患者さんから「自分の血液型を調べてほしい」、あるいは「両親や兄弟を見て、自分の血液型はどのように予測できるのですか?」とよくご質問をいただきます。
このシンプルな問いにベイズ統計学が必要となりますが、ベイズ統計学は直観的な把握が難しいことがありますので、詳しく解説してみます。
1. ABO血液型の基本
- 血液型(表現型) には A/B/O/AB の 4 種類があります。
- 体の中には A・B・O のいずれかの 対立遺伝子(アレル)が 2 つ組み合わさってできています。
- 例:A型 → AA または AO
- 例:O型 → OO
- 親からアレルをひとつずつ受け取り、組み合わせで子どもの血液型が決まります。
表現型 | 遺伝子型(例) |
---|---|
A型 | AA または AO |
B型 | BB または BO |
O型 | OO |
AB型 | AB |
2. ベイズ統計学って何?
「ベイズ統計学」とは、
新しい情報(たとえば「兄がA型だった」など)を得るたびに、 それまでの予測を更新していく方法です。
- 事前確率:最初に持っている情報だけでの予測(例:父が AA である確率)。
- 尤度(ゆうど):観察した情報(例:兄が A 型)を得る確率。
- 事後確率:それらを組み合わせて、新しい予測を導く。
3. 具体例:父A・母O・兄A → 弟の血液型は?
観察情報
父:A型
母:O型
兄:A型
このとき、「弟が A 型である確率」を求めます。
3.1 事前の遺伝子型確率(簡略化例:50:50)
$$P(\mathrm{父=AA}) = P(\mathrm{父=AO}) = 0.5$$ (母は OO と決まるので考慮不要)
3.2 兄が A 型となる尤度
- AA × OO の場合 $$P(\mathrm{兄=A}\mid\mathrm{父=AA}) = 1$$
- AO × OO の場合 $$P(\mathrm{兄=A}\mid\mathrm{父=AO}) = 0.5$$
全体の確率: $$P(\mathrm{兄=A}) = 0.5\times1 + 0.5\times0.5 = 0.75$$
3.3 父の遺伝子型の事後確率(ベイズの定理)
$$P(\mathrm{父=AA}\mid\mathrm{兄=A}) = \frac{1\times0.5}{0.75} = \frac{2}{3},$$ $$P(\mathrm{父=AO}\mid\mathrm{兄=A}) = 1 – \frac{2}{3} = \frac{1}{3}$$
3.4 弟が A 型である確率
弟も同じ仕組みで生まれるので、 $$P(\mathrm{弟=A}) = \frac{2}{3}\times1 + \frac{1}{3}\times0.5 = \frac{5}{6} \approx 83.3\%$$
4. Hardy–Weinbergの法則とは?
複数のアレルがある場合、母集団でのアレル頻度 \(p,q\) に対し:
$$p + q = 1$$ $$P(\mathrm{AA}) = p^2,\quad P(\mathrm{AO})=2pq,\quad P(\mathrm{OO})=q^2$$
例:日本人データを単純化 \(p=0.3\), \(q=0.5\) とすると $$P(\mathrm{AA})=0.09,\;P(\mathrm{AO})=0.30,\;P(\mathrm{OO})=0.25$$ これをベイズの事前確率として使うと、より精度が上がります。
5. まとめ
- ベイズ統計学で「兄の血液型」を使い、予測を更新できる。
- 例では「父A・母O・兄A」の場合、約83%の確率で「弟もA型」。
- Hardy–Weinbergの法則を用いることで、母集団頻度から遺伝子型頻度を自動算出可能。
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現在の遺伝子型頻度:
実際の統計モード (日本人献血統計を Hardy‑Weinberg 推定した値)
- AA: 9.0%
- AO: 30.0%
- BB: 4.0%
- BO: 20.0%
- AB: 12.0%
- OO: 25.0%
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