未分類

心房細動リスク評価スコアの比較:CHADS2、CHA2DS2-VASc、HELT-E2S2

Open AI社の開発したAI(人工知能)が話題になっています。その中でもDeep Researchという深い推論を行う機能が注目を集めています、今回はそのDeep Researchを利用して心房細動のリスク評価スコアについてまとめてみました。

心房緑動は不整脈の一種で、心臓の中で血液がよどむことで血液がかたまり、それが脳に飛ぶと脳梗塞を起こす危険があります。この脳梗塞を防ぐためには、りくつかのリスク因子を評価して、適切な治療を決定することが重要です。そのために、「リスク評価スコア」を利用して、診断の参考にします。Deep Researchを利用して各リスク評価の比較を今回は行ってみました。正確性を重視するため今回の記事は患者さんからは一部難解な内容になっていることご了承ください。

主な3つのリスク評価スコア

スコア名特徴どのような方向けのスコアか
CHADS₂スコアシンプルな5つの要因で評価する。しかし、細かいリスクの違いを反映しにくい。短時間で便利に利用したい場合や、脳梗塞の歴がある方のリスク判断に。
CHA₂DS₂-VAScスコアCHADS₂に「血管病」「年齢の分類」「女性」などを追加し、世界的に広く使われる。65歳以上や女性の心房緑動患者のリスク判断に有効。
HELT-E₂S₂スコア日本人のデータを元に開発。BMIや超高齢者を重視し、細かいリスク判断が可能。日本人の高齢者や疾患の特徴を重視したい場合に有用。

CHADS2スコア: 心房細動患者の脳卒中リスク評価のため最も古くから用いられてきた簡便なスコアです。以下の5項目から構成され、合計点は最大6点になります (Effectiveness of risk stratification according to CHADS2 score in Japanese patients with nonvalvular atrial fibrillation – PubMed):

  • C(Congestive heart failure)心不全:1点
  • H(Hypertension)高血圧:1点
  • A(Age ≥75)年齢75歳以上:1点
  • D(Diabetes mellitus)糖尿病:1点
  • S2(Stroke/TIA)脳卒中または一過性脳虚血発作の既往:2点

CHA2DS2-VAScスコア: CHADS2の拡張版で、より包括的なリスク評価を行うため2010年頃に考案されました (Stroke risk reduction with oral anticoagulation using CHA2DS2-VASc in a Japanese AF population: A modeling analysis – PubMed)。CHADS2の項目に加えて血管疾患や性別などを含めており、合計点は最大9点です (Stroke risk reduction with oral anticoagulation using CHA2DS2-VASc in a Japanese AF population: A modeling analysis – PubMed):

  • C 心不全(左室機能低下含む):1点
  • H 高血圧:1点
  • A2 年齢75歳以上:2点(高齢者を重視)
  • D 糖尿病:1点
  • S2 脳卒中/TIA/動脈塞栓症の既往:2点
  • V 血管疾患(心筋梗塞、末梢動脈疾患など):1点
  • A 年齢65~74歳:1点
  • Sc 女性(Sex category):1点(女性は男性よりリスクがやや高いとされ加点)

HELT-E2S2スコア: 日本人NVAF(非弁膜症性心房細動)患者の5大コホートデータから近年開発された新しいリスクスコアです (A Novel Risk Stratification System for Ischemic Stroke in Japanese Patients With Non-Valvular Atrial Fibrillation – PubMed) (External Validation of the HELT-E2S2 Score in Japanese Patients With Nonvalvular Atrial Fibrillation – A Pooled Analysis of the RAFFINE and SAKURA Registries – PubMed)。日本人で独立したリスク因子と認められた6項目からなり、合計点は最大7点です(年齢に関する項目が2種類ありますが相互に排他的です) (2024 年JCS/JHRS ガイドラインフォーカスアップデート版不整脈治療) (External Validation of the HELT-E2S2 Score in Japanese Patients With Nonvalvular Atrial Fibrillation – A Pooled Analysis of the RAFFINE and SAKURA Registries – PubMed):

