研究

RSウイルスワクチンフォーラムに参加しました

ニュース等でご存知のかたもいらっしゃるでしょうが、新しくRSウイルスに対するワクチン「アレックスビー」が承認されました、その勉強のため東京出張でフォーラムに参加して勉強しました。講演会の主要なテーマは、RSウイルスワクチンの開発の歴史とその重要性でした。基調講演では、このワクチンが50年以上の長い期間を経て開発されたことが紹介されました。特に注目すべきは、RSウイルス感染症が単なる「子供の病気」というイメージを超え、全年齢層に影響を及ぼす可能性があるという点です。実際、ほとんどの子供は2歳までにこのウイルスに感染していますが、免疫応答は不完全で、再感染の可能性があります。さらに、高齢者においては感染に伴う重症化リスクが高まることが指摘されています。

海外の疫学研究をもとにした推定(文献1)では日本では年間約70万人がRSウイルスによる急性呼吸器感染症(RSV-ARI)に罹患しており、入院件数は約6万件、死亡者数は約4000名にのぼるのではないかとのことでした。これらの数字からわかることは、RSウイルス感染は予想外に頻度が高く、重症化する例も少なくないとのことでした。

日本においては、2023年には80歳以上の高齢者が人口の10%を占めるなど、高齢化が進行しています。このため、RSウイルスワクチンの重要性は特に高まっており、高齢者への普及が必要ではないかとのことでした。

RSウイルスは成人では抗原検査での偽陰性率も高くなかなか診断が難しいこと、またインフルエンザに対するタミフル、新型コロナウイルスに対するゾコーバのような抗ウイルス剤がまだないためワクチン接種による予防がより重要であろうとのことでした。

今回承認された新しいワクチンの有効性ですがアメリカCDCが集めた60歳以上の24,994人のデータに基づくと、RSウイルスワクチンの効果は以下のようになります(文献2)。

まず、RSウイルスへの感染リスクが約4分の1~5分の1に減少します(ワクチン有効性:74.6~82.58%)。また、RSウイルスによる入院のリスクが約5分の1になります(ワクチン有効性76.4%)。さらに、酸素投与や人工呼吸器が必要な重症化のリスクも約5分の1に減少します(ワクチン有効性76.4%)。ただし、この試験ではRSウイルスによる死亡例は確認されていないため、死亡率に関する効果は明らかではありませんが、重症化リスクの低減から死亡リスクの減少も期待できるようです。

今回の講演会は、RSウイルスワクチンの重要性を改めて認識させるものでした。当院でも準備ができましたらRSワクチンの接種を開始しようかと考えています。

参考文献

  1. Savic M, Penders Y, Shi T, Branche A, Pirçon J-Y. Respiratory syncytial virus disease burden in adults aged 60 years and older in high-income countries: A systematic literature review and meta-analysis. Influenza Other Respi Viruses. 2023;17(1):e13031. doi:10.1111/irv.13031.
  2. Papi A, Ison MG, Langley JM, Lee D-G, Leroux-Roels I, Martinon-Torres F, et al. Respiratory Syncytial Virus Prefusion F Protein Vaccine in Older Adults. N Engl J Med. 2023 Feb 16;388(7):595-608. doi: 10.1056/NEJMoa2209604.

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