疾患解説

脚気性心不全(べりべりハート)とは?

― 息切れ・むくみの裏に潜むビタミン B₁欠乏症を解説

当院は循環器内科を専門にしているため、息苦しさや足のむくみを訴えて来院される患者さんが非常に多いものです。実際、これらの症状の背景には心不全が潜んでいるケースが少なくありません。その心不全の原因の一つに、ユニークな名前の**「脚気心(べりべりハート)」**があります。変わった響きですが、きちんと治療すれば回復が期待できる“治せる心不全”です。


1.「べりべりハート」という名前の由来

語源意味臨床的なヒント
Beriberi(ベリベリ)シンハラ語 beri=「できない・弱い」を二重に重ねて強調した言葉。「足が前に出ないほど力が入らない」状態を指す脚気=ビタミン B₁欠乏で筋力が落ちることを表現 (en.wikipedia.org)
Heart(ハート)ビタミン B₁欠乏が心臓に及ぶ“ウェット型”脚気では高拍出性心不全を起こすため、「心臓」を直接示す心不全が主症状である脚気を強調

2.なぜビタミン B₁不足で心臓が弱るのか

  1. ATP(エネルギー)産生の低下
    • ビタミン B₁は糖質を燃やす酵素の“点火プラグ”。不足すると心筋がエネルギーを作れずポンプ力が急落します。
  2. 末梢血管の弛緩・心拍出量の増大
    • 乳酸・ピルビン酸が蓄積→血管が拡がり、心臓は薄い血液を大量に送り出さねばならず負担増。
  3. ナトリウム・水分貯留
    • 腎臓ホルモンバランスが崩れ、むくみ・胸水・腹水が増える。

3.最新トピック(2024–25年)

話題概要出典
都市型ベリベリの再興白米偏食&エナジードリンク常用の40歳男性で劇的改善例報告(pmc.ncbi.nlm.nih.gov)
難民キャンプでの集団発生2024 年、東アフリカ難民キャンプで50例超の脚気が発生。精白米偏重が原因と報告(cdc.gov)
心不全患者へのビタミン B₁補充エビデンス2024 年メタ解析:欠乏是正は必須だが、十分血中濃度がある患者への追加投与は効果限定的(pubmed.ncbi.nlm.nih.gov)

4.こんな方は要注意

  • 極端な炭水化物中心の食事(白米・麺類のみ)
  • 大量飲酒(吸収低下+代謝需要↑)、野菜不足
  • 透析・利尿薬長期内服(尿中排泄↑)
  • 胃切除後・吸収不良症候群
  • 妊娠・授乳期、高カロリー糖液のみで栄養管理中

5.主な症状チェックリスト

  • 息切れ・動悸、横になると苦しい
  • 足や顔のむくみ、体重急増
  • 強い倦怠感、微熱様のだるさ
  • こむら返り・足のしびれ(ドライ型を併発)

1つでも当てはまれば、早めの受診がおすすめです。


6.診断の流れ

  1. 問診・身体診察:食生活や飲酒量、薬歴を詳しく確認
  2. 血液検査:血中ビタミンB1、BNP、乳酸/ピルビン酸
  3. 画像検査:胸部 X 線で心拡大、心エコーで高拍出・駆出率低下

7.治療と再発予防

フェーズ具体策
急性期重症の場合はビタミン B₁点滴 100–500 mg/日+利尿薬・酸素投与
回復期内服 10–20 mg/日へ切替え、豚肉・豆類・玄米などを毎食に
再発予防飲酒量コントロール、透析患者は月1回静注、偏食改善

注意:高濃度ブドウ糖点滴は必ずチアミン投与後に行います。先に糖を入れると欠乏が悪化します。軽症の場合は内服から開始することもあります。


8.5つの日常セルフケア

  1. 主食の20–30%を玄米・雑穀
  2. 豚ヒレ・大豆・ナッツをひとくち追加
  3. 清涼飲料を控え、麦茶や水中心に
  4. 飲酒日はビタミン B₁サプリ 10 mgで補完
  5. 透析・胃切除後の方は主治医と定期静注計画

まとめ

  • 脚気性心不全(べりべりハート)は、原因が明確な“治療可能な心不全”
  • 息切れ・むくみ・倦怠感を感じたら、自己判断で栄養ドリンクに頼らず医療機関へ
  • 当院では血液中ビタミン B₁測定と迅速補充療法を行っています。気になる症状があればお気軽にご相談ください。

参考文献・ニュース

  • A Case of Cardiac Beriberi: dramatic LV改善例, Case Rep Cardiol, 2024 (pmc.ncbi.nlm.nih.gov)
  • CDC Immigrant & Refugee Health: Thiamine Deficiency Guidance, 2025 (cdc.gov)
  • Role of Thiamine Supplementation in Chronic Heart Failure: Meta-analysis, Clinical Cardiology, 2024 (pubmed.ncbi.nlm.nih.gov)
  • Thiamine deficiency ― history & etymology, Wikipedia (en.wikipedia.org)

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