  • H(Hypertension)高血圧:1点
  • E(Elderly, 75–84 years)年齢75~84歳:1点
  • L(Low BMI <18.5)低BMI(18.5未満の痩せ):1点
  • T(Type of AF: persistent/permanent)心房細動の型(持続性/永続性):1点
  • E2(Extreme elderly, ≥85 years)超高齢(85歳以上):2点
  • S2(previous Stroke)脳卒中既往:2点

補足: HELT-E2S2では年齢が75~84歳の場合1点、85歳以上の場合2点と細分化されています。また、CHADS2やCHA2DS2-VAScに含まれていた糖尿病・心不全・血管疾患・性別などは、日本人データ解析で独立因子とならなかったため採用されていません (2024 年JCS/JHRS ガイドラインフォーカスアップデート版不整脈治療)。

予測精度(有効性)

予測精度の比較: これらスコアの予測性能は一般にC統計量(c-statistic)で評価され、0.5が当てずっぽう、1.0が完全予測を意味します。CHADS2やCHA2DS2-VAScのC統計量は概ね0.6台後半で、予測精度は中程度です (A Novel Risk Stratification System for Ischemic Stroke in Japanese Patients With Non-Valvular Atrial Fibrillation – PubMed)。日本人対象の大規模解析(J-RISK)では、HELT-E2S2スコアのC統計量は0.681と、CHADS2(0.647)やCHA2DS2-VASc(0.641)より有意に高く、予測精度の向上が示されました (A Novel Risk Stratification System for Ischemic Stroke in Japanese Patients With Non-Valvular Atrial Fibrillation – PubMed)。特にHELT-E2S2は高齢社会の日本で有用と報告されています (External Validation of the HELT-E2S2 Score in Japanese Patients With Nonvalvular Atrial Fibrillation – A Pooled Analysis of the RAFFINE and SAKURA Registries – PubMed)。一方、別の外部検証研究(RAFFINE/SAKURAレジストリの解析)では、HELT-E2S2のC統計量は0.661で、CHADS2(0.644)やCHA2DS2-VASc(0.650)と比べてわずかに高い程度に留まり、統計学的有意差は認められませんでした (External Validation of the HELT-E2S2 Score in Japanese Patients With Nonvalvular Atrial Fibrillation – A Pooled Analysis of the RAFFINE and SAKURA Registries – PubMed)。この検証ではHELT-E2S2の優位性は施設タイプによってばらつきがあり、全ての集団で一貫して他スコアを凌駕するわけではないことも示唆されています (External Validation of the HELT-E2S2 Score in Japanese Patients With Nonvalvular Atrial Fibrillation – A Pooled Analysis of the RAFFINE and SAKURA Registries – PubMed)。つまり、HELT-E2S2は日本人集団で概ね良好な予測能を示すものの、改善幅は中等度で、元のCHADS2/CHA2DS2-VAScに比べ絶対的な差は大きくありません。

高齢者における有効性: 高齢になるほど脳卒中リスクが上昇するため、年齢因子の扱いがスコア性能に影響します。CHA2DS2-VAScでは75歳以上に2点を与え、65~74歳にも1点を与えることで中高年層のリスク評価を細かくしています (Stroke risk reduction with oral anticoagulation using CHA2DS2-VASc in a Japanese AF population: A modeling analysis – PubMed)。CHADS2は75歳以上を1点とするため、高齢者リスクの差異を十分反映しにくい弱点があります。一方、HELT-E2S2は75~84歳と85歳以上でポイントを分け、超高齢者リスクを強調しています (2024 年JCS/JHRS ガイドラインフォーカスアップデート版不整脈治療)。実際、日本は平均寿命が長く超高齢者が多いため、HELT-E2S2のように85歳以上を区別する手法は「超高齢社会」での予測に有用と期待されています (External Validation of the HELT-E2S2 Score in Japanese Patients With Nonvalvular Atrial Fibrillation – A Pooled Analysis of the RAFFINE and SAKURA Registries – PubMed)。高齢患者ではどのスコアでも点数が高くなりがちですが、HELT-E2S2はより精緻に年齢効果を反映することで予測精度向上に寄与しています。

