開業準備

慢性心不全に対するイバブラジンについて勉強しました

Web研究会”「Heart Failure Web Seminar ~慢性心不全治療におけるイバブラジンの可能性~」”で新しく登場したイバブラジンについて勉強しました。講師は関西圏で活躍される先生方が中心のweb講演会の形式でした。


心不全は何らかの原因で心機能が低下したために全身の浮腫や息切れ、倦怠感などが発症する病気です。急激に発症した場合は急性心不全と呼ばれますし、慢性に発症した場合は慢性心不全と呼ばれます。高齢化に伴い日本では患者さんの数が急激に増えており、”心不全パンデミック”という新しいフレーズも提唱されています。心不全パンデミックになると入院医療が必要な高齢心不全患者さんであふれ、病院が患者さんを受け止めきれなくなる事態も懸念されています。心不全の薬物療法としてはACE阻害薬、ARB、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬、β遮断薬、利尿薬などが用いられていましたがそれでも十分な治療ができない患者さんは高齢者を中心として沢山おります。そのような中2019年末に承認された薬がイバブラジンです。
イバブラジンは商品名(薬品名)はコララン錠といいます。走ったり運動したり、あるいは緊張したりなどストレスがかかると人間の心拍数が上昇するのは当たりまえですが、心不全の患者さんでは心拍数が多いほどその後の生命予後が悪いということが以前から知られていました。イバブラジンは心臓にあるイオンチャネル(洞結節にある過分極活性化環状ヌクレオチド依存性(HCN)チャネル) を阻害することにより心拍数を抑える薬です。

新しい薬が承認を受けるためには臨床試験、臨床研究での検証が必要ですが、イバブラジンにとってはSHIFT試験という試験がそれに該当します。SHIFT試験では評価項目*で有用性(心血管死,心不全悪化による入院を18%も抑制)が証明されて治療薬として承認されました。心不全は進行すると手の打ちようがないことも多いので新しい治療の選択肢ができたことは朗報と考えています。

どのような患者さんにイバブラジンが良いか、ということですが添付文書では「洞調律かつ投与開始時の安静時心拍数が75回/分以上の慢性心不全。ただし、β遮断薬を含む慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る」となっております。β遮断薬というのは心臓の収縮力が低下した患者さんには必須と言ってよい薬です。β遮断薬は陰性変力作用もありますので血圧が低い患者さんなどでは投与が難しいこともあります。また気管支喘息の患者さんなどでは注意して使用する必要があります。βブロッカーだけでは不十分な患者さん、あるいは血圧低下、喘息など何らかの理由でβ遮断薬が使用できない患者さんがイバブラジンの対象になるように思います。
循環器領域の治療の進歩は著しいですが、クリニックを開院しても取り残されないようにキャッチアップしていきたいと考えています。

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