疾患解説

健康診断で「腫瘍マーカーが高い」と相談されたら


当院は循環器内科ですがかかりつけの患者さんなどから「健康診断で腫瘍マーカー(AFP など)が基準より高いと⾔われたのですが、がんでしょうか︖」
というご相談が少なくありません。結論から言うと本当に癌である可能性はそれほど高くありません。

この記事では、肝臓がんマーカー AFP を例に、腫瘍マーカー検査ががん発⾒に向かない理由を数字で示します。
なお 感度 60 %/特異度 90 % という値は、2003 年の総説論文(Yuen MF, Lai CL)で
「AFP 20 ng/mL をカットオフにした場合の性能」として報告されたものを採⽤しています。


1. 腫瘍マーカーとは?

  • 少量の採⾎で測定できる、がん関連たんぱく質(AFP, CEA, CA-125 など)。
  • 治療後の再発チェックには役立つ⼀⽅、健康な⽅の早期発⾒⽬的では命を救う効果が証明されていません。

2. 数字でわかる「当たりにくさ」

受診者の背景有病率(事前確率)陽性的中率(PPV)100⼈「陽性」と出たとき…
⼀般健診0.1 %約 0.6 %本当に肝臓がん︓1 ⼈弱/偽陽性︓99 ⼈
肝炎・肝硬変などハイリスク5 %24 %本当に肝臓がん︓24 ⼈/偽陽性︓76 ⼈

同じ検査でも **「受ける⼈のリスク」**が低いと、陽性のほとんどが偽陽性になります。


3. 腫瘍マーカー検査を勧めにくい 5 つの理由

  1. 偽陽性が多い → 追加の CT・MRI・⽣検がほぼ空振り。
  2. 不安と費⽤が増える → 受診・被ばく・時間的コスト。
  3. 偽陰性の落とし穴 → 「正常だから安⼼」で本物のがんを⾒逃すことも。
  4. 死亡率を下げた証拠がない → ⼤規模試験で延命効果は未確認。
  5. 本来の役割は“治療後の経過観察” → 再発の早期検出に活⽤。

4. 異常値が出たときのステップ

  1. 慌てず再検査(炎症などで⼀過性上昇も)。
  2. リスク⾯談(B/C 型肝炎・家族歴などを確認)。
  3. 画像検査で直接確認(超⾳波・CT・MRI)。
  4. 定期フォロー(検査は“点”ではなく“線”で)。

まとめ

  • 腫瘍マーカーは “がんを探す” よりも “治療後の再発監視” が主な役割。
  • 健診で異常値を指摘されても、99 % 以上が偽陽性 ということも珍しくありません。
  • 不安なときは数値だけにとらわれず、画像検査や再検査で確かめることが大切です。

疑問やご⼼配があれば、どうぞお気軽に当院へご相談ください。

参考文献(Vancouver Style)

  1. Yuen MF, Lai CL. Screening for hepatocellular carcinoma: survival benefit and cost-effectiveness. Ann Oncol. 2003;14(10):1463-1467.

数字を動かして体感︕シミュレーター

AIを利用してシミュレーターを作成してみました、いろいろと数値を変えて試してみてください。

事前確率と陽性的中率の関係

事前確率と陽性的中率の関係

なぜ事前確率が低いと陽性的中率も低くなるのか?視覚的に理解しましょう。

0.1%
80%
90%
現在の陽性的中率
0.0%

現在の設定での陽性者の内訳

事前確率 0.1% の場合

0.0%
が実際のがん
実際のがん患者: 0人
健康だが陽性: 0人

事前確率と陽性的中率の関係

💡 重要な洞察: 事前確率が低い集団では、陽性者の大部分が偽陽性になってしまいます!

1000人の検診結果

がん患者(陽性): 0人
健康(偽陽性): 0人
がん患者(陰性): 0人
健康(陰性): 0人

🧪 クイック比較実験

このシミュレーターは教育目的のためのものであり、実際の医学的判断に代わるものではありません。

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