糖尿病患者における有効性: 糖尿病(DM)はCHADS2およびCHA2DS2-VAScでは1ポイントを占める因子ですが、これが日本人における脳卒中発症リスクにどの程度寄与するかは議論があります。Fushimi AFレジストリなど日本のデータでは、糖尿病は単独では有意な独立リスクとならず、「DMがあっても他の因子を調整すると脳卒中リスク上昇と有意に関連しなかった」と報告されています (2024 年JCS/JHRS ガイドラインフォーカスアップデート版不整脈治療)。実際J-RISK解析でも、糖尿病は独立因子から外されHELT-E2S2には組み込まれませんでした (2024 年JCS/JHRS ガイドラインフォーカスアップデート版不整脈治療)。従って糖尿病のみを有する患者では、CHADS2=1点・CHA2DS2-VASc=1点(女性なら2点)となりますが、HELT-E2S2では0点となります。日本人糖尿病患者では、従来スコアがリスクありと判定するケースでもHELT-E2S2上は低リスクと見なされることがあり、糖尿病そのもののリスク寄与の小ささを反映しています。ただし糖尿病は血管疾患や心房細動持続化、心不全悪化など他の要因を介して間接的に脳卒中リスクを高める可能性もあるため、完全に無視してよいわけではありません。その点、CHA2DS2-VAScはDMを加味することで見逃しリスクを減らす設計になっていますが、日本人集団ではDM加点が統計的予測精度を大きく高めていない現状があります (2024 年JCS/JHRS ガイドラインフォーカスアップデート版不整脈治療)。

適用対象

対象患者: いずれのスコアも非弁膜症性心房細動(NVAF)患者を対象に開発・検証されています (Stroke risk reduction with oral anticoagulation using CHA2DS2-VASc in a Japanese AF population: A modeling analysis – PubMed)。リウマチ性心臓病や機械弁などの弁膜症性AF患者は、これらスコアに関わらず脳卒中ハイリスクとみなされるため、元々除外されています。CHADS2とCHA2DS2-VAScは欧米コホートから生まれた汎用的スコアであり、世界中でNVAF患者の抗凝固適応判断に用いられてきました。一方、HELT-E2S2は日本人AF患者のデータに基づいており、肥満度や心房細動の型など日本人集団で意味のある特徴を反映しています (A Novel Risk Stratification System for Ischemic Stroke in Japanese Patients With Non-Valvular Atrial Fibrillation – PubMed)。したがって、日本以外の人種集団にそのまま当てはまるかは未検証の部分もありますが、日本人高齢者や低体重者の多い患者集団に対しては適合性が高いと考えられます (External Validation of the HELT-E2S2 Score in Japanese Patients With Nonvalvular Atrial Fibrillation – A Pooled Analysis of the RAFFINE and SAKURA Registries – PubMed)。また、糖尿病や女性といった因子の扱いも各スコアで異なるため、例えば高齢の女性糖尿病患者ではCHA2DS2-VAScで最大3点(75歳以上2点+女性1点+DM1点=合計4点のケースも)となり高リスク判定されますが、HELT-E2S2では85歳未満なら該当は高血圧1点程度…というように、同じ患者でもスコアにより評価が異なる可能性があります。このような違いは各スコアが想定した集団や重視したリスク因子の違いから生じます。

高齢者への適用: 前述のとおり、CHA2DS2-VAScとHELT-E2S2は高齢者リスクを詳しく評価できるよう設計されています。特にHELT-E2S2は85歳以上で2点となるため、超高齢者では他のスコア以上に点数が上がります (2024 年JCS/JHRS ガイドラインフォーカスアップデート版不整脈治療)。超高齢者ではたとえ他のリスク因子がなくとも年齢だけでHELT-E2S2が2点となり、抗凝固療法を積極的に検討すべき層として浮かび上がります。一方、CHADS2では85歳でも年齢要因は1点に留まるため、高齢そのものの重みづけが低めです。そのためCHADS2だけでは超高齢者のリスクを過小評価する懸念があります。日本人AF患者は欧米に比べやせ型・高齢者が多い傾向にあり、HELT-E2S2はそうした人々への適用に適していると考えられます (A Novel Risk Stratification System for Ischemic Stroke in Japanese Patients With Non-Valvular Atrial Fibrillation – PubMed)。

