近隣の先生方とNEJMの論文を月に1回オンラインで行っています。Cinical Problem Solvingというセクションの論文を分担して和訳、内容の検討を行います。クリニックで勤務をしているとなかなか論文を読むことも少ないので貴重な機会です。今回の論文は”Too Much of a ood Thing“というタイトルでした。日本語では”過ぎたるはなお及ばざるがごとし”ということになるのでしょうか。今回もGeminiを活用して内容を要約してもらいます。
症例の要約
57歳男性が、3日間続く嘔吐、見当識障害、進行性の意識混乱、全身脱力、構音・嚥下困難で救急搬送された。来院時はGCS 13で、軽度の四肢筋力低下と構音障害があり、当初は脳血管障害や中枢神経感染症が疑われた。しかし頭部CT・MRI、髄液検査で異常を認めず、その後GCS 3まで急速に悪化した。
血漿アンモニアが344 μmol/Lと著明に上昇していた一方、肝機能、肝形態、門脈体循環シャントに異常がなく、非肝硬変性高アンモニア血症と診断された。蛋白摂取中止、高カロリー糖質投与、安息香酸ナトリウム、アルギニン、カルニチン、ラクツロース、リファキシミンによりアンモニアは速やかに低下し、患者は意識を回復した。
その後、低シトルリン・低アルギニン、高グルタミン血症が判明し、遺伝子検査で病原性OTC遺伝子変異NM_000531.6:c.119G>A, p.(Arg40His)が同定された。最終診断は、成人発症のオルニチントランスカルバミラーゼ欠損症であった。発症3日前に食べ放題レストランで大量の高蛋白食を摂取しており、これが発症契機と考えられた。
行われた検査と検査結果
1. 来院時の身体所見
血圧164/116 mmHg、脈拍95/分、呼吸数16/分、室内気SpO₂ 100%、体温35.8℃、BMI 31.9であった。
意識状態は、呼びかけで開眼し指示には従うが混乱しており、GCS 13。認知処理速度低下、構音障害を認めた。脳神経所見は正常で、筋力は両下肢4/5、左上肢4+/5、その他5/5。感覚障害、病的反射、項部硬直はなかった。
2. 一般血液・尿検査
| 検査 | 結果 | 解釈 |
|---|---|---|
| 白血球数 | 7,400/μL | 正常 |
| ヘモグロビン | 正常 | 消化管出血を示唆しない |
| 血小板数 | 正常 | 血液学的異常なし |
| 血糖 | 221 mg/dL | 軽度高値 |
| 基本代謝パネル | その他正常 | 電解質異常・腎不全なし |
| プロトロンビン時間 | 正常 | 肝合成能低下なし |
| 総ビリルビン | 正常 | 肝胆道系異常なし |
| AST、ALT | 正常 | 肝細胞障害なし |
| γ-GTP、ALP | 正常 | 胆汁うっ滞なし |
| CRP | 正常 | 強い炎症所見なし |
| 静脈血液ガス | 正常 | 代謝性アシドーシスなし |
| アルブミン | 2.7 g/dL | 低値だが肝不全を示す所見ではない |
| TSH | 0.1 mIU/L | レボチロキシン過剰補充を示唆 |
| 尿糖 | 陽性 | 高血糖に対応 |
| 尿白血球・亜硝酸塩 | 陰性 | 尿路感染を示唆しない |
| 尿ケトン | 陰性 | 糖尿病性ケトアシドーシスを否定的にする |
血糖上昇は軽度で、電解質、血液ガス、尿ケトンが正常であったため、糖尿病性ケトアシドーシスおよび高浸透圧高血糖状態は否定的であった。
3. 神経画像検査
頭部CTおよび頭部MRIでは、以下の異常を認めなかった。
- 脳梗塞
- 頭蓋内出血
- 脳静脈洞血栓症
- 脳腫瘍
- 画像上の脳炎所見
したがって、来院時に疑われた脳血管障害は否定された。
