大きさが分からず、純アルコール量へ換算できませんでした。したがって「2週間で9杯までなら安全」と、日本の缶ビールやワイングラスへそのまま置き換えることはできません。
日本の厚生労働省は、飲酒量を「お酒の容量」ではなく純アルコール量で把握することを勧めています。計算式は「飲んだ量(mL)×アルコール度数×0.8」です。たとえばビール500mL・5%なら、純アルコールは20gです。詳しくは厚生労働省「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」をご確認ください。
同ガイドラインで示される「生活習慣病のリスクを高める量」の男性40g/日以上、女性20g/日以上は、「ここまでなら安全」「個人の許容量」という意味ではありません。厚生労働省は、その点を明記しています。疾病別の表では、日本人の高血圧について男女とも「0g<」、つまり少量でも飲酒すると発症リスクが上がると考えられる整理です。年齢、性別、体質、持病によって影響が異なるため、目標は一律の上限ではなく、現在より少ない方向で個別に考えます。
がん予防の結論は変わらない
国立がん研究センターは2026年、日本人のためのがん予防法で、飲酒に関する表現を「節酒する」から「飲酒をひかえる」へ変更しました。少量でもがんリスクが上がることが示されているためです。
今回のノルウェー研究でも、少量飲酒群でがん死亡が下がったとは言えません。全死亡という一つの結果だけを見て、がん、血圧、不整脈、肝障害、依存、けがなど別々のリスクを打ち消すことはできません。
この研究の限界
この論文を生活へ当てはめる前に、少なくとも次の点を確認する必要があります。
- 観察研究であり、因果関係を証明できない
ワインを飲んだことが死亡率低下の原因とは断定できません。
- 飲酒量の確認は研究開始時の1回だけ
平均21年間に飲酒習慣が変わっても、解析には十分反映されません。
- 直近14日間の自己申告
思い出し間違いや、実際より少なく答える可能性があります。
- グラスの大きさが不明
純アルコール量へ換算できず、日本の「1杯」と比較できません。
- 元飲酒者と生涯非飲酒者を区別できない
シック・クイッター効果で、非飲酒群のリスクが高く見えた可能性があります。
- 食事など未測定の違いが残る
ワインそのものではなく、食生活や社会経済的背景が結果に関係した可能性があります。
- ノルウェーの集団である
体質、飲酒文化、食生活、医療制度が異なる日本人へ、そのまま当てはめることはできません。
日常生活で気をつけたいポイント
- 健康のために飲酒を始めない
現在飲まない人が、心臓を守る目的でワインを始める根拠にはなりません。米国心臓協会の2026年食事指針も、飲まない人は始めず、飲む人は量を抑えるとしています。AHA 2026年食事指針の要点
- 「ワインだから安全」と考えない
健康への影響を決める中心はエタノールです。赤ワイン、白ワイン、ビール、蒸留酒のどれであっても、アルコールを含む以上リスクはゼロになりません。
- 純アルコール量を把握する
商品表示の度数と容量から計算し、まず現在の量を見える化します。「グラス1杯」は器で量が変わるため、感覚だけに頼らないことが大切です。
- まとめ飲みを避ける
厚生労働省は、1回の飲酒機会で純アルコール60g以上となる一時多量飲酒を避けるよう示しています。同じ1週間の量でも、一度に多く飲むと、血圧上昇、不整脈、転倒、事故、急性アルコール中毒などの危険が高まります。60g未満なら安全という意味ではありません。
- 量を先に決め、食事・水・休肝日を組み合わせる
飲む場合は、飲み始める前に量を決め、飲酒前または飲酒中に食事をとり、合間に水や炭酸水を飲みます。毎日の1杯を週の一部でノンアルコール飲料へ置き換え、1週間のうち飲まない日を設ける方法も、厚生労働省のガイドラインに沿った現実的な工夫です。
- 持病や薬がある人は個別に確認する
高血圧、心房細動などの不整脈、心不全、糖尿病、脂質異常症、肝臓病、睡眠時無呼吸症候群がある方、睡眠薬などを服用している方は、自己判断で「適量」を決めず主治医へ相談してください。妊娠中・授乳中、20歳未満、体質的にお酒を受け付けない方、運転や危険作業の前は飲酒を避けます。
受診の目安
次のような場合は、一般内科・循環器内科へご相談ください。
- 健診で血圧、肝機能、中性脂肪、血糖について要受診と言われた
- 飲酒後に動悸、脈の乱れ、胸苦しさ、息切れが出る
- 家庭血圧が高く、飲酒日の翌朝に上がりやすい
- 飲酒量を減らしたいのに減らせない
- 飲まないと眠れない、手が震える、朝から飲むことがある
- 家族から飲酒を心配されている
強い胸痛、呼吸困難、意識がもうろうとする、呼びかけへの反応が鈍い、けいれん、繰り返す嘔吐などがある場合は、ためらわず119番へ連絡してください。
当院で相談できること
医療法人グロース 桂川さいとう内科循環器クリニックは、京都市西京区下津林南大般若町37番地 リペアス下津林2Fにある一般内科・循環器内科・腎臓内科のクリニックです。
当院では、高血圧、脂質異常症、糖尿病などの生活習慣病、飲酒後の動悸、不整脈、息切れ、胸痛、狭心症、心不全などをご相談いただけます。家庭血圧や健診結果、現在の飲酒量を確認し、必要に応じて採血、心電図、心臓超音波、ホルター心電図などを組み合わせます。詳しくは一般内科の診療案内、循環器内科の診療案内をご覧ください。
「禁酒と言われるのが怖い」と受診をためらう必要はありません。まず現在の量と体への影響を整理し、無理なく減らせる方法を一緒に考えることが出発点です。依存症の専門治療が必要と考えられる場合は、適切な医療機関へご紹介します。
阪急桂駅、JR桂川駅、洛西口、桂川エリアからアクセスしやすく、WEB予約に対応し、駐車場もあります。所在地や交通案内は公式サイトのアクセス案内をご確認ください。
まとめ
18万人超を平均21年追跡した今回の研究では、少量飲酒、特にワインを含む飲み方と低い全死亡率との「関連」が見られました。一方、飲酒量が増えるほど全死亡は上がり、20杯以上/14日では、全死亡、心血管病死亡、がん死亡が高くなりました。アルコール関連死は少量群から増えていました。
最も大切なのは、この研究が「ワインを飲めば長生きできる」と証明したものではないことです。元飲酒者を含む可能性、食事や社会背景、1回だけの自己申告など、観察研究特有の限界があります。
現時点の実用的な結論は、「飲まない人は健康目的で始めない」「飲む人はワインという酒種に安心せず、純アルコール量を把握して少ない方向へ」です。高血圧や生活習慣病、動悸が気になる方は、飲酒量の記録と健診結果を持って一般内科・循環器内科へご相談ください。
※本記事は一般的な医療情報の提供を目的とし、個別の診断や治療に代わるものではありません。

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