糖尿病患者への適用: 糖尿病のみを有するAF患者の場合、前述のようにCHADS2やCHA2DS2-VAScでは1点加算されます。この1点が「低リスク」か「中リスク」かの境目に影響するケースがあります。欧州心臓病学会(ESC)ガイドラインではCHA2DS2-VAScスコア1点(男性のDM単独や高血圧単独など)でも抗凝固を考慮することが推奨されており、DMを持つ男性AF患者は治療検討対象となります。しかし日本のデータから開発されたHELT-E2S2ではDMはカウントされないため、糖尿病単独ならスコア0点となり、この点からは抗凝固適応外と評価され得ます。従って、日本人糖尿病患者ではCHA2DS2-VAScに基づく判断とHELT-E2S2に基づく判断が異なるケースがあります。このような患者では他の併存リスク因子(高血圧や持続性AFの有無など)も考慮し総合的に判断する必要があります。すなわち、HELT-E2S2で0点でも、糖尿病を含めリスク因子を複数持つ場合は臨床的には慎重に評価すべきです。実際、日本人AF患者におけるDMの相対リスクが小さいとはいえゼロではないため、DM患者に抗凝固が不要という意味ではありません。

臨床的意義

治療方針への影響: これらリスクスコアは脳卒中予防のための抗凝固療法開始適応を決定する指針としての役割があります。CHADS2スコアでは従来、2点以上でワルファリンなど抗凝固療法を推奨し、0点では不要、1点では医師裁量という扱いが一般的でした (Stroke risk reduction with oral anticoagulation using CHA2DS2-VASc in a Japanese AF population: A modeling analysis – PubMed)。CHA2DS2-VAScスコアではより細かなリスク層別により、**男性で0点・女性で1点が「真の低リスク」**とされ抗凝固不要、それ以上(男性1点以上・女性2点以上)で抗凝固を検討・推奨する方針が広く浸透しています (Stroke risk reduction with oral anticoagulation using CHA2DS2-VASc in a Japanese AF population: A modeling analysis – PubMed)。これによりCHADS2で1点だった中間リスク層の一部(例えば65~74歳や女性など)にも治療の網をかけ、予防可能な脳卒中を減らすことが狙いです (Stroke risk reduction with oral anticoagulation using CHA2DS2-VASc in a Japanese AF population: A modeling analysis – PubMed)。実際、CHA2DS2-VAScベースで治療戦略を組む方がCHADS2ベースより予防可能な脳卒中数が多いとするモデル分析もあります (Stroke risk reduction with oral anticoagulation using CHA2DS2-VASc in a Japanese AF population: A modeling analysis – PubMed)。一方で、抗凝固を受ける患者数も増えるため出血リスクとのバランスを考える必要があります。

日本における臨床的意義: 日本人AF患者は欧米に比べると脳卒中リスクが同じスコアでも高めであることや、逆に出血のリスクも高いことが報告されています (Stroke risk reduction with oral anticoagulation using CHA2DS2 …) (Risks of Bleeding and Stroke Based on CHA2DS2‐VASc Scores in …)。そのため、日本循環器学会(JCS)の2014年ガイドラインではCHA2DS2-VAScを公式には採用せず、保守的にCHADS2スコア≥2での抗凝固開始を推奨していました (Stroke risk reduction with oral anticoagulation using CHA2DS2-VASc in a Japanese AF population: A modeling analysis – PubMed)。しかしながら実地臨床ではCHA2DS2-VAScも参考に用いられるようになり、CHADS2=1でも高リスクの兆候があれば治療を検討するという医師判断も行われてきました。HELT-E2S2スコアの登場により、日本人患者ではより的確に高リスク者を見極められる期待があります。たとえばHELT-E2S2で2点以上の患者では年率1.3~5%以上の脳梗塞発症率と推定されており、抗凝固療法ありの場合にはそのリスクがほぼ半減したとの報告があります (2024 年JCS/JHRS ガイドラインフォーカスアップデート版不整脈治療)。従って、HELT-E2S2スコア2点以上を一つの目安として抗凝固療法の適応を判断することが考えられます (2024 年JCS/JHRS ガイドラインフォーカスアップデート版不整脈治療)。実際、JCSガイドライン2020年版でもCHADS2スコア2点以上で治療推奨としており (2024 年JCS/JHRS ガイドラインフォーカスアップデート版不整脈治療)、HELT-E2S2もそれに準じたリスク層別が可能です。

