はじめに
「血圧の薬を飲んでいるのに、なかなか下がらない」「何種類も薬を追加しているのに、目標値に届かない」——こんなお悩みをお持ちの患者さんが時々いらっしゃいます。そのような場合、「原発性アルドステロン症(PA)」 という病気が隠れていることがあります。
高血圧の患者さんのうち、約5〜10%(治りにくい高血圧では20%以上ともいわれます)がこの病気を持っているとされていますが、多くの方は気づかないまま過ごしています。今日はこの「見逃されやすい高血圧の原因」について、わかりやすく解説します。
原発性アルドステロン症とは?
副腎というホルモンの工場
腎臓の上には「副腎」という小さな臓器が左右1つずつあります。副腎はさまざまなホルモンを作る”工場”のような場所ですが、その一つが アルドステロン というホルモンです。
アルドステロンの主な働きは「腎臓で塩分(ナトリウム)を体に保つよう命令すること」です。塩分が体内に増えると水分も引き込まれ、血液の量が増えて血圧が上がります。これは本来、体が脱水や出血に備えるための大切な仕組みです。
「工場」が暴走してしまう病気
原発性アルドステロン症では、副腎がアルドステロンを必要以上に大量に作り続けてしまう状態になります。体が「もう十分です」と信号を出してもブレーキが利かず、ホルモンを出し続けるイメージです。
その結果、
- 血圧がずっと高いまま(しかも薬で下がりにくい)
- 血液中のカリウムが低下する(低カリウム血症)
- レニンというホルモンが抑えられる(血圧調節システムが乱れる)
という状態が続きます。
どんな種類があるの?
原発性アルドステロン症には大きく2つのタイプがあります。
| タイプ | 内容 | 頻度 |
|---|---|---|
| 副腎腺腫(片側性) | 副腎に良性の小さなコブ(腺腫)ができ、そこからアルドステロンが出続ける | 約30〜40% |
| 両側副腎過形成(両側性) | 両方の副腎全体がアルドステロンを過剰に産生する | 約60〜70% |
このどちらかによって、治療の方針が大きく変わります。
どんな症状が出るの?
実は、原発性アルドステロン症の多くは症状が乏しく、「ただの高血圧」として見過ごされがちです。
気づかれるきっかけとなる症状には以下のようなものがあります:
- 高血圧(特に薬が効きにくい難治性高血圧)
- 低カリウム血症による症状:足がつる・筋力低下・倦怠感・多尿・のどが渇く
- 頭痛・動悸
ただし、カリウムが正常範囲でも原発性アルドステロン症である場合も多く、「カリウムが正常だから大丈夫」とは言い切れません。
放置すると心臓・腎臓へのリスクが高まる
重要なのは、原発性アルドステロン症は同じ血圧レベルの普通の高血圧と比べても、心臓・血管・腎臓へのダメージが大きいことが知られている点です。アルドステロン自体が心臓や血管に直接炎症・線維化を起こすためで、
- 心房細動(不整脈)
- 心不全
- 脳卒中
- 腎機能障害
などのリスクが高くなります。だからこそ、早めに見つけて適切に治療することが大切です。
どうやって調べるの?(検査の流れ)
ステップ1:スクリーニング(スクリーニング検査)
まず血液検査で アルドステロン/レニン比(ARR) を調べます。アルドステロンが高く、レニンが低い(= 比が高い)場合に、この病気が疑われます。
外来で採血するだけで調べられるため、以下のような方は積極的に検査を検討します:
- 薬を2〜3種類以上飲んでも血圧がコントロールできない方
- 血液検査でカリウムが低い方
- 比較的若い年齢(40〜50代以下)での高血圧
- 副腎に「偶発腫」(別の検査でたまたま見つかった腫れ)がある方
- 家族に早期の高血圧や脳卒中がある方
ステップ2:確定検査
スクリーニングで疑われた場合、食塩水負荷試験などの「機能確認テスト」を行い、アルドステロンが本当に自律的に過剰産生されているかを確認します。
この確定検査は入院や専門設備が必要なため、当院では 京都桂病院 へご紹介することが多いです。安心して検査を受けていただけるよう、紹介状の作成から受診の手配までサポートいたします。
ステップ3:病型分類(片側か両側か)
確定後は、CT検査で副腎の形を確認したり、必要に応じて副腎静脈サンプリング(左右の副腎から直接血液を採って、どちら側が多くアルドステロンを出しているか調べる検査)を行います。これにより手術が有効なタイプかどうかがわかります。こちらも引き続き京都桂病院と連携して進めます。
治療は?
片側性(腺腫)の場合:手術(腹腔鏡手術)
片方の副腎を腹腔鏡(内視鏡)で切除することで、多くの場合に血圧が改善または正常化します。傷が小さく体への負担が少ない手術です。
両側性の場合:薬による治療
両側の場合は手術ではなく、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA) という薬を使います。代表的なものに
- スピロノラクトン(エサルプリン)
- エプレレノン(セララ)
があり、アルドステロンの悪影響をブロックすることで血圧を下げ、心臓・腎臓を保護します。
こんな方はご相談ください
以下に当てはまる方は、一度原発性アルドステロン症のスクリーニングを受けることをお勧めします:
- 降圧薬を2種類以上飲んでいるが血圧が130/80 mmHg以上のまま
- 足がよくつる、または採血でカリウムが低いと言われたことがある
- 30〜50代で高血圧になった
- 他院で「薬を増やすしかない」と言われた
原発性アルドステロン症はスクリーニング検査(採血)から始められます。「もしかして?」と思ったら、ぜひ気軽にご相談ください。
まとめ・当院からのメッセージ
原発性アルドステロン症は「見逃されやすいが、見つかれば治せる(または大幅に改善できる)高血圧の原因」です。高血圧患者さんの中に一定割合で存在するにもかかわらず、日本ではまだ十分に診断されていないと言われています。
血圧の管理に悩んでいる方、薬の効きが悪いと感じている方は、ぜひ一度「副腎のホルモン」を調べてみることを検討してみてください。当院では内科・循環器科として、高血圧の原因を丁寧に調べ、一人ひとりに合った治療をご提案しています。お気軽にご来院・ご相談ください。

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