抄読会

第30回抄読会 ”Spiraling into a Distant Past”

近隣の先生方とNEJMの論文を月に1回抄読会をしています。Cinical Problem Solvingというセクションで実際の患者さんの症例を検討する内容です。今回の論文は”Spiraling into a Distant Past“というタイトルでした。Geminiを活用して内容を要約してもらいます。


1. 症例要約

83歳の男性が、全身の激しいかゆみとむくみ、食欲不振を主訴に受診しました。実はその1ヶ月前、顔の半分が動かなくなる「顔面神経麻痺」で入院しており、その時から肝機能の数値が異常に高く、炎症反応も続いていました。

詳しく調べると、大量の蛋白尿が出る「ネフローゼ症候群(膜性腎症)」、胆汁の流れが悪くなる「胆汁うっ滞性肝炎」、さらには全身のリンパ節腫脹や皮膚の発疹も認められました。最終的に、これらすべての症状を一気に説明する原因として、「早期神経梅毒を合併した二次性梅毒」と診断されました。


2. 行われた検査とその結果

非常に多岐にわたる検査が行われ、全身の異常が浮き彫りになりました。

  • 肝機能検査: ALP(781 IU/L)や直接ビリルビンが上昇し、胆汁の流れが滞る「胆汁うっ滞」のパターンを示していました。
  • 腎機能・蛋白: 尿に大量の蛋白(1日あたり約20g)が漏れ出しており、血液中のアルブミンが2.8 g/dLまで低下していました。
  • 免疫・炎症: CRP(29.1 mg/L)が高く、体内で強い炎症が起きていました。また、免疫の異常を示す「II型クリオグロブリン」が陽性でした。
  • 梅毒血清検査: TPHA(梅毒特有の検査)が陽性で、RPR(病気の勢いを示す指標)が1:256以上という極めて高い数値を示しました。
  • 画像検査(CT/PET): 胆管や胆嚢の壁が厚くなり、肺や肝門部、脇の下のリンパ節が異常に活性化している様子が捉えられました。
  • 組織検査(腎生検): 腎臓の組織を顕微鏡で見たところ、免疫複合体が沈着する「膜性腎症」の特徴が確認されました。
  • 髄液検査: 脳脊髄液中の細胞数が増加(38/μL)しており、神経系への波及が示唆されました。

3. 疑われた病名・最終診断と根拠

最初に疑われた病名

高齢で肝機能障害とむくみがあったため、当初は「薬物性肝障害」「リンパ腫やサルコイドーシスなどの浸潤性疾患」「自己免疫性肝炎」「がんに関連した症候群」などが疑われました。

最終診断

二次性梅毒、および早期神経梅毒

診断の根拠

決定打となったのは、**「高力価のRPR(1:256以上)」「TPHA陽性」**です。これにより活動性の梅毒が証明されました。また、顔面神経麻痺という神経症状と、髄液中の細胞増多があったことから「神経梅毒」の合併が確定しました。全身の発疹や腎炎、肝炎もすべて梅毒の多彩な症状として一貫して説明がつきました。


4. 治療および最終経過

  • 治療内容: 神経梅毒の標準治療である**「ベンジルペニシリン(ペニシリンG)の14日間点滴静注」**が行われました。
  • 治療中の反応: 最初の投与直後に、梅毒菌が壊れる際の反応である「ヤーリッシュ・ヘルクスハイマー反応(一時的な発熱と倦怠感)」が出ましたが、適切な処置で回復しました。
  • 最終経過: 治療1ヶ月後には、あんなにひどかったかゆみ、むくみ、発疹が完全に消失しました。異常だった肝機能や蛋白尿も正常化し、腎機能も劇的に改善しました。

5. 論文内のFigure解説

  • Figure 1(脚の写真): 下肢に見られた、カサカサした赤い発疹。これは二次性梅毒の代表的な皮膚症状です。
  • Figure 2(腹部CT): 胆管や胆嚢の壁がむくんで厚くなっている様子がわかります。これが「梅毒性胆管炎」による肝機能障害の原因でした。
  • Figure 3(腎臓の顕微鏡写真): 免疫染色で、糸球体というフィルター部分に免疫の塊がこびりついているのが見えます。これが大量の蛋白尿の原因である「膜性腎症」の正体です。
  • Figure 4(PET-CT): 全身のリンパ節や肺、肝臓周辺が赤く光っており、梅毒が全身を駆け巡って炎症を起こしている様子を可視化しています。

6. 早期診断の可能性について

本症例の患者さんは無事に生存し、回復しました。

しかし、もっと早く診断できた可能性としては、1ヶ月前の「顔面神経麻痺」の時点が挙げられます。高齢者の顔面麻痺を単なる「ベル麻痺(原因不明の麻痺)」と片付けず、同時に出ていた肝機能異常や炎症反応との関連を疑い、その時点で梅毒検査を行っていれば、ネフローゼ症候群まで悪化する前に治療を開始できたかもしれません。


7. 最終診断の疾患:二次性梅毒(Secondary Syphilis)

梅毒は「Great Imitator(偉大なる模倣者)」と呼ばれ、全身のあらゆる病気に化けます。

  • 特徴: 感染から数週間〜数ヶ月で菌が全身に広がり、バラ疹と呼ばれる発疹やリンパ節の腫れを起こします。
  • 稀な合併症: 今回のように、肝臓(梅毒性肝炎)や腎臓(膜性腎症)が攻撃されることは全体の10%未満と珍しく、診断を難しくさせる要因となります。

