当院では、禁煙補助薬チャンピックス(バレニクリン)の処方再開にあわせて、禁煙支援アプリを作成いたしました。
私自身も、かつては「ヘビースモーカー」でした
私は医師でありながら、30歳頃まで1日40本近くタバコを吸っていた時期がありました。
仕事の合間、当直明け、移動中の少しの空き時間――当たり前のようにタバコに手が伸びる生活でした。
その頃は、
- 部屋や診察室の「におい」
- 家族や同僚が吸わされている「副流煙」
- 職場の空気を汚していること
こうしたことに対する自覚が、今振り返れば十分ではありませんでした。
今になって思うと、家族や同僚に副流煙で迷惑をかけていたことは、医師としても、一人の人間としても大きな反省点です。
さらに、父が今年、肺がんで亡くなりました。
喫煙と肺がんの関係については医学的に十分理解していたつもりでしたが、家族を通じて、その重さを改めて痛感しています。
この経験から、
- たばこには健康面でも生活面でも「良いことはほとんどない」
- たばこは「嗜好品」というよりニコチン依存症という病気
こうした認識を、これまで以上に強く持つようになりました。
だからこそ、医師として、禁煙を強くお勧めしたいと考えています。
なぜ「禁煙支援アプリ」を作ったのか
禁煙は「やめたい」と思えば簡単にできるものではありません。
多くの方が、
- 体に悪いのはわかっている
- お金がかかるのも理解している
それでもやめられないのは、ニコチン依存症という“病気”の側面と、
「やめたときにどれだけ得をするか」「続けるとどれだけ損をするか」が、
実感としてつかみにくいからです。
そこで当院では、禁煙治療の一環として、次のようなことができる禁煙支援アプリを作りました。
- 年齢・喫煙年数・1日の本数から、これまでタバコに使ってきた総額を計算
- 今タバコをやめた場合の
- 1年後
- 5年後
- 10年後
- 80歳まで
にどのくらいお金が節約できるかを表示
- 逆に、このまま吸い続けた場合に、将来いくら支出することになるかを予測
- 過去のタバコ価格(1969~2021年の実データ)を基に、
将来の値上がり(年3%程度)も考慮したグラフを表示
つまり、
「数字」と「グラフ」で、タバコに奪われるお金と、禁煙すると取り戻せるお金を“見える化”するためのツールです。
先進国では「1箱 2,000〜4,000円台」が当たり前に
私が禁煙支援アプリを作る際に、世界のタバコ価格も調べました。
その結果、先進国の多くでは、20本入り1箱あたり 600〜4,000円超と、国によって大きな差があることがわかりましたが、日本はその中では「まだ安い部類」に入ります。
下の表は、2024〜2025年頃の代表的な価格を円換算した概算です(いずれも20本入り1箱の目安)。
| 国・地域 | 現地価格(概算) | 通貨 | 為替レート(概算) | 円換算(概算) |
|---|---|---|---|---|
| ニュージーランド | 47.5 NZD | NZD | 1 NZD ≒ 87.2 円 | 約 4,140 円 |
| アイルランド(2026目標) | 18.95 EUR | EUR | 1 EUR ≒ 178.5 円 | 約 3,380 円 |
| イギリス | 16.0 GBP | GBP | 1 GBP ≒ 200 円(概算) | 約 3,200 円 |
| オーストラリア | 29.97 AUD | AUD | 1 AUD ≒ 100.7 円 | 約 3,020 円 |
| カナダ | 20 CAD | CAD | 1 CAD ≒ 110.2 円 | 約 2,200 円 |
| フランス | 12 EUR | EUR | 1 EUR ≒ 178.5 円 | 約 2,140 円 |
| ドイツ | 7.33 EUR | EUR | 同上 | 約 1,310 円 |
| スウェーデン(ストックホルム) | 79 SEK | SEK | 1 SEK ≒ 16.2 円 | 約 1,280 円 |
| アメリカ(全国平均) | 8 USD | USD | 1 USD ≒ 154.7 円 | 約 1,240 円 |
| 日本 | 600 円 | JPY | ー | 600 円 |
※為替は2025年前後の概算から計算した目安です。実際の円換算額は日々変動します。
この表からわかること
- 日本は「高くなった」と感じても、世界的にはまだ安い部類
- 日本:1箱 約 600円
- 欧米・オセアニアの多く:1箱 2,000〜4,000円前後
- 極端に高い国では、1箱 3,000〜4,000円超
- ニュージーランド:約 4,000円超
- アイルランド・イギリス・オーストラリア:3,000円前後
→ 強い増税と禁煙政策の一環として価格が引き上げられています。
- 北米やヨーロッパの国でも、日本の倍以上が「当たり前」
- アメリカ全国平均でも、日本の約2倍の水準。州によってはさらに高額です。
- カナダ・フランスなどでは、2,000円を超える水準が一般的になりつつあります。
先進国の中には「タバコ1箱 3,000円台」が当たり前の国が多数ある、というのが現状です。
日本の600円は「決して安くはない」が、世界的にはまだ“甘い値段”
患者さんからはよく、
「最近は一本あたりの値段も高くなってきましたね」
という声を聞きます。
確かに、日本国内だけを見れば十分に高く感じられると思います。
一方で、世界的に見ると、
「日本はまだタバコを安く買えてしまう国」
とも言えます。
価格が安いと、どうしても「もう少しならいいか」と続けやすくなってしまいます。
だからこそ、価格だけに頼るのではなく、「自分の体」と「将来のお金」に目を向けることが大切です。
たばこは「嗜好品」ではなく「ニコチン依存症」という病気
改めてお伝えしたいのは、
たばこは単なる習慣でも、大人の嗜好品でもなく、
「ニコチン依存症」という病気の一つ だということです。
・やめたいのにやめられない
・本数を減らしても結局元に戻ってしまう
・健康診断のたびに「そろそろやめないと」と思うが、そのまま数年たってしまう
これは「意志が弱い」からではなく、
脳がニコチンの刺激に慣らされてしまっている状態です。
ですから、
- チャンピックスなどの薬物療法
- カウンセリング
- 今回のような「見える化ツール」
こうした医学的な支援を使ってよいのです。
「一人で頑張る禁煙」から、「医療として取り組む禁煙」へ切り替えていただきたいと思います。
まとめ:今日がいちばん若い「禁煙開始日」です
私自身、かつては1日40本近く吸っていた元喫煙者です。
父を肺がんで亡くした今、
「もっと早く禁煙してほしかった」
「自分も、もっと早く真剣に伝えるべきだった」
という思いが残っています。
- たばこには、健康面でも生活面でも、良いことはほとんどありません。
- 先進国では、1箱3,000〜4,000円が当たり前の国も多くなっています。
- 日本もこれから、さらに値上げが続く可能性があります。
今日が、いちばん若い「禁煙開始日」です。
禁煙支援アプリで、これまでの費用・これからの損得を一度“見える化”してみてください。
そのうえで、チャンピックスを含めた禁煙治療について、一緒に相談していきましょう。
当院は、皆さまの禁煙を全力でサポートいたします。
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