研究

血圧の薬はいつ飲めば良いのですか、朝それとも夜寝る前?どちらでも良いのです。

患者さんから「朝の血圧は高いんですが夜は良く下がっています」と言われることがあります。人間の血圧は日内変動パターンがあり、血圧は夜寝るときに下がり、起床時に上がることが知られています。そのため夜に降圧薬を服用することで朝の急激な血圧上昇を抑制することが、朝に降圧薬を服用するよりも心血管イベントの予防に効果的かもしれないという考えがありました。

この考えを検証するために行われたTIME研究の結果が最近発表されました(参考文献)。TIME研究はThe Treatment in Morning versus Evening研究の略語です。2万人以上の高血圧の患者さんを対象に英国で行われた研究ですが、この研究では降圧剤を内服するタイミングを朝、夕に振り分けて約5年間の調査が行われました。その結果では心血管イベントの発生率には大きな違いが無く降圧剤は朝でも夜でも内服のタイミングはどちらでも良い、という結論になっています。

Lancet. 2022 Oct 22;400(10361):1417-1425. doi: 10.1016/S0140-6736(22)01786-X.

飲み忘れない時間に内服すれば血圧の薬は朝でも夜でもどちらでも大丈夫です、とこれからは自信をもって患者さんに言えそうです。

参考文献:Mackenzie IS, Rogers A, Poulter NR, Williams B, Brown MJ, Webb DJ, Ford I, Rorie DA, Guthrie G, Grieve JWK, Pigazzani F, Rothwell PM, Young R, McConnachie A, Struthers AD, Lang CC, MacDonald TM; TIME Study Group. Cardiovascular outcomes in adults with hypertension with evening versus morning dosing of usual antihypertensives in the UK (TIME study): a prospective, randomised, open-label, blinded-endpoint clinical trial. Lancet. 2022 Oct 22;400(10361):1417-1425. doi: 10.1016/S0140-6736(22)01786-X. Epub 2022 Oct 11. PMID: 36240838; PMCID: PMC9631239.

Lancet. 2022 Oct 22;400(10361):1417

関連記事

コメント

    • 山崎 洋文
    • 2024.09.09

    降圧剤は「夜に飲む」が正解だった…「時間」を意識するだけで高血圧を改善できる「驚きの方法」
    現代ビジネス
    2024年5月10日 自治医科大学名誉教授の記事では、患者によっては夜飲むが正解であると言わていますが、どうなんでしょうか?

    • 齋藤成達
      • 齋藤成達
      • 2024.09.09

      山崎様

      コメントありがとうございます。お寄せいただいたご質問についてお答えいたします。

      まず、TIME研究(The Treatment In Morning versus Evening study)は約21,000人の高血圧患者を対象にした大規模なランダム化比較試験で、降圧剤の内服時間(朝・夜)による心血管イベントの予防効果に大きな差がないことを示しています。これは非常に信頼性の高い研究であり、多くの臨床現場でも参考にされているエビデンスです。

      一方、藤村昭夫名誉教授が現代ビジネスの記事で述べられている見解は、Tiwariらの研究【Tiwari V, et al. Effect of chronotherapy of antihypertensives in chronic kidney disease: a randomized control trial. Indian J Nephrol 31, 9-15, 2021.】およびご自身の研究【Fujimura A, et al. Amelioration of enalapril-induced dry cough by changing dosing time from morning to evening; Jpn J Clin Pharmacol Ther.30, 741-744, 1999】に基づいています。

      Tiwariらの研究では、慢性腎臓病を抱える患者において、降圧剤を夜間に服用することで効果が高まる可能性が示唆されています。一方で、この研究は比較的小規模であり、特定の患者集団に限定されているため、全ての高血圧患者に適用できるわけではありません。

      藤村教授の研究では、エナラプリルによる咳の副作用が朝から夜への服薬時間の変更で改善されることが示されています。これらの研究は、服薬時間を変えることで効果や副作用が改善されるケースがあることを示唆していますが、エビデンスの範囲が限定されています。

      つまり、一般的な高血圧治療においては、朝でも夜でも効果に大きな差はないとされているものの、特定の患者様には夜間内服が推奨される場合もあります。ご自身の状態に最適な治療法については、かかりつけの医師とよくご相談ください。山崎様の健康をお祈り申し上げます。