臨床での使い分け: 現在、欧米のガイドラインではCHA2DS2-VAScが標準であり、CHADS2はほとんど使われなくなっています。一方、日本のガイドラインでは2020年改訂版まではCHADS2を基本としつつCHA2DS2-VAScも参考にする形でしたが、2024年のフォーカスアップデート版でHELT-E2S2の有用性が正式に言及されました (2024 年JCS/JHRS ガイドラインフォーカスアップデート版不整脈治療)。このように地域や時期によって推奨されるスコアが異なるのは、それぞれのスコアが持つエビデンスの蓄積や集団適合性の違いによります。例えば超高齢でやせ型の日本人AF患者ではHELT-E2S2がきめ細かいリスク評価を提供し、治療判断に役立つかもしれません。一方、若年~中年の血管疾患合併AF患者ではCHA2DS2-VAScの方がリスク因子を網羅しているため見落としが少ない可能性があります。

実臨床での使用頻度

CHADS2スコアの使用状況: CHADS2は簡便さと実証された有用性から長年にわたり世界中で広く使われてきました。日本でも2010年代までは最も一般的なリスク評価法であり、ガイドライン上も重視されていました (2024 年JCS/JHRS ガイドラインフォーカスアップデート版不整脈治療)。特にCHADS2スコア2以上での抗凝固療法開始という基準は多くの医師に共有され、現在でも高齢医師を中心にこの基準で判断する場面が少なくありません。しかしCHADS2は簡略的ゆえにリスク低値側の識別能が不十分(0点でもリスクがゼロではない)との指摘もあり、徐々にCHA2DS2-VAScへの置き換えが進みました。

CHA2DS2-VAScスコアの使用状況: CHA2DS2-VAScは現在、欧州・米国ガイドラインで標準採用されており実臨床でも広く使われています (Stroke risk reduction with oral anticoagulation using CHA2DS2-VASc in a Japanese AF population: A modeling analysis – PubMed)。特に欧州では男性0点・女性1点を抗凝固なしで経過観察とする明確な基準として用いられ、世界的に見て最も使用頻度の高いスコアといえます。日本においては、公式なガイドライン採用が遅れたこともありCHA2DS2-VAScの浸透はやや緩やかでした (Stroke risk reduction with oral anticoagulation using CHA2DS2-VASc in a Japanese AF population: A modeling analysis – PubMed)。しかし近年は若手医師や脳卒中科との連携の中でCHA2DS2-VAScが参照されることも増えています。また、新規経口抗凝固薬(DOAC)の普及により「スコア1点でも出血リスクと比較して投与メリットが上回るなら治療開始」という考え方が広がり、CHA2DS2-VAScを用いた早期介入が増加する傾向です。もっとも、日本では依然として「CHADS2スコア2点以上」という旧来基準で判断する施設も多く、CHA2DS2-VAScが完全に取って代わったわけではありません。

HELT-E2S2スコアの使用状況: HELT-E2S2はごく最近登場したスコアであり、現時点での使用は主に研究レベルか一部専門医による試行的利用に留まります。2021年に提唱され (A Novel Risk Stratification System for Ischemic Stroke in Japanese Patients With Non-Valvular Atrial Fibrillation – PubMed)、2023年には外部検証結果も報告されましたが (External Validation of the HELT-E2S2 Score in Japanese Patients With Nonvalvular Atrial Fibrillation – A Pooled Analysis of the RAFFINE and SAKURA Registries – PubMed)、一般臨床医への認知度はまだ高くありません。しかし日本循環器学会2024年ガイドライン・フォーカスアップデートでCHADS2と並んで推奨されるリスク評価法として明記され、一気に注目度が上がりました (2024 年JCS/JHRS ガイドラインフォーカスアップデート版不整脈治療)。今後は日本人AF患者のリスク評価においてHELT-E2S2の利用が増える可能性があります。ただし国際的にはこのスコアは認知されておらず、日本国外のガイドラインで採用されるには更なるエビデンス蓄積と検証が必要です。また、多くの医療現場では従来から使い慣れたCHADS2/CHA2DS2-VAScがすぐには置き換わらないことも考えられ、実臨床への普及には時間を要すると思われます。

