「動脈硬化のマーカー」なのか、「治療するべき対象」なのか、最新の研究からわかってきたこと
はじめに
健康診断で「中性脂肪が高いですね」と言われたことはありませんか?
「脂っこいものが好きだからかな」
「お酒を飲むせいかも…」
「運動不足かな?」
そう思いつつも、**LDL(悪玉)コレステロールが正常なら大丈夫じゃない?**と気にしていない方も多いかもしれません。
しかし、中性脂肪(トリグリセリド)は、じわじわと動脈硬化を進めることが、最近の研究で分かってきました。
しかも、その中には「治療することで心筋梗塞や脳卒中を減らせる可能性のある人」がいることも、わかってきたのです。今回はChat GPTを用いて中性脂肪に関するエビデンスを調査し、患者さん向けにまとめてみました。
中性脂肪とは何か?
中性脂肪(トリグリセリド)は、体のエネルギー源となる脂肪の一種で、食事から摂取されたり、肝臓で作られたりしています。
血液中に多く存在し、特に以下のような生活習慣と関係しています。
- 脂っこい食事
- 飲酒
- 運動不足
- 肥満
- 糖尿病
中性脂肪の数値が高いと、血液がドロドロになり、動脈硬化(血管が詰まる病気)を進めやすくなることが、これまでの多くの研究でわかっています。
問題は、「下げれば安心なのか?」ということ
実はここが重要なポイントです。
これまで、コレステロールを下げる薬(スタチンなど)で心筋梗塞を減らせることは、確かなエビデンス(証拠)がありました。
では、中性脂肪はどうでしょうか?
「高いからといって、下げたら本当に心筋梗塞が減るのか?」
この問いに答えるために、世界中で様々な研究が行われてきました。
高い効果があった研究:EPA(魚由来の成分)
日本人の研究も含まれるREDUCE-IT試験では、
中性脂肪が高く、コレステロールの薬(スタチン)を使っている患者さんに対し、EPA(イコサペントエチル)という成分を飲んでもらったグループと、そうでないグループを比較しました。
その結果、EPAを飲んでいた人たちは、
- 心筋梗塞
- 脳卒中
- 心臓突然死
などの重大な病気が25%も減ったのです。
このEPAは、魚に多く含まれる成分を高純度にしたもので、日本でも保険適用になっています。
でも、すべてがうまくいくわけではない:ペマフィブラートの結果
一方、日本で開発された中性脂肪を下げる薬、ペマフィブラートを使った大規模な試験(PROMINENT試験)では、
- 中性脂肪は大きく下がったのに
- 心筋梗塞や脳卒中などの病気は減りませんでした
つまり、「中性脂肪を下げること=必ずしも病気を防げるわけではない」ことが、この研究からわかりました。
では、中性脂肪は“悪い”のか、“関係ない”のか?
ここまで読むと、混乱してしまうかもしれません。
でも、こう考えるとわかりやすいかもしれません。
- 中性脂肪は、動脈硬化の原因の一つではある
- でも、それが**“主役”か“脇役”かは、人によって違う**
- すべての人に治療が必要なわけではなく、「適切な人を選ぶこと」が重要
ということです。
誰が「治療すべき中性脂肪高値」なのか?
現在わかってきているのは、以下のような方です。
- LDLコレステロール(悪玉)は正常だが、まだ心筋梗塞のリスクが高い人
- 中性脂肪が150〜500 mg/dLくらいで、HDL(善玉)が低い人
- すでに心筋梗塞や狭心症の経験がある人
- 糖尿病がある人
このような方は、中性脂肪が「単なる数値」ではなく、「治療の対象」になり得ると考えられています。
では、どうすればいいのか?
