疾患解説

大人の扁桃腺炎と溶連菌感染症

今日は京都市急病診療所の当番でした。新型コロナウイルス、マイコプラズマ肺炎、そして溶連菌感染症など、さまざまな感染症が疑われる患者さんが多く訪れました。自分の知識の整理のため、大人における溶連菌感染症について、症状や最近の動向、そして検査や治療法を最新の情報を調べてみました。


溶連菌感染症とは?

溶連菌感染症は、A群溶血性レンサ球菌(グループAストレプトコッカス)によって引き起こされる細菌感染症です。主に子どもがかかる病気として知られていますが、大人も感染する可能性があります。特に過労やストレス、免疫力の低下が影響して感染するケースが増えています。

この病原菌は主に喉に感染し、咽頭扁桃炎扁桃腺炎を引き起こすことが多いです。感染は飛沫や接触によって広がり、集団生活や家庭内で蔓延しやすいため、迅速な診断と治療が重要です。


大人における溶連菌感染症の症状

溶連菌感染症の典型的な症状は以下の通りです。

  • 激しい喉の痛み:喉が赤く腫れ、飲み込むときに強い痛みを感じます。
  • 高熱:38度以上の発熱が特徴的で、時には悪寒を伴います。
  • 扁桃腺の腫れと白い膿:扁桃腺が腫れ、白い膿が付着することがあります。
  • リンパ節の腫れ:首のリンパ節が腫れ、触ると痛みを感じることがあります。
  • 頭痛や全身の倦怠感:頭痛や筋肉痛、全身の疲労感が見られることもあります。

これらの症状はしばしば風邪や他のウイルス性咽頭炎と混同されやすいため、正確な診断が重要です。特に大人では、軽度の症状で見過ごされることもありますが、症状が進行すると重篤な合併症を引き起こすリスクがあるため、迅速な対応が求められます。


最近の動向:大人の溶連菌感染症の増加

過去には、溶連菌感染症は主に子どもの病気と考えられてきました。しかし、最近のデータによると、大人における溶連菌感染症の発生率が増加していることが指摘されています(1)。これには、働き盛りの大人が過労やストレスにさらされること、また新型コロナウイルスによる外出自粛や免疫力の低下が影響している可能性があります。職場や家庭での集団感染も報告されており、早期の発見と予防が重要です。


溶連菌感染症の診断:迅速診断キットの信頼度

溶連菌感染症の診断には、迅速診断キットが非常に役立ちます。咽頭ぬぐい液を綿棒で採取し、約10〜15分で溶連菌の有無を確認できるため、症状がある場合には迅速な対応が可能です。この検査の信頼性は以下の通りです。

  • 感度(感染している人を正確に検出する割合):85%〜95%
  • 特異度(感染していない人を正確に陰性と判定する割合):95%〜98%
    (2)

検査キットの感度・特異度は非常に高いですが、典型的な症状があり陰性の場合、追加の検査や臨床判断が必要な場合もあります。


抗生物質治療の必要性と投与期間

溶連菌感染症の治療では、抗生物質(抗菌薬)が不可欠です。最もよく使用されるのはペニシリン系セフェム系の抗生物質です。これにアレルギーがある場合には、マクロライド系(エリスロマイシンなど)が処方されます。

  • ペニシリン系抗生物質の標準的な投与期間は、7~10日間、セフェム系は5~7日間です(3)。
  • マクロライド系抗生物質の場合、7〜10日の投与が推奨されます(4)。

抗生物質は処方された期間、しっかりと飲み切ることが重要です。途中で薬をやめると、リウマチ熱急性糸球体腎炎などの重篤な合併症を引き起こす可能性が高まります。また、24〜48時間の抗菌薬治療後、感染力は大幅に減少するため、感染の拡大を防ぐことができます(5)。


合併症と予防策

溶連菌感染症の重大な合併症としては、頻度は稀ですがリウマチ熱急性糸球体腎炎があります。これらは未治療、または治療が不十分な場合に発症することが多く、特に大人では症状が軽いからと治療を怠ることで合併症のリスクが増します。

  • リウマチ熱:心臓や関節、神経系に影響を与え、長期的な健康被害を引き起こす可能性があります。
  • 急性糸球体腎炎:腎臓に炎症を引き起こし、腎機能に障害をもたらすことがあります。

これらの合併症を防ぐためにも、抗生物質をきちんと服用し、完全に治癒させることが不可欠です。また、日常生活では手洗いうがい咳エチケットを徹底し、感染予防に努めることが重要です。


まとめ

大人における溶連菌感染症は、見過ごされがちな病気ですが、適切な診断と治療によって迅速に回復することが可能です。症状が現れた場合には、迅速診断キットを用いて溶連菌の有無を確認し、早期の抗生物質治療を受けることが重要です。最近の動向では、働き盛りの大人にも感染が広がっているため、日常的な感染予防も徹底しましょう。


参考文献

  1. Walker MJ, Barnett TC, McArthur JD, Cole JN, Gillen CM, Henningham A, et al. Disease manifestations and pathogenic mechanisms of group A Streptococcus. Clin Microbiol Rev. 2014;27(2):264-301.
  2. Lean WL, Arnup S, Danchin M, Steer AC. Rapid diagnostic tests for group A streptococcal pharyngitis: a meta-analysis. Pediatrics. 2014;134(4):771-781.
  3. Shulman ST, Bisno AL, Clegg HW, Gerber MA, Kaplan EL, Lee G, et al. Clinical Practice Guideline for the Diagnosis and Management of Group A Streptococcal Pharyngitis: 2012 Update by the Infectious Diseases Society of America. Clin Infect Dis. 2012;55(10):e86-e102.
  4. Gerber MA, Baltimore RS, Eaton CB, Gewitz M, Rowley AH, Shulman ST, et al. Prevention of Rheumatic Fever and Diagnosis and Treatment of Acute Streptococcal Pharyngitis. Circulation. 2009;119(11):1541-1551.
  5. Carapetis JR, Steer AC, Mulholland EK, Weber M. The global burden of group A streptococcal diseases. Lancet Infect Dis. 2005;5(11):685-694.

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