疾患解説

【上皇さまご入院の報道から学ぶ】心筋虚血とは?原因・症状・治療・予防法をわかりやすく解説

心筋虚血ってなに?症状がないこともあるって本当?

2025年5月6日、上皇さまが「心筋虚血の可能性が高い」と診断され、東京都内の病院に入院されたというニュースが報道されました(NHKニュース記事はこちら)。

心筋虚血とは、心臓に酸素や栄養を送る冠動脈の血流が不足し、心筋が一時的に酸素不足に陥る状態を指します。今回の報道では「自覚症状はない」とされていますが、実際に心筋虚血は症状が目立たない場合もあり、高齢の方では特に注意が必要です。

なぜ心筋虚血が起こるの?高齢者に多い理由とは

心筋虚血は、主に冠動脈の動脈硬化によって引き起こされます。加齢、高血圧、糖尿病、脂質異常症(コレステロール異常)、喫煙、ストレスなどがリスク要因です。上皇さまも過去に狭心症の診断を受け、冠動脈バイパス手術を受けられた経歴があります。

また、3年前には三尖弁閉鎖不全による右心不全と診断されており、心臓の構造的な問題も背景にあります。これらの既往歴が、心筋への酸素供給のバランスを崩す要因となり得ます。

症状がないまま進行することも:心筋虚血の「サイレント」な特徴

典型的な症状には、

  • 胸の痛みや圧迫感
  • 息切れ
  • 動悸
  • 疲れやすさ

がありますが、特に高齢者や糖尿病患者では「無症候性心筋虚血」が起こりやすく、注意が必要です。症状がないまま進行するため、検査で初めて発見されることも少なくありません。

治療はどうするの?薬とカテーテル治療・バイパス手術の選択肢

心筋虚血の治療は、内科的治療(薬物療法)と、必要に応じて再血行再建術(PCIやCABG)を組み合わせて行います。

1. 薬物療法(内科的治療)

心筋への負担を減らすための薬剤が中心となり、特に以下の薬が一般的です:

  • 抗血小板薬(アスピリン、クロピドグレル):血栓を防ぎます
  • β遮断薬/カルシウム拮抗薬:心拍数を抑え、酸素消費を軽減
  • スタチン系薬剤:動脈硬化の進行抑制
  • ACE阻害薬/ARB:血圧を安定させ、心筋を保護します

無症候性の虚血例では、こうした薬物治療が第一選択とされるケースが多く、ISCHEMIA試験などの研究でも薬物療法の有効性が示されています(1)。

2. 再血行再建術:心臓バイパス術後はPCIが主流

再発性や重症の虚血に対しては、血流を改善する手段として経皮的冠動脈インターベンション(PCI)が行われることがあります。

上皇さまは2012年に冠動脈バイパス手術(CABG)を受けておられますので再度バイパス手術を行うことは一般的には稀です。バイパス後に血流が悪化した場合には、カテーテルによる治療(PCI)が現実的な選択肢となります(2)。PCIは身体への負担が少なく、回復も早いため、高齢者にも適した治療法です。

どうやって予防する?日常生活でできること

  • 禁煙
  • 塩分や脂質を控えた食生活
  • ウォーキングなどの有酸素運動
  • 定期的な健康診断・心臓検査
  • 高血圧、糖尿病、コレステロールの管理

心筋虚血は、早期発見と適切な治療でコントロール可能な病気です。生活習慣の見直しが、最大の予防策となります。


桂川さいとう内科循環器クリニックからのメッセージ

当院では、心筋虚血や狭心症といった冠動脈疾患に対して、薬物治療・生活習慣の見直し・必要に応じた専門医紹介によるカテーテル治療を行っています。心臓に不安がある方、定期検査をご希望の方は、ぜひご相談ください。


上皇さまのご健康をお祈り申し上げます

今回のご報道を受け、上皇さまの一日も早いご回復と、ご健康の維持を心よりお祈り申し上げます。


参考文献

(1) Maron DJ, Hochman JS, Reynolds HR, et al. Initial Invasive or Conservative Strategy for Stable Coronary Disease. N Engl J Med. 2020;382(15):1395–1407.

(2) Fihn SD, Gardin JM, Abrams J, et al. 2012 ACCF/AHA/ACP/AATS/PCNA/SCAI/STS guideline for the diagnosis and management of patients with stable ischemic heart disease. J Am Coll Cardiol. 2012;60(24):e44-e164.

(3) 日本循環器学会. 狭心症・心筋梗塞の診断と治療に関するガイドライン(2020年改訂版). https://www.j-circ.or.jp

関連記事

コメント

この記事へのコメントはありません。