治療にはいくつかの方法があります。
方法 | 期待される効果 | 備考 |
---|---|---|
EPA製剤(処方薬) | 心筋梗塞や脳卒中の予防 | 高リスク患者に保険適用あり |
食事改善 | 中性脂肪の低下 | 炭水化物・お酒・甘いものを控える |
運動 | 中性脂肪を下げ、善玉HDLを上げる | 週150分以上の有酸素運動が目安 |
糖尿病や脂肪肝の治療 | 中性脂肪の原因にアプローチ | 背景にある病気も治療対象に |
まとめ:中性脂肪の数値、見過ごさないで
- 中性脂肪は、動脈硬化や心臓病のリスクと関係しています
- 数値が高いからといって、すぐに薬が必要とは限りません
- でも、特定の条件を満たす人では、治療によって命を救える可能性もあります
健康診断で中性脂肪が高いといわれたら、
「まだ大丈夫」ではなく、
「どのくらいリスクがあるのか、今の自分にとって治療が必要かどうか」を
医師と一緒にじっくり確認していくことが大切です。
当院でも、LDLが正常でも中性脂肪が高く、見逃されやすい方をよく診ています。
中性脂肪を「ただの数値」だと思わず、将来の病気を防ぐサインとして活用していきましょう。
ご心配な方は、いつでもご相談ください。
*この記事を作成する前段階になったDeep Researchの結果は下記のようになっております。
中性脂肪(トリグリセリド)と心血管疾患:最新エビデンスまとめ
1. 中性脂肪低下薬による心血管イベント抑制効果のエビデンス
フィブラート系薬(Fibrates):
- HHS試験 (Helsinki Heart Study, 1987年, PMID: 3313041): フィブラート系のゲムフィブロジルを用いた初期の一次予防試験です。中年男性高脂血症患者4,081人を対象にゲムフィブロジル群とプラセボ群を比較した結果、冠動脈イベント(致死的・非致死的心筋梗塞)の発生が 34%有意に減少 しました ( Fibrates Revisited: Potential Role in Cardiovascular Risk Reduction – PMC )。
- VA-HIT試験 (Veterans Affairs HDL Intervention Trial, 1999年, PMID: 10438259): 冠動脈疾患を有する低HDLコレステロール患者2,531人(二次予防)でゲムフィブロジル1200 mg vs プラセボを比較。主要評価項目(冠動脈死+非致死的MI)が 22%減少 し、有意に心血管リスクを低下させました ( Fibrates Revisited: Potential Role in Cardiovascular Risk Reduction – PMC ) (Gemfibrozil for the secondary prevention of coronary heart disease in men with low levels of high-density lipoprotein cholesterol. Veterans Affairs High-Density Lipoprotein Cholesterol Intervention Trial Study Group – PubMed)。一方でベザフィブラートを用いた二次予防試験(BIP試験1999年、LEADER試験2002年)は全体では有意差を示さず(BIPでは主要評価項目9.4%減、P=0.26)でしたが、サブ解析では高TG(≧200 mg/dL)かつ低HDLの患者で有意なリスク低下が見られました ( Fibrates Revisited: Potential Role in Cardiovascular Risk Reduction – PMC )。
- Fenofibrate(フェノフィブラート): 糖尿病患者対象の大規模RCT FIELD試験 (2005年, Lancet) では、フェノフィブラート200 mg vs プラセボで冠動脈イベントの 11%相対リスク減少 を示しましたが有意差に至りませんでした(HR 0.89, 95%CI 0.75–1.05, P=0.16) ( Fibrates Revisited: Potential Role in Cardiovascular Risk Reduction – PMC )。一方、非致死性心筋梗塞に限れば24%減少し有意でした ( Fibrates Revisited: Potential Role in Cardiovascular Risk Reduction – PMC )。糖尿病患者でスタチン併用下のACCORD-Lipid試験 (2010年, PMID: 20228404) では、フェノフィブラート追加群で主要複合アウトカム(CV死、非致死的MI、脳卒中)8%減少と全体では有意差なく(HR 0.92, P=0.32) (Effects of combination lipid therapy in type 2 diabetes mellitus – PubMed)、試験は陰性でした。ただし事前規定のサブグループ解析では、中性脂肪高値(≥204 mg/dL)かつHDL低値(≤34 mg/dL)の群で有意なリスク低下(約28%減少)が認められています ( Fibrates Revisited: Potential Role in Cardiovascular Risk Reduction – PMC )。この傾向は試験終了後の追跡解析(ACCORDION, 2017年)でも持続し、高TG・低HDL群でのCVイベント27%減少が報告されています ( Fibrates Revisited: Potential Role in Cardiovascular Risk Reduction – PMC )。以上より、フィブラートは高TG・低HDLを伴う動脈硬化性脂質異常症で効果が期待されるものの、スタチン併用下では一般集団への追加効果は限定的と考えられます。
オメガ3系脂肪酸 (魚由来EPA/DHA):
