患者さんからの質問:「精神的なショックは心臓に影響しますか?」
最近、患者さんから「強いショックを受けると心臓に悪い影響があるって聞いたことがあるけど、本当ですか?」という質問を受けました。
確かに、強い精神的ストレスが原因で一時的に心臓の働きが悪くなる「たこつぼ症候群(TTS)」という病気があります。これは「ブロークン・ハート・シンドローム(悲しみの心臓症候群)」とも呼ばれ、大切な人を失ったときや強い恐怖を感じたときに起こりやすいことが知られています。
しかし、最近の研究で、「嬉しいこと」や「喜び」でも同じように心臓に影響を与えることがあることがわかってきました。それが**「ハッピー・ハート・シンドローム(HHS)」**です。本記事では、この興味深い疾患について詳しく解説します。
1. たこつぼ症候群(TTS)とは?
💡 たこつぼ症候群の特徴
たこつぼ症候群(Takotsubo Syndrome, TTS)は、急に心臓の一部の働きが悪くなり、左心室が膨らむ病気です(1)。
原因の多くは「精神的または身体的なストレス」で、高齢の女性に多いことが知られています。
🔹 主な症状
✅ 突然の胸痛
✅ 息切れ
✅ 不整脈(脈の乱れ)
症状は心筋梗塞と似ていますが、冠動脈には明らかな閉塞がなく、心臓の一部の動きが一時的に悪くなるのが特徴です(2)。
2. 「ハッピー・ハート・シンドローム」とは?
ハッピー・ハート・シンドローム(Happy Heart Syndrome, HHS)は、TTSの一種ですが、ポジティブな感情が引き金となる点が特徴です(3)。
🎉 発症のきっかけ
以下のような「嬉しい出来事」が原因となることがあります:
✅ 家族や友人との楽しい時間
・誕生日パーティーや結婚記念日
・孫の誕生や初めての抱っこ
✅ 旅行やリラックスした時間
・待ちに待った旅行
・コンサートやオペラ鑑賞での感動
✅ スポーツやギャンブル
・好きなチームの優勝
・大きな賞金の当選
✅ 仕事やキャリアの成功
・昇進や大きな仕事の成功
・家族の健康回復を祝う瞬間
このように、「幸せな出来事」がTTSを引き起こすケースがあることが報告されています(4)。
3. たこつぼ症候群(TTS)とハッピー・ハート・シンドローム(HHS)の比較
項目 | たこつぼ症候群(TTS) | ハッピー・ハート・シンドローム(HHS) |
---|---|---|
発症要因 | ネガティブなストレス(悲しみ、恐怖、怒り、喪失感など) | ポジティブなストレス(喜び、驚き、興奮、祝福など) |
発症頻度 | 約30%(TTS全体の中で) | 約5%未満(TTS全体の中で) |
主な患者層 | 高齢女性(90%以上が女性) | 高齢女性が多いが、男性の割合がやや高め |
心臓の収縮異常のタイプ | アペカル・バルーニング(心尖部が膨らむ)が最多 | ミッド・バルーニング(中位心室の膨らみ)が比較的多い |
主な症状 | 胸痛、息切れ、不整脈 | 胸痛、息切れ、不整脈(TTSと同様) |
診断方法 | 心電図、心エコー、冠動脈造影、血液検査(トロポニンやBNP測定) | 心電図、心エコー、冠動脈造影、血液検査(TTSと同様) |
予後(予測される経過) | 軽快することが多いが、急性心不全や不整脈のリスクあり | 予後はTTSと同程度だが、重篤化するケースはまれ |
再発リスク | あり(ストレスを受けやすい人は要注意) | あり(特に感情の起伏が大きい人) |
治療法 | 対症療法(心不全・不整脈の管理、ストレス管理) | 対症療法(TTSと同様) |
予防策 | ストレス管理、適度な運動、リラックス法(瞑想・ヨガなど) | ストレス管理(特に感情の急激な変化に注意)、リラックス法 |
4. 予防と対策
「幸せすぎて心臓が壊れる」なんて信じがたい話ですが、TTSやHHSを防ぐためには、日頃の生活習慣が大切です。
✅ 適度な運動でストレスを管理する
✅ リラックスする時間を作る(瞑想、ヨガ、深呼吸)
✅ 健康診断を定期的に受ける
✅ 過度な興奮を避ける(ギャンブルや感情の起伏が激しい活動はほどほどに)
5. まとめ
✅ たこつぼ症候群(TTS)は、強い精神的・身体的ストレスが原因で心臓の一部が動かなくなる疾患
✅ ハッピー・ハート・シンドローム(HHS)は、TTSの中でも「嬉しい出来事」が引き金になるまれな病態
✅ HHSはTTSに比べると発症頻度が低いが、心臓の収縮異常のパターンや患者層に若干の違いがある
✅ どちらも予後は比較的良好だが、重篤な合併症のリスクもあるため注意が必要
「心が動く」瞬間は、心臓にも大きな影響を与えます。大切なイベントを楽しみながらも、健康管理を怠らず、日頃から心と体を大切にしていきましょう。
(参考文献)
(1)-(4) Stiermaier et al., Trends in Cardiovascular Medicine, 2024.
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