抄読会

第17回抄読会”Going Down the Rabbit Hole”

毎月1回、近隣の先生方と抄読会(症例検討会)を行っています。いつもNew England Journal of Medicine (NEJM)Clinical Problem-Solvingというセクションの論文を題材にしています。このセクションでは、実際の症例を段階的に提示し、専門家がそれに対してどのように臨床的思考を進め、診断に至るかを解説する形式を取っており勉強になることも多いです。それぞれの分担を決めて論文を邦訳し、理解を深めています。

今回の論文は第17回症例検討会”Going Down the Rabbit Hole“というタイトルでした。内容をChat GPTを利用してまとめてみます。


1. 症例の要約

8歳の健康な女児が、12日間にわたる発熱と喉の痛みを伴い、マサチューセッツ州ナンタケットからボストンの病院に搬送されました。最初は細菌性咽頭炎を疑われ、抗生物質であるアモキシシリンが投与されましたが、症状は改善せず、発熱が続き、リンパ節腫大も認められました。検査結果として溶連菌、エプスタイン・バーウイルス(EBV)、ライム病などの一般的な感染症が否定されました。その後、数日間の入退院を繰り返し、最終的に野兎病(tularemia)と診断されました。

2. 行われた検査およびその検査結果

  • 最初の検査: ストレプトコッカス(溶連菌)抗原検査、スワブ培養、モノスポット(EBV迅速検査)、ライム病抗体検査が実施され、すべて陰性。
  • 白血球数: 25,000/microliter(顕著な好中球増加)、CRP 15 mg/dL(正常値0.5以下)、プロカルシトニン1.1 ng/mL(正常値0.09以下)と炎症の兆候が認められた。
  • 頸部CT: 扁桃周囲の浮腫、双側軟部組織の浮腫、左側2.4cmのリンパ節が認められ、膿瘍の可能性が示唆されたが、手術は実施されなかった。
  • 追加検査: 風疹ウイルスPCR、アナプラズマPCR、アデノウイルスPCR、腹部エコー(脾腫が確認される)などが実施されました。

3. 最初に疑われた病名および最終診断と診断の根拠になった検査結果

  • 最初に疑われた病名: 細菌性咽頭炎、ウイルス性咽頭炎(特にEBV)、ライム病、川崎病など。
  • 最終診断: 野兎病(tularemia)。診断の根拠は、患者の接触歴(野外活動、ウサギやダニの接触)と血清中のF. tularensis抗体価(1:1280)が非常に高かったこと。また、特定の抗生物質(ゲンタマイシン)に対する迅速な反応が診断の確定につながった。

4. 患者の受けた治療、また最終経過について

  • 治療: 当初はアンピシリン・スルバクタムで治療されましたが、改善せず、最終的にゲンタマイシン(2.5 mg/kg/12時間)が投与されました。その後、症状が改善し、8日間の治療後、経口シプロフロキサシンに切り替えられ、10日間の抗生物質治療が完了しました。
  • 経過: 治療後、患者は退院し、発熱やリンパ節腫大が改善しました。

5. 論文の中のFigureを順番に解説

  • Figure 1: 野兎病の感染経路と発症する症状の図。感染経路として、ウサギやネズミなどの動物、汚染された水、ダニやシカバエが示されています。これにより、発症する臨床型(潰瘍性、腺性、眼腺性、咽頭性、肺性、チフス性)に分類されます。

このシリーズの症例報告は稀な感染症が題材になっていることが多く今回も野兎病(のとびょう)が原因でした。野兎病についてもまとめてみます。


野兎病(tularemia)について、以下の点をまとめます。

1. 概要

野兎病は、Francisella tularensisという細菌によって引き起こされる急性の人獣共通感染症です。この病気は、主にウサギやネズミなどの小型の野生動物から感染し、ダニやシカバエといった節足動物の媒介によってヒトにも感染します。また、汚染された水や食物を摂取することでも感染が広がることがあります。