- GISSI-P試験 (1999年): 心筋梗塞既往患者を対象に、1日約1 gのn-3脂肪酸投与群で総死亡と突然死の有意な低下を示しました(この試験はイタリアで行われ、当時スタチン非併用患者も多く、魚油の有効性が示唆されました)。
- JELIS試験 (Japan EPA Lipid Intervention Study, 2007年, PMID: 17398308): 日本人高コレステロール血症患者18,645人(多くはスタチン治療中)を対象に、純粋EPA製剤1,800 mg/日の追加効果を検討したオープンラベル試験です。平均5年の追跡で、主要冠動脈イベントが19%有意に減少 しました (Eicosapentaenoic acid for prevention of major coronary events – The Lancet)。特に高TG(≧150 mg/dL)かつ低HDL患者ではEPAの有益性が顕著でしたと報告されています。
- REDUCE-IT試験 (2018年発表, 2019年出版, PMID: 30415628): 高リスク患者(動脈硬化疾患または糖尿病合併)で中性脂肪高値(基準150~499 mg/dL)かつスタチン治療中の8,179人に、高純度EPA製剤イコサペントエチル4 g/日 vs ミネラルオイルプラセボを投与。中央値4.9年で、主要複合CVイベント(CV死、非致死的MI・脳卒中など)が25%有意に低下 しました(17.2% vs 22.0%, HR 0.75, 95%CI 0.68–0.83, P<0.001) (Cardiovascular Risk Reduction with Icosapent Ethyl for Hypertriglyceridemia – PubMed)。心血管死も20%減少し、総死亡もわずかに減少しています (Cardiovascular Risk Reduction with Icosapent Ethyl for Hypertriglyceridemia – PubMed)。REDUCE-ITは従来の陰性試験と一線を画す有効性を示し、高用量EPAの有用性が注目されました。
- その他オメガ3試験: 上記とは異なりEPA+DHA混合製剤を用いた近年の試験では効果が限定的でした。例えばSTRENGTH試験 (2020年, JAMA) は高用量のEPA/DHA (4 g/日)投与群とコーン油プラセボ群を比較しましたが、主要CVイベント発生率に有意差がなく試験は早期中止となっています (Long-Term Outcomes Study to Assess Statin Residual Risk With …) (New STRENGTH Analysis Revives Omega-3 Debate – TCTMD.com)。また糖尿病患者を含む複数のスタディ(例えば2012年のORIGINのn-3脂肪酸サブ試験など)でも低用量魚油の心血管イベント抑制効果は認められませんでした。総じて、高純度EPA製剤のみが明確な有益性を示し、EPA+DHA併用では効果が見られない可能性が指摘されています。この違いについては用量やプラセボの違いによる検討がなされています (Focus – Meta-analysis: Association between triglyceride lowering and reduction of cardiovascular risk | R3I)。
SGLT2阻害薬:
SGLT2阻害薬は本来糖尿病治療薬ですが、体重減少や血圧低下作用を通じて中性脂肪にも軽度の低下効果を示し、近年の大規模RCTで心血管アウトカム改善効果が明らかになりました。例えばEMPA-REG OUTCOME試験 (Empagliflozin, 2015年, PMID: 26378978) では、2型糖尿病+心血管疾患患者7,020人にエンパグリフロジン10/25mg vs プラセボを追加し3年間追跡したところ、主要複合アウトカム(CV死、非致死的MI・脳卒中)が14%有意に減少 しました(HR 0.86, 95%CI 0.74–0.99, P=0.04)。特に心血管死は38%もの大幅減少を示し(3.7% vs 5.9%, HR≈0.62)、全死亡や心不全入院も有意に減少しています。この結果はCANVAS試験 (カナグリフロジン, 2017年) や DECLARE-TIMI58試験 (ダパグリフロジン, 2019年) など他のSGLT2阻害薬でも概ね再現され、メタ解析では3点複合主要イベントを約10%程度減少させ、特に心不全による入院リスクを約30%減少させることが示されています。注意: SGLT2阻害薬の心血管イベント抑制効果は主として血糖・血圧・利尿作用によるもので、中性脂肪低下効果は補助的役割と考えられます。
ニコチン酸誘導体 (ナイアシン):
ナイアシン(ニコチン酸)は中性脂肪を下げHDLコレステロールを上げる薬剤ですが、スタチン治療時代における大規模RCTでは心血管イベント抑制に寄与しないことが示されています。古くはCoronary Drug Project (1975年)でナイアシン投与により心筋梗塞再発抑制と長期死亡率低下(追跡15年で11%死亡率低下)を示しましたが、これはスタチン登場前のエビデンスです。近年の代表的研究として、AIM-HIGH試験 (2011年, PMID: 22085343) では、非HDLコレステロール高値の動脈硬化疾患患者3,414人において、スタチン療法にナイアシン徐放製剤を追加しても主要CVイベント発生率はプラセボ群と差がありませんでした(約16.4% vs 16.2%, HR 1.02, P=0.79) (Niacin in patients with low HDL cholesterol levels receiving intensive statin therapy – PubMed)。この試験は中間解析で無益性のため早期中止されました。またHPS2-THRIVE試験 (2014年, PMID: 25014686) では、25,673人の高リスク患者を対象にナイアシン+ラロピプラント併用療法を検討しましたが、主要血管イベント発生率は介入群13.2% vs 対照群13.7%(RR 0.96, P=0.29)と有意差がなく、逆に皮膚障害、筋肉痛、出血、感染、糖代謝悪化など有害事象の有意な増加が報告されています (Effects of extended-release niacin with laropiprant in high-risk patients – PubMed) (Effects of extended-release niacin with laropiprant in high-risk patients – PubMed)。以上より、現行の標準治療下ではナイアシン追加は臨床上の利益を示さないと考えられ、主要ガイドラインでも推奨されなくなっています。