4. 髄液検査
腰椎穿刺では以下の結果であった。
| 項目 | 結果 |
|---|---|
| 髄液白血球数 | 5/μL未満 |
| 髄液蛋白 | 0.36 g/L |
| 髄液糖 | 133 mg/dL |
| HSV-PCR | 陰性 |
| 髄液培養 | 最終的に陰性 |
細胞数と蛋白は正常であり、単純ヘルペス脳炎を含む感染性・炎症性脳炎は否定的であった。HSV-PCRの結果が出るまではアシクロビルが経験的に投与された。
5. アンモニアおよび肝臓評価
意識がGCS 3まで悪化した時点で測定された血漿アンモニアは344 μmol/Lで、基準値45 μmol/L未満を大きく上回っていた。
肝臓超音波検査では、肝硬変および明らかな門脈体循環シャントを認めなかった。腹部MRIでも肝内門脈体循環シャントは確認されなかった。
以上から、肝硬変やシャントによるものではない「非肝硬変性高アンモニア血症」と判断された。
6. 治療後のアンモニア推移
| 治療開始後 | 血漿アンモニア |
|---|---|
| 治療前 | 344 μmol/L |
| 3時間 | 265 μmol/L |
| 6時間 | 160 μmol/L |
| 12時間 | 110 μmol/L |
| 入院5日目 | 29 μmol/L |
3時間以内に明確な低下がみられたため、準備されていた持続的血液濾過は実施されなかった。
7. 代謝学的検査
高アンモニア血症時に採取された検体では以下の結果であった。
| 項目 | 結果 | 基準範囲 |
|---|---|---|
| グルタミン | 1,137 μmol/L | 462~762 |
| グルタミン酸 | 172 μmol/L | 0~48 |
| シトルリン | 10 μmol/L | 16~56 |
| アルギニン | 22 μmol/L | 32~108 |
| その他のアミノ酸 | 特記すべき異常なし | |
| アシルカルニチン | 正常 |
高グルタミン血症はアンモニア処理の負荷を反映する。低シトルリン・低アルギニンは、尿素回路の近位部、すなわちCPS1またはOTC周辺の障害を示唆した。
アシルカルニチン分析が正常であったため、脂肪酸酸化異常症や一部の有機酸代謝異常は否定的であった。
尿中有機酸および尿中オロト酸も採取されたが、検体が輸送中に紛失し、結果は得られなかった。OTC欠損症であれば、通常はカルバモイルリン酸が細胞質へ流入し、尿中オロト酸が増加する。
8. 微生物学的検査
血液培養、尿培養、髄液培養はいずれも陰性であった。白血球数とCRPも正常であり、尿素分解菌による感染症を含め、感染性高アンモニア血症は否定的であった。
9. 遺伝子検査
尿素回路近位部の遺伝子を解析したところ、OTC遺伝子に以下の病原性変異が同定された。
NM_000531.6(OTC):c.119G>A, p.(Arg40His)
これにより、オルニチントランスカルバミラーゼ欠損症が確定した。
最初に疑われた病名と最終診断
最初に疑われた疾患
来院時には、構音障害、筋力低下、心筋梗塞歴、多数の心血管危険因子があったため、脳梗塞または頭蓋内出血が強く疑われた。クロピドグレル服用中であり、頭蓋内出血も重要な鑑別であった。
また、急性の意識障害から単純ヘルペス脳炎などの中枢神経感染症も疑われ、アシクロビルが経験的に開始された。
ほかに、薬物中毒、糖尿病性代謝異常、甲状腺機能異常、非けいれん性てんかん、肝性脳症などが鑑別に挙げられた。
最終診断
高蛋白食を契機に発症した、成人発症オルニチントランスカルバミラーゼ欠損症による非肝硬変性高アンモニア血症性脳症
診断根拠
- 血漿アンモニア344 μmol/Lという著明な高アンモニア血症
