研究

SIRVモデルシミュレーション:ワクチン接種効果の視覚的理解

昨今、日本を含む世界各地で麻疹(はしか)の流行が報告されています。麻疹は非常に感染力が強く、基本再生産数(R₀)が12〜18と言われる感染症です。つまり、1人の感染者が平均して12〜18人に感染を広げる可能性があるということです。このような高い感染力を持つ疾患に対しては、ワクチン接種による予防が極めて重要になります。

こうした感染症の広がり方とワクチン接種の重要性を視覚的に理解するため、以前公開した「COVID-19のSIRモデルにワクチン接種率を組み込んでみました」のシミュレーションを大幅に改良しました。

技術的な進歩により、現在ではAIがコーディングをサポートしてくれるようになったため、このたび新しくSIRVモデルシミュレーションを作り直しました。様々なパラメーターを自由に調整できるインタラクティブな機能を備えていますので、いろいろと数値を変えてみると面白い結果が得られると思います。

SIRVモデルとは何か?

従来のSIRモデル(Susceptible-Infected-Recovered:感受性者-感染者-回復者モデル)は、感染症の基本的な数理モデルとして広く用いられてきました。SIRVモデルはこれを拡張し、V(Vaccinated:ワクチン接種者) を明示的に分離したモデルです。

このモデルでは、人口が4つの集団に分類されます:

  • S(感受性者): まだ感染していないが、感染する可能性のある人々
  • I(感染者): 現在感染しており、他者に感染を広げる可能性のある人々
  • R(回復者): 感染から回復し、免疫を持つ(または死亡した)人々
  • V(ワクチン接種者): ワクチン接種によって免疫を獲得した人々

ワクチン接種者を明示的に回復者と区別することで、ワクチン政策の効果をより明確に可視化できる点が大きな特徴です。

新しいシミュレーションの特徴

今回開発した新しいSIRVモデルシミュレーションには、以下のような特徴があります:

  1. インタラクティブな操作性:スライダーを動かすだけで様々なパラメータを即座に調整でき、結果をリアルタイムで確認できます
  2. 視覚的な分かりやすさ:各集団(S, I, R, V)が色分けされ、時間経過とともにどのように変化するかを直感的に理解できます
  3. ワクチン政策のシミュレーション
    • 初期ワクチン接種率の設定
    • ワクチン接種開始日の設定
    • 日々のワクチン接種率の設定
  4. アニメーション機能:感染拡大の時間的変化を視覚的にアニメーションとして表示
  5. 詳細な数値表示:各時点での感受性者・感染者・回復者・ワクチン接種者の正確な割合を数値で確認できます

シミュレーションの数理モデル

SIRVモデルは以下の微分方程式で表現されます:

  • dS/dt = -βSI – v(t)S
  • dI/dt = βSI – γI
  • dR/dt = γI
  • dV/dt = v(t)S

ここで:

  • β(ベータ)は感染率
  • γ(ガンマ)は回復率
  • v(t)は時間tにおける日々のワクチン接種率

特に注目すべきは v(t) の扱いです:

  • t < ワクチン接種開始日 のとき、v(t) = 0
  • t ≥ ワクチン接種開始日 のとき、v(t) = 設定された日々のワクチン接種率

実際にシミュレーションを試してみよう

以下にシミュレーターを埋め込んでいますので、様々なパラメータを調整して感染症の広がり方やワクチン接種の効果を確認してみてください。いろいろとパラメーターを変えると面白い結果が得られますので、ぜひお試しください。

SIRVモデルシミュレーション

感受性者(S)
99%
感染者(I)
1%
回復者(R)
0%
ワクチン接種者(V)
0%
日数
0
基本再生産数(R₀)
2.4
0 3
0 1
0.1% 50%
0% 95%
1 100
0% 5%
10 500
感受性者 (S)
感染者 (I)
回復者 (R)
ワクチン接種者 (V)
ワクチン接種開始日

SIRVモデルについて

このシミュレーションは、従来のSIRモデルを拡張し、ワクチン接種者(V)を明示的に表示するSIRVモデルを実装しています。4つの集団に分類されます:

  • S (感受性者): まだ感染していないが、感染する可能性のある人々
  • I (感染者): 現在感染しており、他者に感染を広げる可能性のある人々
  • R (回復者): 感染から回復し、免疫を持つ(または死亡した)人々
  • V (ワクチン接種者): ワクチン接種によって免疫を獲得した人々

モデルのパラメータ:

  • β (感染率): 感染者と感受性者の接触で感染が起こる確率
  • γ (回復率): 感染者が回復する割合(1/γ は平均感染期間)
  • R₀ (基本再生産数): 一人の感染者が平均して何人に感染させるかを示す値(β/γ で計算)
  • 初期ワクチン接種率: 人口のうち、最初からワクチン接種によって免疫を持つ人の割合
  • ワクチン接種開始日: 初期状態以降、新たにワクチン接種が開始される日
  • 日々のワクチン接種率: 開始日以降、1日あたりに感受性者から免疫を獲得する人口の割合

微分方程式(ワクチン接種を含む):

  • dS/dt = -βSI – v(t)S
  • dI/dt = βSI – γI
  • dR/dt = γI
  • dV/dt = v(t)S

ここで v(t) は時間 t における日々のワクチン接種率で、次のように定義されます:

  • t < ワクチン接種開始日 のとき、v(t) = 0
  • t ≥ ワクチン接種開始日 のとき、v(t) = 日々のワクチン接種率

基本再生産数(R₀)について:

  • R₀ < 1: 感染症は自然に収束する
  • R₀ = 1: 感染症は定常状態を維持する
  • R₀ > 1: 感染症は拡大する(値が大きいほど速く拡大)

集団免疫の閾値:

  • 集団免疫を達成するために必要なワクチン接種率 = 1 – 1/R₀
  • 例:R₀ = 4 の場合、75%以上のワクチン接種率が必要(1 – 1/4 = 0.75)

このモデルの特徴:

  • ワクチン接種者(V)を回復者(R)と区別して表示するため、ワクチン政策の効果をより明確に可視化できる
  • ワクチン接種開始のタイミングを調整することで、接種タイミングの重要性を観察できる
  • 日々のワクチン接種率を変えることで、様々なワクチン展開戦略をシミュレーションできる

麻疹(はしか)の流行をシミュレーションで理解する

前述のように、麻疹は基本再生産数(R₀)が12〜18と非常に高い感染症です。このシミュレーターを使って麻疹の流行をモデル化するには、以下のような設定が考えられます:

  • 感染率(β)= 1.5
  • 回復率(γ)= 0.1(平均回復期間は約10日)
  • これにより、R₀ = β/γ = 1.5/0.1 = 15となります

この設定でシミュレーションを実行すると、ワクチン接種がない場合、人口のほとんどが感染することになります。麻疹の集団免疫閾値は1-1/R₀ = 1-1/15 ≈ 93%です。つまり、人口の93%以上がワクチン接種または既往感染による免疫を持たなければ、麻疹の流行を防ぐことができません。

このように、麻疹のような高い感染力を持つ疾患では、高いワクチン接種率が必要不可欠であることが視覚的に理解できます。


皆さんも、ぜひ上のシミュレーターを使って様々なシナリオを試してみてください。いろいろとパラメーターを変えると面白い結果が得られ、感染症の広がり方やワクチンの効果について、直感的な理解が深まるはずです。ご質問やご意見がありましたら、ぜひコメント欄にお寄せください。

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