ペマフィブラート (Pemafibrate):
ペマフィブラートは選択的PPARαモジュレーター(いわゆる「次世代フィブラート」)として日本で開発され、中性脂肪を強力に低下させる薬剤です (Triglyceride Lowering with Pemafibrate to Reduce Cardiovascular …)。その心血管イベント抑制効果を検証した大規模RCTがPROMINENT試験 (2022年)で、2型糖尿病+高TG(200–400 mg/dL)+低HDL(≦40 mg/dL)患者10,497人(ほぼ全員スタチン服用中)を対象に実施されました (Limited benefit of triglyceride lowering with fibrates in statin-treated patients | Nature Reviews Cardiology)。平均3.4年の追跡で、ペマフィブラート群はプラセボ群に比べ中性脂肪を約27%低下させましたが (Triglyceride Lowering with Pemafibrate to Reduce Cardiovascular …)、主要複合心血管イベント発生率に差は認められませんでした(一次エンドポイント発生数: ペマフィブラート群572人 vs プラセボ群560人で有意差なし) (Triglyceride Lowering with Pemafibrate to Reduce Cardiovascular …)。実際、CVイベント抑制効果は確認できず、研究者らも「20~30%のTG低下にもかかわらず臨床転帰に利益は見られなかった」と結論しています (PROMINENT – A Randomized Trial of Pemafibrate for Triglyceride Reduction in the Prevention of CVD – American College of Cardiology)。副次的所見としてペマフィブラート群で肝機能障害や軽度の腎機能悪化が報告されましたが (Triglyceride Lowering with Pemafibrate to Reduce Cardiovascular …)、有意な副作用は概ね少なく忍容性は良好でした。総じて、ペマフィブラートは中性脂肪を大きく下げるものの心血管イベント抑制にはつながらないことが示され、フィブラート系薬剤全体の限界を裏付ける結果となりました (Limited benefit of triglyceride lowering with fibrates in statin-treated patients | Nature Reviews Cardiology) (Limited benefit of triglyceride lowering with fibrates in statin-treated patients | Nature Reviews Cardiology)。
2. 高トリグリセリド血症と心血管リスクの疫学エビデンス
疫学研究からは、血中中性脂肪(TG)高値は心血管疾患リスク増大と相関することが一貫して示されています。多くの前向きコホート研究で、空腹時・非空腹時を問わずTG値が高い群ほど将来の冠動脈疾患イベント発生率が高い傾向があります (動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版、主な改訂点5つ/日本動脈硬化学会|医師向け医療ニュースはケアネット)。例えば、Sarwarらによる29研究・約26万人を対象にしたメタ解析では、他の危険因子で補正後でもTG値上位3分の1群は下位群に比べて冠動脈疾患リスクが約1.7倍に増加していました (Triglycerides and the risk of coronary heart disease: 10,158 incident cases among 262,525 participants in 29 Western prospective studies – PubMed)。一方で、TG値はHDLコレステロールやインスリン抵抗性と逆相関するため、「高TG自体が独立した原因か、それら関連因子のマーカーか」が議論されてきました ( Triglyceride and cardiovascular risk: A critical appraisal – PMC ) ( Triglyceride and cardiovascular risk: A critical appraisal – PMC )。近年のMendelian Randomization解析では、TGを運ぶ残余リポタンパク(レムナント)コレステロールの上昇に関連する遺伝子変異が冠動脈疾患リスクを高めることが示され、因果関係を支持するエビデンスも出てきています。また非空腹時TGの方がリスク予測に有用との知見もあり、デンマークの大規模研究では非空腹時TGが高いと心筋梗塞や脳卒中リスクが有意に上昇することが報告されています。まとめると、高トリグリセリド血症は心血管リスクの一因であり、特にメタボリックシンドロームの文脈でリスクマーカーないし増悪因子として位置づけられています。ただしLDL-Cほどの明確な因果性はなく、他因子との複合的リスクとして捉えられます ( Triglyceride and cardiovascular risk: A critical appraisal – PMC )。