- 肝機能正常、肝硬変なし、門脈体循環シャントなし
- 高グルタミン・高グルタミン酸血症
- 低シトルリン・低アルギニン血症
- 高蛋白食後の発症
- OTC遺伝子の病原性変異p.(Arg40His)
- 家族歴として、兄が12歳時に「髄膜炎」とされ死亡していたこと
兄の死亡は、実際には未診断の高アンモニア血症であった可能性も否定できない。
治療と最終経過
急性期治療
意識がGCS 3まで低下したため、気管挿管して集中治療室へ移された。
アンモニア産生を抑え、体蛋白異化を防ぐ目的で、蛋白摂取を一時中止し、10%ブドウ糖液2 L/日の持続投与を開始した。
薬物療法として以下が投与された。
- 安息香酸ナトリウム
- アルギニン
- カルニチン
- ラクツロース
- リファキシミン
- 利尿と安息香酸排泄を促す等張食塩水
安息香酸ナトリウムはグリシンと結合して馬尿酸となり、尿素回路を介さずに窒素を尿中へ排泄させる。ラクツロースとリファキシミンは腸管内でのアンモニア産生・吸収を減らす。
血漿アンモニアが200 μmol/Lを超え、昏睡していたため、持続的静脈・静脈血液濾過の準備も行われた。しかし薬物治療開始後3時間でアンモニアが明確に低下したため、血液浄化療法は見送られた。
栄養再開
長期間の蛋白中止は筋蛋白異化を悪化させ、逆にアンモニアを増やす。このため、治療開始後早期から1日0.3 g/kgずつ蛋白を増量し、4日間で最大1.2 g/kg/日まで戻した。必要カロリーは炭水化物と脂質で補充した。
回復経過
入院5日目、アンモニアは29 μmol/Lまで低下し、患者は完全に覚醒した。抜管後、一般病棟へ転棟した。
安息香酸ナトリウムとカルニチンは6日間で終了し、ラクツロースとリファキシミンはその2日後に終了した。アルギニンはシトルリンへ変更された。
入院14日目に退院した。退院後は次の管理が行われた。
- 蛋白摂取を1.2 g/kg/日以下に制限
- シトルリン継続
- 発熱、感染、嘔吐、絶食時の緊急対応計画を作成
- 臨床遺伝部門での家族カウンセリング
- 疲労・短期記憶障害に対する神経認知リハビリテーション
3か月後まで高アンモニア血症の再発はなかったが、疲労感と短期記憶障害は持続していた。
Figureの解説
Figure 1A:肝外におけるアンモニア処理
蛋白質の分解や腸内細菌の代謝によってアンモニアが産生される。
末梢組織では、毒性の高いアンモニアをグルタミン合成酵素によってグルタミンの形に変え、一時的に無毒化する。グルタミンは小腸でグルタミナーゼにより分解され、再びアンモニアとグルタミン酸を生じる。
腸管由来のアンモニアは門脈を介して肝臓に入り、主として門脈周囲肝細胞の尿素回路で尿素に変換される。残ったアンモニアは中心静脈周囲肝細胞で再びグルタミンに取り込まれる。
この図は、肝臓が「尿素回路」と「グルタミン合成」という二段階の安全装置でアンモニアを処理していることを示している。
Figure 1B:尿素回路とOTC欠損症
尿素回路では、まずCPS1がアンモニアと重炭酸からカルバモイルリン酸を生成する。次にOTCがカルバモイルリン酸とオルニチンを反応させ、シトルリンを作る。
本症例ではOTC活性が低下しているため、
- シトルリン産生が低下する
- 下流のアルギニンも低下する
- アンモニアを尿素に変換できない
- カルバモイルリン酸が蓄積する
蓄積したカルバモイルリン酸は細胞質に流出し、CPS2を介してオロト酸へ変換される。このため、OTC欠損症では通常、尿中オロト酸が増加する。
本症例では尿中オロト酸検体が紛失したが、アミノ酸分析と遺伝子検査により診断できた。
なお、本文の主要FigureはFigure 1のみである。補足資料にはFig. S1があると記載されているが、今回のPDFには補足図そのものは収載されていない。