各スコアの長所と短所

CHADS2の長所: シンプルで計算が容易、臨床現場で暗算できるほど簡便です。主要なリスク因子を網羅しており、大規模研究でもスコア上昇に伴い脳卒中率が明確に上昇することが示されています (Effectiveness of risk stratification according to CHADS2 score in Japanese patients with nonvalvular atrial fibrillation – PubMed)。日本人患者においてもCHADS2スコアは有用な予測指標で、スコア3以上で脳梗塞リスクが有意に高まるとの報告があります (Effectiveness of risk stratification according to CHADS2 score in Japanese patients with nonvalvular atrial fibrillation – PubMed)。長年の使用実績があり、医師間の共通言語として定着している点も利点です。

CHADS2の短所: リスク因子が限られているため感度がやや低いことが指摘されています。特に中程度リスクの層別が粗い(例えば65~74歳や女性、血管疾患合併などの要素を反映できない)ため、スコア0~1点でも無視できないリスク患者が紛れ込む恐れがあります (Stroke risk reduction with oral anticoagulation using CHA2DS2-VASc in a Japanese AF population: A modeling analysis – PubMed) (Stroke risk reduction with oral anticoagulation using CHA2DS2-VASc in a Japanese AF population: A modeling analysis – PubMed)。実際、CHADS2ベースで治療適応外とされた患者から脳卒中を発症する例があり、この点がCHA2DS2-VASc開発の動機となりました。また年齢の重みづけが不足しており、超高齢者のリスクを十分反映しない可能性があります。総じて、特異度は高いが感度に欠けるスコアと言えます。

CHA2DS2-VAScの長所: CHADS2の欠点を補い、低リスク患者を的確に抽出できるようになった点が最大の長所です。男女差や血管疾患歴を加味し、年齢も2段階で評価することで、スコア0(男性)/1(女性)以外は何らかのリスク因子を持つことになり、治療検討対象を漏れなく拾います (Stroke risk reduction with oral anticoagulation using CHA2DS2-VASc in a Japanese AF population: A modeling analysis – PubMed)。この結果、CHA2DS2-VAScを用いると防げる脳卒中が増加することが示されています (Stroke risk reduction with oral anticoagulation using CHA2DS2-VASc in a Japanese AF population: A modeling analysis – PubMed)。実臨床での研究からも、CHA2DS2-VAScはCHADS2と予測能が同等以上であり、日本人でも真の低リスク群の同定に有用との報告があります (Validation of CHA₂DS₂-VASc and HAS-BLED scores in Japanese …)。国際的なガイドラインに採用され標準となっているため、エビデンスの裏付けも豊富です。

CHA2DS2-VAScの短所: CHADS2に比べ項目が増えたためやや複雑で、暗記に多少慣れが必要です。しかし臨床現場ではスコア計算ツールや電子カルテ組み込みも進んでおり、実用上の問題は小さいでしょう。また、日本人に関して言えば女性性別や血管疾患のリスク寄与が必ずしも大きくない可能性があります (2024 年JCS/JHRS ガイドラインフォーカスアップデート版不整脈治療)。例えば女性1点については、抗凝固療法をしていない場合に限りリスク上昇が見られるが治療介入下では差が縮まるという報告もあり、リスク因子というより調整因子に過ぎないとの議論があります。そのため女性というだけで加点するCHA2DS2-VAScの方式に懐疑的な声も一部にあります。また、CHA2DS2-VAScを用いると抗凝固適応者が増えるため出血イベントも相対的に増加し得ます。特に日本人は頭蓋内出血リスクが欧米より高いとされるため (Risks of Bleeding and Stroke Based on CHA2DS2‐VASc Scores in …)、全員に抗凝固という戦略には慎重論もあります。ただしこの点はスコア自体の欠点というより臨床応用上の課題です。