英語名:Tularemia
日本語名:野兎病
主な感染経路:ウサギや齧歯類との接触、ダニやシカバエの媒介、汚染された水や食物の摂取

2. 原因菌

Francisella tularensisは、グラム陰性の短桿菌です。この細菌は細胞内寄生性を持ち、主にマクロファージ内で増殖します。F. tularensisには複数の亜種があり、その中でもF. tularensis tularensis(type A)は特に病原性が強く、北アメリカに広く分布しています。一方、F. tularensis holarctica(type B)は弱毒株であり、日本を含むユーラシアに分布しています。

3. 感染経路と臨床型

野兎病には、感染経路によってさまざまな臨床型が存在します。主な型は以下の通りです。

  • 潰瘍腺型(ulceroglandular type): 最も一般的な型で、ダニやシカバエの咬傷部位に潰瘍が形成され、リンパ節が腫脹します。
  • 腺型(glandular type): 潰瘍を伴わないリンパ節腫脹が見られる型です。
  • 眼腺型(oculoglandular type): 細菌が目に侵入し、結膜炎やリンパ節の腫脹を引き起こします。
  • 咽頭腺型(oropharyngeal type): 汚染された水や食物を摂取することで感染し、咽頭炎や頸部リンパ節腫脹を引き起こします。
  • 肺型(pneumonic type): 空気中の細菌を吸入することで感染し、肺炎や呼吸困難を伴います。最も重篤な型です。
  • チフス型(typhoidal type): 全身症状が強く、局所的な症状がほとんどない型です。

4. 症状

野兎病の症状は、感染した部位や臨床型に依存します。一般的な症状は次の通りです。

  • 発熱(38℃〜40℃)
  • 悪寒筋肉痛関節痛
  • リンパ節の腫脹(主に感染部位に隣接するリンパ節)
  • 喉の痛み(咽頭腺型や肺型の場合)
  • 皮膚潰瘍(潰瘍腺型の場合)
  • 全身倦怠感

5. 診断

野兎病の診断には、以下の方法が使われます。

  • 血清学的検査: Francisella tularensisに対する抗体の上昇を確認します。急性期と回復期の抗体価の4倍以上の上昇が確定診断の基準となります。
  • PCR: 細菌DNAを検出するためにPCR検査が利用されます。
  • 培養検査: ただし、F. tularensisは培養が難しく、特定の培地が必要です。また、感染リスクが高いため、検査室での取り扱いには注意が必要です。

6. 治療

野兎病の治療には、以下の抗生剤が推奨されます。

  • ストレプトマイシンゲンタマイシン(アミノグリコシド系)が第一選択薬です。
  • 軽症の場合は、シプロフロキサシンドキシサイクリン(フルオロキノロン系、テトラサイクリン系)が経口投与されることがあります。
  • β-ラクタム系抗生物質は無効です。これは、F. tularensisがβ-ラクタマーゼを産生すること、また細胞内寄生菌であるため、β-ラクタム系抗生剤では効果が十分に発揮されないためです。

7. 予後

日本におけるF. tularensisは弱毒性の株であり、重篤な症状や死亡例は非常に稀です。適切な抗生剤治療を行うことで、ほとんどの患者は回復します。ただし、早期診断と適切な治療が遅れると、特に肺型やチフス型では重症化するリスクがあります。

8. 疫学と予防

野兎病は、北アメリカ、ヨーロッパ、アジアなど広範囲で確認されており、日本でも過去に1,400例以上の患者が報告されています。日本での感染は特に東北地方に多く見られ、野兎との接触や山菜採りの際にリスクが高まるとされています。感染を予防するためには、野生動物やダニとの接触を避けることが重要です。


まとめ

野兎病は、ウサギなどの野生動物やダニを介してヒトに感染する人獣共通感染症で、適切な抗生剤による治療が必要です。特に、日本では稀な疾患ですが、野外活動時の注意や正しい診断・治療が重視されます。


最後に症例のイメージ図もChat GPTに作成してもらいました。

野兎病は日本では稀な感染症であり私も実際に診察したことはありません、とはいえ知識をもっておくのは大事なことと思います。Chat GPTなどのAIを活用し論文を読み込んで知識のアップデートを続けていきたいと思います。

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