より早く適切な診断ができた可能性
この患者は生存したが、より早期に高アンモニア血症を認識できた可能性はある。
来院時点で、急性意識障害、嘔吐、構音障害がある一方、明確な局在神経症状に乏しく、電解質、腎機能、肝機能、炎症反応がほぼ正常であった。この段階で血漿アンモニアを測定していれば、GCS 3まで悪化する前に治療を開始できた可能性がある。
特に重要だった追加問診は次の2点である。
発症直前の食事内容
発症3日前の大量高蛋白食は、OTC欠損症を顕在化させる重要な情報だった。
小児期死亡を含む家族歴
兄の「髄膜炎死」は、X連鎖性疾患であるOTC欠損症を示唆する可能性があった。
高アンモニア血症では、治療開始の遅れが脳内グルタミン増加、脳浮腫、不可逆的神経障害につながる。早期測定と治療によって、昏睡、挿管、退院後の短期記憶障害を軽減できた可能性はある。ただし、来院前にすでに3日間症状が続いており、早期診断によって後遺症を完全に防げたと断定することはできない。
オルニチントランスカルバミラーゼ欠損症の要約
OTC欠損症は、尿素回路異常症のなかで最も多い疾患で、X連鎖性遺伝形式をとる。
OTCは肝細胞ミトコンドリア内で、カルバモイルリン酸とオルニチンからシトルリンを合成する酵素である。活性が低下するとアンモニアを尿素として排泄できず、高アンモニア血症をきたす。
重症男性では新生児期に発症するが、酵素活性が部分的に残る変異では、小児期や成人期まで無症状で経過することがある。男性患者の成人発症は全男性症例の5%未満とされる。
代表的な誘因は、感染、手術、絶食、嘔吐、脱水、ステロイド、妊娠・産褥、過剰な蛋白摂取などである。
急性期には嘔吐、食欲不振、行動異常、見当識障害、構音障害、傾眠、けいれん、昏睡を呈する。精神疾患、脳炎、脳卒中、薬物中毒と誤診されることがある。
ガイドラインに基づく管理
以下は、本論文が引用しているHäberleらの尿素回路異常症ガイドライン改訂版を中心とした整理である。2026年4月以降に公表された追加改訂については、現在ウェブ検索が利用できないため独立には確認できていない。
急性高アンモニア血症
急性意識障害では、肝硬変の有無にかかわらず早期にアンモニアを測定する。高値であれば、アミノ酸、アシルカルニチン、尿中有機酸・オロト酸などの検体を治療前に採取するが、検体採取のために治療を遅らせてはならない。
蛋白摂取は一時的に中止し、高濃度ブドウ糖を中心とした非蛋白カロリーを投与して異化を抑制する。ただし蛋白中止は原則24時間以内にとどめ、速やかに再導入する。
窒素除去薬として安息香酸ナトリウムを用いる。アンモニアが200 μmol/Lを超える場合、または3時間以内に十分低下しない場合には、フェニル酢酸、フェニル酪酸などグルタミン結合型の窒素除去薬を追加する。
アルギニンまたはシトルリンを補充し、尿素回路に必要な中間体を供給する。病型によってはN-カルバミルグルタミン酸も考慮される。
昏睡、急速な悪化、治療開始後もアンモニアが低下しない場合には、血液浄化を直ちに開始する。持続的血液濾過透析は反跳性上昇を抑えやすいが、極めて高値の場合には最初に間欠的血液透析で急速に除去し、その後持続療法へ移行する方法も考えられる。
慢性期管理
慢性期には蛋白を完全に避けるのではなく、成長、筋量、栄養状態を保てる範囲で個別に調整する。過度の蛋白制限は筋異化を起こし、かえってアンモニア産生を増やす。
シトルリンまたはアルギニンを継続し、必要に応じて安息香酸ナトリウムやフェニル酪酸系薬剤を使用する。
感染、発熱、嘔吐、絶食、手術時には早期に糖質を補給し、通常食を中断する「sick-day plan」が重要である。家族に遺伝カウンセリングと保因者・罹患者検査を提案する。