HELT-E2S2の長所: 日本人特有のデータから導出されたため、日本人AF患者での適合性が高いことが最大の強みです。実際、J-RISK研究では他の2スコアを上回る予測能力を示し (A Novel Risk Stratification System for Ischemic Stroke in Japanese Patients With Non-Valvular Atrial Fibrillation – PubMed)、超高齢者や低BMI患者といった特徴的なリスク層を適切に評価できることが示唆されました。項目数は6つ(年齢2区分含む)とCHA2DS2-VAScより少なく、簡便性と精度のバランスが良好です (2024 年JCS/JHRS ガイドラインフォーカスアップデート版不整脈治療)。高血圧と脳卒中既往という最重要因子はしっかり含みつつ、日本人で重要度の低かった糖尿病など不要な項目を省いているため、無駄なく効率的なスコア設計になっています。その結果、特に超高齢社会の日本で有用なストロークリスク指標として期待されています (External Validation of the HELT-E2S2 Score in Japanese Patients With Nonvalvular Atrial Fibrillation – A Pooled Analysis of the RAFFINE and SAKURA Registries – PubMed)。

HELT-E2S2の短所: まだ開発から年数が浅く、エビデンスの蓄積が限られる点が課題です。初期研究や一部検証では有望な結果が得られたものの (A Novel Risk Stratification System for Ischemic Stroke in Japanese Patients With Non-Valvular Atrial Fibrillation – PubMed) (External Validation of the HELT-E2S2 Score in Japanese Patients With Nonvalvular Atrial Fibrillation – A Pooled Analysis of the RAFFINE and SAKURA Registries – PubMed)、大規模臨床試験や他人種での検証が不足しており、普遍的な妥当性は今後確認が必要です。また、糖尿病や血管疾患を考慮しないことで一部患者のリスクを過小評価する恐れもあります。例えば「高血圧はないが糖尿病と冠動脈疾患がある65歳男性」はHELT-E2S2では0点となりますが、実際には決して安全ではないでしょう。このように特定のケースでリスクを見逃すリスクは、CHA2DS2-VAScに比べ若干高い可能性があります(もっとも典型的リスク因子の無いケースであり頻度は高くありません)。さらに、現時点では日本以外での承認・採用がないため、グローバルスタンダードではない点も留意が必要です。医療者間の共有が進んでおらず、「HELT-E2S2って何?」という状況も考えられ、普及には教育と周知が不可欠です。それでも、日本の実地医療に根ざしたエビデンスで作られたスコアという意義は大きく、今後の研究次第で長所が短所を上回る評価を得る可能性があります。

どのスコアが一番正確なのか。

「一番正確なスコアはどれですか」とよく質問を受けることもあります。実際の脳梗塞の発生を予測する精度は、日本人のデータではHELT-E₂S₂スコアが最も正確ではないかと言われています。世界的にはCHA₂DS₂-VAScスコアが標準となっていますが、日本人の場合は高齢者ややせている方が多いため、HELT-E₂S₂の方が適している可能性もあります。


まとめ

  • CHADS₂スコア:短時間で便利。しかし精度は低め。
  • CHA₂DS₂-VAScスコア:世界標準で、女性や血管病を重視する方向け。
  • HELT-E₂S₂スコア:日本人の特性を重視した方向け。

これらのスコアを活用しながら診療に役立てていこうと考えています。

しかしDeep Researchすごいですね、自分で調べると1か月くらいかかりそうですが15分くらいで上記のレポートをまとめてくれます。

参考文献: 過去10年間の各種研究より (Effectiveness of risk stratification according to CHADS2 score in Japanese patients with nonvalvular atrial fibrillation – PubMed) (Stroke risk reduction with oral anticoagulation using CHA2DS2-VASc in a Japanese AF population: A modeling analysis – PubMed) (A Novel Risk Stratification System for Ischemic Stroke in Japanese Patients With Non-Valvular Atrial Fibrillation – PubMed) (A Novel Risk Stratification System for Ischemic Stroke in Japanese Patients With Non-Valvular Atrial Fibrillation – PubMed) (2024 年JCS/JHRS ガイドラインフォーカスアップデート版不整脈治療) (2024 年JCS/JHRS ガイドラインフォーカスアップデート版不整脈治療) (External Validation of the HELT-E2S2 Score in Japanese Patients With Nonvalvular Atrial Fibrillation – A Pooled Analysis of the RAFFINE and SAKURA Registries – PubMed) (External Validation of the HELT-E2S2 Score in Japanese Patients With Nonvalvular Atrial Fibrillation – A Pooled Analysis of the RAFFINE and SAKURA Registries – PubMed) (2024 年JCS/JHRS ガイドラインフォーカスアップデート版不整脈治療)など。

関連記事

コメント

この記事へのコメントはありません。