「咳が続いていたら、脇腹が痛くなってきた」
「ぶつけた覚えはないのに、肋骨のあたりが痛い」
このようなとき、「まさか咳だけで骨が折れることはないだろう」と思うかもしれません。
実は、強い咳を繰り返すことで、肋骨にひびが入ったり、骨折したりすることがあります。 医学的には「咳嗽(がいそう)による肋骨骨折」と呼ばれ、実際に医学論文でも報告されています。
なぜ、咳だけで肋骨が折れるのでしょうか?
咳をするときには、胸やお腹の筋肉が強く収縮し、肋骨にも力が加わります。強い咳が続くと、同じ場所に負担が繰り返しかかり、骨が耐えきれなくなることがあります。
スポーツなどで同じ動作を繰り返して起こる「疲労骨折」に似た仕組みです。長引く咳だけでなく、短期間でも激しい咳に伴って起こる場合があります[1,2]。
医学論文では、どのように報告されている?
米国メイヨークリニックの研究では、咳による肋骨骨折と診断された54人について調べています。平均年齢は55歳で、78%が女性、85%は3週間以上続く咳を伴っていました[1]。
一方、2024年に発表された90人の研究では、患者の年齢は20~92歳と幅広く、3週間以上続く咳を伴っていた方は21%でした。咳の原因として最も多かったのは、かぜなどの急性上気道感染症でした[2]。
つまり、「何週間も咳をしていないから、骨折ではない」とは言い切れません。
なお、これらは骨折した患者さんを集めて調べた研究です。「咳をした人の何%が骨折するか」を示したものではありません。
骨粗鬆症の方だけに起こるわけではありません
骨粗鬆症などで骨が弱くなっている方では、咳による骨折にも注意が必要です。
ただし、「咳で骨折した=必ず骨粗鬆症」というわけではありません。
メイヨークリニックの研究では、骨密度を測定した26人のうち17人に骨密度の低下がみられましたが、残る9人は正常でした[1]。骨密度が正常な方にも、咳による肋骨骨折は起こります。
咳のような比較的小さな負担で骨折した場合には、年齢や既往歴などに応じて、骨粗鬆症などが隠れていないか確認することも大切です。
こんな痛みがあれば、肋骨骨折の可能性も
咳による肋骨骨折では、次のような症状がみられます。
- 咳やくしゃみをすると、胸や脇腹がズキッと痛む
- 深く息を吸うと痛む
- 寝返りや体をひねる動作で痛む
- 痛い場所を押すと、限られた一点が強く痛む
転倒や打撲によるけがと違い、皮膚のあざや腫れが目立たないこともあります。
ただし、咳のあとの胸痛が、すべて骨折とは限りません。 胸の筋肉や肋骨周囲の組織を痛めていることもあり、肺炎や胸膜炎、気胸などの確認が必要な場合もあります。
レントゲンで異常がなくても、骨折のことがあります
診察では、咳と痛みの経過、痛む場所、呼吸状態などを確認し、必要に応じて画像検査を行います。
小さなひびや、ずれの少ない骨折は、レントゲンで分かりにくいことがあります。
前述のメイヨークリニックの研究では、胸部レントゲンを撮影した52人のうち、レントゲンで骨折が確認できたのは30人(58%)でした[1]。レントゲンで異常がないことだけで、骨折を完全には否定できません。
症状や診察所見に応じて、CTなどの追加検査を検討します。ただし、すべての方にCTが必要なわけではありません。検査は、骨折の確認だけでなく、肺炎や気胸などを調べる目的でも行います。
治療で大切なのは、痛みのコントロールと咳の原因への対応
ずれが少なく、合併症のない肋骨骨折の多くは、手術をせずに治癒します。回復には数週間かかり、痛みが落ち着くまで、さらに時間を要する場合もあります。
治療で大切なのは、痛みを適切に抑え、十分に呼吸できるようにすることです。痛みを我慢して浅い呼吸ばかりになったり、痰を出せなくなったりすると、肺炎などにつながることがあります。
日常生活では、次の点を意識しましょう。
- 痛み止めは、持病や服用中の薬に合わせて医師と相談する
- 重い物を持つなど、痛みが強くなる動作を控える
- 無理のない範囲で体を動かし、ときどきゆっくり深呼吸する
- 咳をするときは、タオルやクッションで痛い部分を軽く支える
- 胸を包帯やベルトで強く締め付けない
痰を出すために必要な咳まで、無理に我慢する必要はありません。
また、骨折への対応と同時に、なぜ咳が続いているのかを調べることも大切です。 感染後に残る咳、喘息や咳喘息、肺炎、百日咳など、原因に応じた治療を行います。
こんな症状があるときは、早めに受診してください
次のような場合は、「咳で肋骨を痛めただけ」と自己判断せず、医療機関を受診してください。
- 胸や脇腹の痛みが続く、または強くなっている
- 痛みで十分に息を吸えない
- 発熱や痰の増加を伴う
- 血の混じった痰が出る
- 息苦しさがある
突然の強い胸痛や、強い呼吸困難がある場合は、救急受診が必要です。 肺や心臓の病気、骨折に伴う合併症などを確認する必要があります。
咳のあとから胸や脇腹が痛むときは、骨折の有無だけでなく、咳の原因も含めて確認することが大切です。症状が続く場合はご相談ください。
参考文献
Hanak V, Hartman TE, Ryu JH. Cough-induced rib fractures. Mayo Clin Proc. 2005;80(7):879–882.
DOI: 10.4065/80.7.879Özyurtkan MO, Arslan Ulukan Z, Temel U. Cough-induced rib fractures: A comprehensive analysis of 90 patients in a single center. Turk Gogus Kalp Damar Cerrahisi Derg. 2024;32(1):69–74.
DOI: 10.5606/tgkdc.dergisi.2024.25655

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