反復する重症発作、薬物・食事療法で管理困難な症例、重大な神経障害リスクがある場合には肝移植を検討する。肝移植は肝臓の尿素回路機能を正常化するが、すでに生じた神経障害を回復させるものではない。
論文タイトルの意味
“Too Much of a Good Thing” は、「良いものでも、度が過ぎれば害になる」という意味である。
この症例では、蛋白質は本来生命維持に不可欠な「良いもの」だが、部分的なOTC活性しかない患者が大量に摂取したことで、尿素回路の処理能力を超える窒素負荷が生じた。結果としてアンモニアが蓄積し、昏睡に至った。
つまりタイトルは、高蛋白食という一見健康的・栄養的な行為が、潜在的な尿素回路異常症を顕在化させたことを表現した言葉遊びである。
続いてバーチャルカンファレンスを行ってみます。
バーチャル症例検討会
「Too Much of a Good Thing」―成人発症OTC欠損症
参照症例:57歳男性、非肝硬変性高アンモニア血症からオルニチントランスカルバミラーゼ欠損症と診断された症例。
1.はな子先生による症例提示
はな子先生(研修医1年目):
「それでは症例を提示します。
患者は57歳男性です。高血圧、2型糖尿病、原発性甲状腺機能低下症、喘息、肥満、閉塞性睡眠時無呼吸、心筋梗塞の既往がありました。
第1段階:発症
来院3日前から嘔吐が出現し、曜日がわからないなどの見当識障害が徐々に進行しました。来院当日には、自分が服用している薬の名前を思い出せなくなり、全身脱力、構音困難、嚥下困難も出現しました。
頭痛、発熱、視覚障害、感覚障害、体重減少はありませんでした。
第2段階:来院時所見
血圧164/116 mmHg、体温35.8℃、GCS 13でした。
神経学的には、認知処理速度の低下、構音障害、両下肢と左上肢の軽度筋力低下がありました。ただし、脳神経障害、感覚障害、項部硬直はありませんでした。
心筋梗塞歴と複数の動脈硬化危険因子があったため、当初は脳梗塞または頭蓋内出血が疑われました。
第3段階:初期検査
頭部CTとMRIでは、脳梗塞、頭蓋内出血、脳静脈洞血栓症、腫瘍、脳炎を示す異常はありませんでした。
血液検査では、白血球数、CRP、電解質、腎機能、肝胆道系酵素、凝固能、静脈血液ガスは正常でした。血糖は221 mg/dLでしたが、尿ケトンは陰性で、糖尿病性ケトアシドーシスや高浸透圧高血糖状態は否定的でした。
髄液検査では細胞数増加や蛋白上昇はなく、HSV-PCRも陰性でした。経験的に開始されたアシクロビルは中止されました。
第4段階:急激な悪化
同日午後、患者はGCS 3となり、気管挿管されて集中治療室へ移されました。
この時点で測定した血漿アンモニアが344 μmol/Lと著明に上昇していました。
一方で肝機能は正常で、肝超音波検査でも肝硬変や門脈体循環シャントはありませんでした。このため、非肝硬変性高アンモニア血症による脳症と判断されました。
第5段階:急性期治療
蛋白摂取を一時中止し、10%ブドウ糖液を投与して体蛋白異化を抑制しました。
さらに、
- 安息香酸ナトリウム
- アルギニン
- カルニチン
- ラクツロース
- リファキシミン
が投与されました。
血液濾過の準備も行われましたが、アンモニアは治療開始後3時間で265 μmol/L、6時間で160 μmol/L、12時間で110 μmol/Lまで低下したため、血液浄化は実施されませんでした。
入院5日目にはアンモニアは29 μmol/Lとなり、意識は完全に回復しました。
第6段階:原因検索
高アンモニア血症時の血漿アミノ酸分析では、
- グルタミン高値
- グルタミン酸高値
- シトルリン低値