8. ガイドラインの解説

最新のガイドライン(CDCや国内の性感染症ガイドライン)では、以下が推奨されています。

  • 診断: 血液での「RPR」と「TPHA」のセット検査が基本です。神経症状がある場合は必ず腰椎穿刺による髄液検査を行い、神経梅毒の有無を確認します。
  • 治療: 神経への波及がある場合は、飲み薬や筋肉注射ではなく、高用量のペニシリンGを点滴で10〜14日間投与する必要があります。
  • フォローアップ: 治療後も定期的にRPRの数値を追い、しっかり下がっている(4倍以上の低下)かを確認することが不可欠です。

9. 論文タイトルの意味

“Spiraling into a Distant Past”(遠い過去への螺旋)

このタイトルには二重の意味が込められています。

  1. 螺旋(Spiraling): 梅毒の菌が「螺旋状」の形をしていること、そして症状が渦を巻くように複雑化していく様子。
  2. 遠い過去(Distant Past): 患者が数十年前に軍隊にいた頃の性感染症歴が、診断の最後の手がかりとなったこと。

続いてバーチャルカンファレンスをしてもらいます。


症例検討会:83歳、全身を襲った「変装の達人」の正体

【参加者】

  • はな子先生(研修医1年目):情熱あふれる若手。素朴な疑問をぶつけます。
  • サトシ先生(指導医):経験豊富なベテラン。診断の勘所を教えます。
  • タケシ教授(内科学教授):鋭い洞察で議論を統合します。
  • 大河内教授(病理学教授):顕微鏡の向こう側から真実を語ります。

はな子先生:「失礼します!研修医のはな子です。本日の症例をプレゼンさせていただきます。 患者さんは83歳の男性。全身の激しいかゆみとむくみで来院されました 。実は1ヶ月前に『顔面神経麻痺』を起こしており、その時から肝機能の数値が異常に高かったんです 。 来院時、尿には大量の蛋白が出ていて(1日約20g!)、血液中のアルブミンが激減していました 。画像では胆管が腫れ、全身のリンパ節も大きく、一時は悪性腫瘍も疑われました 。 しかし、検査の結果、梅毒の反応が極めて高い数値(RPR 1:256以上)で陽性と判明しました 。診断は**『神経梅毒を合併した二次性梅毒』**です 。ペニシリンによる治療で、あんなにひどかった症状が嘘のように消えました 。 ……先生、83歳というご高齢で、これほど派手な症状が出る梅毒というのは、よくあることなのでしょうか?」

サトシ先生:「はな子先生、素晴らしいプレゼンだ。 結論から言うと、これほど多彩な臓器障害が一度に出るケースは非常に珍しい 。日本でも梅毒の報告数は激増しているけれど、多くは若い世代の皮膚症状が中心だ。 今回のように、高齢者が『顔面麻痺』『肝炎』『ネフローゼ症候群』という、一見バラバラな重症疾患を抱えてやってくるのは、まさに梅毒が『偉大なる模倣者(Great Imitator)』と呼ばれる所以だね 。内臓合併症が出るのは、二次性梅毒の中でも10%未満と言われているんだ 。」

はな子先生:「10%未満……。もし先生が最初に診ていたら、すぐに梅毒を疑えましたか?患者さんは最初、性的な接触を否定していましたよね 。」

サトシ先生:「そこが医師の腕の見せ所だ。高齢者だから、既婚者だからという先入観は禁物だよ。 日本でも梅毒の検査(RPRやTPHA)はどこでもできる 。でも、疑わなければ検査はオーダーされない。この症例のように、高齢者の『説明のつかない多臓器の炎症』を見た時に、いかに早く『もしや梅毒では?』と思いつけるかが勝負なんだ 。」

タケシ教授:「二人とも、良い議論だ。ここで病理学の大河内教授にも意見を伺おう。今回の『膜性腎症』、梅毒が犯人だという確固たる証拠はあったのですか?」

大河内教授:「顕微鏡で見ると、糸球体の壁に免疫複合体がびっしりと沈着していました 。興味深いのは、典型的な原因不明の膜性腎症で陽性になる『PLA2R抗体』が陰性だったことです 。これは、外から来た病原体——つまり梅毒トレポネーマに対する免疫反応の結果であることを強く支持しています 。ペニシリン治療だけで蛋白尿が消えたことが、何よりの証明ですね 。」

タケシ教授:「なるほど。では私から、この症例の学びをまとめよう。

【タケシ教授のTake Home Message】

  1. 『点と点を線で結べ』:顔面麻痺、肝炎、ネフローゼ。バラバラに見える症状を一つの疾患で説明できないか?その筆頭候補が梅毒だ 。
  2. 先入観は診断の敵:高齢者であっても、共感的で詳細なヒストリーテリングが不可欠だ。過去の病歴が、現在を解き明かす鍵になることもある 。
  3. 早期診断が未来を変える:1ヶ月前の顔面麻痺の時点で梅毒を疑えていれば、ネフローゼによる苦痛は防げたかもしれない 。

よし、検討会はここまで。はな子先生、これからは外来で『ALPの解離性上昇』や『原因不明の蛋白尿』を見たら、迷わずRPRをオーダーしなさい!」

はな子先生:「はい、教授!ありがとうございました!」


AIを用いると効率よく知識を得ることができます。すでに人間よりもずっと賢くなっておりAIを活用してより良い診療ができるように頑張ります。

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