- アルギニン低値
を認めました。
この所見から、尿素回路の近位部、特にCPS1またはOTCの障害が疑われました。
尿中オロト酸は検体紛失のため測定できませんでしたが、遺伝子検査でOTC遺伝子の病原性変異、c.119G>A、p.Arg40Hisが同定されました。
第7段階:最終診断
最終診断は、成人発症のオルニチントランスカルバミラーゼ欠損症です。
追加問診では、発症3日前に食べ放題レストランで大量の高蛋白食を摂取していたことが判明しました。これが高アンモニア血症の誘因と考えられました。
また、兄が12歳時に『髄膜炎』とされて死亡していたことも判明しました。兄も未診断のOTC欠損症による高アンモニア血症であった可能性があります。
患者は蛋白摂取を1.2 g/kg/日以下とし、シトルリンを継続して退院しました。3か月後まで再発はありませんでしたが、疲労感と短期記憶障害が残存していました。」
2.ディスカッション
最初にアンモニアを測定すべきだったか
はな子先生:
「サトシ先生、この患者さんは肝疾患がなく、肝機能検査も正常でした。来院時からアンモニアを測定するべきだったのでしょうか。肝硬変のない患者でアンモニアを測る発想がなかなか浮かびません。」
サトシ先生(指導医15年目):
「非常に重要な疑問です。
結論としては、この症例では来院時、少なくとも頭部画像と基本的な代謝検査で原因が明らかにならなかった時点で、アンモニアを測定すべきでした。
高アンモニア血症は肝硬変だけで起こるものではありません。非肝硬変性高アンモニア血症の原因には、尿素回路異常症、薬剤、感染症、栄養障害、消化管出血、悪性腫瘍、門脈体循環シャントなどがあります。
この患者には、いくつかの特徴がありました。
まず、嘔吐と進行性意識障害が主症状であること。次に、頭部画像に異常がなく、電解質、腎機能、肝機能、炎症反応も正常だったこと。そして局在性神経症状が明確ではないことです。
このように、原因不明の急性脳症では、肝疾患の有無にかかわらずアンモニアを鑑別に入れる必要があります。
高アンモニア血症では、検査が遅れるほど脳内にグルタミンが蓄積し、脳浮腫や不可逆的な神経障害につながります。この症例でも、GCS 3になる前に治療できていれば、挿管や後遺症を回避できた可能性があります。」
なぜ57歳まで発症しなかったのか
はな子先生:
「OTC欠損症は新生児や小児の病気という印象があります。男性なのに、なぜ57歳まで大きな発作を起こさなかったのでしょうか。」
サトシ先生:
「OTC欠損症の重症度は、OTC酵素活性がどの程度残っているかで大きく異なります。
OTC欠損症はX連鎖性疾患です。男性はX染色体を1本しか持たないため、酵素活性がほとんどない重症変異では、新生児期に重篤な高アンモニア血症を発症します。
しかし、今回のように酵素活性が部分的に残る変異では、日常的な窒素負荷をある程度処理できます。そのため、長期間無症状または軽症のまま経過することがあります。
ただし、次のような状況では処理能力を超えます。
- 大量の蛋白摂取
- 感染症
- 手術
- 長時間の絶食
- 嘔吐や脱水
- ステロイド投与
- 急速な筋蛋白異化
今回の患者では、大量の高蛋白食が直接の窒素負荷となり、その後の嘔吐と摂取不良が異化を促進したと考えられます。
つまり、単に『肉を食べすぎた』だけではありません。蛋白負荷と異化亢進が重なり、残存していた尿素回路能力を超えたのだと思います。」
代謝検査はどのように読むのか
はな子先生:
「高グルタミン、低シトルリン、低アルギニンから、なぜOTC欠損症が疑われるのでしょうか。」
サトシ先生:
「尿素回路の流れに沿って考えると理解しやすいです。
アンモニアはまずCPS1によってカルバモイルリン酸になります。次にOTCが、カルバモイルリン酸とオルニチンからシトルリンを作ります。
OTCが働かないと、シトルリンが作られません。そのため血中シトルリンが低下し、その下流で産生されるアルギニンも低下します。
一方、処理できないアンモニアは、末梢組織や脳でグルタミン酸と結合し、グルタミンになります。このため高グルタミン血症になります。
したがって、
高アンモニア+高グルタミン+低シトルリン
という組み合わせは、尿素回路近位部の異常を示唆します。
CPS1欠損症とOTC欠損症を区別するうえでは、尿中オロト酸が重要です。
OTC欠損症では余ったカルバモイルリン酸が細胞質へ流れ、ピリミジン合成経路を通ってオロト酸になります。そのため尿中オロト酸が上昇します。
CPS1欠損症ではカルバモイルリン酸自体が作られにくいため、尿中オロト酸は通常上昇しません。
今回は尿検体が紛失しましたが、最終的には病原性OTC遺伝子変異が同定され、診断が確定しました。」
なぜ血液透析をしなかったのか
はな子先生:
「アンモニアが344 μmol/Lで、しかもGCS 3でした。それでも血液透析や持続的血液濾過を実施しなかった判断は適切だったのでしょうか。」
サトシ先生:
「ここは議論の余地があります。
昏睡を伴い、アンモニアが200 μmol/Lを超えているため、血液浄化を早期に開始してもよい重症例です。特に成人では、脳浮腫の危険性を考慮すると、血液透析または高流量の持続的血液濾過透析を積極的に考えます。
一方で、この患者では窒素除去療法開始後、3時間で344から265 μmol/Lへ低下し、6時間で160 μmol/Lまで低下しました。明確かつ持続的な低下が確認されたため、血液浄化が見送られました。
論文の判断は、アンモニアが3時間以内に低下していることを重視しています。
ただし、私なら次の点を同時に評価します。
- 神経学的改善があるか
- 脳浮腫の所見がないか
- アンモニアの低下速度が十分か
- 薬剤の確実な供給が継続できるか
- 腎機能と尿量が保たれているか
この症例では最終的に回復しましたが、治療開始時点で血液浄化用カテーテルを早期に確保することも合理的だったと思います。
つまり、『透析をしなかったから正解』なのではなく、『すぐ開始できる準備をしながら、3時間単位で反応を評価した』ことが重要です。」
ラクツロースとリファキシミンは必要か
はな子先生:
「ラクツロースとリファキシミンは肝性脳症で使う薬だと思っていました。OTC欠損症にも有効なのでしょうか。」
サトシ先生:
「腸管由来のアンモニアを減らすという意味では有用です。
ただし、OTC欠損症の本質的な問題は、肝臓の尿素回路によるアンモニア処理障害です。したがって、治療の中心は次の3本柱です。
第一に、異化を止めるための高カロリー投与。
第二に、安息香酸ナトリウムやフェニル酢酸系薬剤による窒素除去。
第三に、必要に応じた血液浄化です。
ラクツロースとリファキシミンは補助的治療です。これらだけで重症の尿素回路異常症を治療することはできません。
肝性脳症と同じ感覚で、ラクツロースを投与して経過を見るだけでは危険です。」
なぜ蛋白を早期に再開するのか
はな子先生:
「高蛋白食が原因なら、しばらく蛋白を完全に止めた方が安全に思えます。なぜ24時間程度で再開するのでしょうか。」
サトシ先生:
「蛋白摂取を長く止めると、患者自身の筋肉が分解されます。
筋蛋白が分解されれば、体内から大量のアミノ酸と窒素が放出されます。結果として、食事由来の蛋白を止めているにもかかわらず、アンモニア産生が増えてしまいます。
急性期には一時的に蛋白を中止しますが、十分なブドウ糖と脂質を投与し、異化を抑えます。そしてアンモニアが改善し始めたら、少量ずつ必須アミノ酸を含む蛋白を再導入します。
『高アンモニア血症だから蛋白をゼロにする』ではなく、『処理可能な範囲で蛋白を供給し、異化を防ぐ』ことが重要です。」
家族歴の意味
はな子先生:
「兄が12歳で髄膜炎とされて亡くなったという情報は、どのように解釈すべきでしょうか。」
サトシ先生:
「かなり重要な情報です。
OTC欠損症はX連鎖性です。同じ母親から生まれた兄弟男性が病原性変異を受け継いでいた可能性があります。
高アンモニア血症では、嘔吐、意識障害、けいれん、脳浮腫が起こります。過去には、原因不明の脳炎、髄膜炎、Reye症候群、敗血症などと診断されていた可能性があります。
もちろん、兄が実際にOTC欠損症であったと証明することはできません。しかし家族内の小児期死亡、反復する嘔吐、蛋白食を嫌う家族、産褥期に意識障害を起こした女性などがいないかを詳しく確認すべきです。
母親、姉妹、娘などの女性親族は保因者である可能性があります。女性保因者も、偏ったX染色体不活化によって重症の高アンモニア血症を起こすことがあります。」
3.タケシ教授による総括
タケシ教授(内科学教授):
「二人の議論をまとめます。
この症例の最大の教訓は、原因不明の急性意識障害において、肝硬変がなくても高アンモニア血症を考える必要があるという点です。
患者は構音障害と筋力低下を呈していたため、脳血管障害を疑うのは妥当でした。また、急性脳炎を想定してアシクロビルを開始したことも理解できます。
問題は、頭部画像、髄液、電解質、腎機能、肝機能で原因を説明できなかった後も、アンモニア測定が意識状態の悪化まで行われなかったことです。
アンモニアは安価で迅速に測定できる検査です。原因不明の意識障害、嘔吐、異常行動、けいれん、過換気がある場合には、肝疾患の有無にかかわらず早期に測定すべきです。
次に、OTC欠損症は小児だけの疾患ではありません。部分的な酵素活性を持つ患者は、感染、手術、絶食、高蛋白食などを契機に、成人期、時には中高年になって初めて発症します。
診断では、血漿アミノ酸と尿中オロト酸が重要です。
OTC欠損症では、アンモニアとグルタミンが上昇し、シトルリンとアルギニンが低下します。尿中オロト酸は通常上昇します。最終的な確定には遺伝子解析が有用です。
治療は時間との勝負です。
蛋白を一時中止し、高カロリー糖質投与で異化を止める。窒素除去薬を投与する。必要に応じてアルギニンまたはシトルリンを補う。重症例では血液浄化をためらわない。この一連の処置を、原因確定前から開始することが重要です。
また、急性期を救命できても神経学的後遺症が残ることがあります。この患者でも疲労と短期記憶障害が残りました。アンモニア値の正常化は、脳機能が完全に回復したことを意味しません。
最後に、本症例のタイトルである『Too Much of a Good Thing』は、生命維持に必要な蛋白質であっても、尿素回路に潜在的な障害がある人にとっては、過剰摂取が致命的になりうることを示しています。」
Take Home Message
タケシ教授:
原因不明の急性意識障害では、肝疾患がなくてもアンモニアを早期に測定する。
成人で初めて発症した高アンモニア血症でも、尿素回路異常症を除外してはならない。
高アンモニア血症では、診断確定を待たずに異化抑制、窒素除去、必要に応じた血液浄化を開始する。
高蛋白食、感染、絶食、手術は、潜在性OTC欠損症を顕在化させる。
成人発症の遺伝性代謝疾患という視点を持つことが、患者本人だけでなく家族の救命にもつながる。
タケシ教授:
「以上で症例検討会を終了します。」

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