3. ガイドラインにおける中性脂肪の位置づけと治療方針
欧米の主要ガイドライン (ESC/EASおよびACC/AHAなど):
欧米の脂質管理ガイドラインでは、LDLコレステロールが一次的治療目標と位置づけられていますが、中性脂肪(TG)についても動脈硬化リスク因子として考慮されています。ただし明確な目標値は設定しない場合が多く、例えば2019年ESC/EASガイドラインでは「TG < 150 mg/dLであれば心血管リスクが低い指標となる」程度に言及され、LDL非達成時の二次目標としてNon-HDLコレステロールやアポBを管理することで間接的にTGリッチなレムナント粒子を抑制する戦略を推奨しています ( Comparison of Current International Guidelines for the Management of Dyslipidemia – PMC )。治療介入としては、まず生活習慣改善が基本で、空腹時TG > 200 mg/dLの高リスク患者にはスタチン治療を第一選択とします ( Comparison of Current International Guidelines for the Management of Dyslipidemia – PMC )。スタチンでLDL-C管理目標を達成した後もなおTGが高値(>200 mg/dL)の場合、欧州ではフィブラート併用を考慮してもよいとされています ( Comparison of Current International Guidelines for the Management of Dyslipidemia – PMC )。さらに、REDUCE-IT試験のエビデンスを受け、TG 135~499 mg/dLの高リスク患者にイコサペントエチル4 g/日の併用が推奨されました。ESC/EAS2019ではこの魚油療法についてクラスIIa推奨が与えられています ( Comparison of Current International Guidelines for the Management of Dyslipidemia – PMC )。一方、2018年米国ACC/AHAコレステロールガイドラインも基本的にTGに目標値は設けていませんが、TG ≥ 175 mg/dLをリスク増強因子として挙げ、まずは食事・運動療法と糖尿病・甲状腺機能低下など二次性高TGの除外を強調しています ( Comparison of Current International Guidelines for the Management of Dyslipidemia – PMC )。その上で、TGが150〜499 mg/dLの患者でASCVDリスクが高い場合はスタチン投与を優先し、必要に応じてEPA製剤(イコサペントエチル)の追加を検討するとのコンセンサスが示されています ( Comparison of Current International Guidelines for the Management of Dyslipidemia – PMC )。実際、ACCは2021年に高TG血症管理に関するExpert Consensusを発表し、REDUCE-IT適格基準に合致するような高リスク例へのイコサペントエチル併用を推奨しました ( Comparison of Current International Guidelines for the Management of Dyslipidemia – PMC )。米国ではナイアシンやフィブラートのroutineな使用は推奨されておらず、フィブラートは**TGが非常に高く膵炎予防が必要な場合(>500 mg/dL)**に限って用いる位置づけです。またSGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬の心血管保護効果にも言及されますが、これらは糖尿病治療の観点からの推奨となっています。
日本のガイドライン (日本動脈硬化学会[JAS]など):
日本でもLDL-C管理が最重視されますが、中性脂肪について独自の基準を設けています。最新の動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版では、新たに非空腹時TGの基準値が設定されました。具体的には、空腹時TG 150 mg/dL以上または随時(非空腹時)TG 175 mg/dL以上を高トリグリセリド血症と定義しています (動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版、主な改訂点5つ/日本動脈硬化学会|医師向け医療ニュースはケアネット)。これは国内疫学研究で空腹時・非空腹時いずれのTG高値も冠動脈疾患や脳卒中リスクと関連したこと、および欧州ガイドラインとの整合性を考慮したものです (動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版、主な改訂点5つ/日本動脈硬化学会|医師向け医療ニュースはケアネット)。日本では従来からTG < 150 mg/dL未満を管理目標の一つとしており、高TG血症は「動脈硬化性疾患のリスク因子の一つ」と位置づけられています。治療戦略としては、「まず生活習慣修正を十分に行い、それでも空腹時TGが300~500 mg/dL以上と高値が持続する場合に薬物療法を検討する」とされています。薬物はフィブラート系や高純度EPA製剤(イコサペント酸エチル)が選択肢で、特にEPA製剤は日本に豊富なエビデンス(JELIS試験など)があるため、冠動脈疾患の二次予防や高リスク一次予防でTG管理に用いることが示唆されています。JASガイドライン2017年版でも「スタチン治療下でもTGが高くHDLが低い場合にEPA製剤追加を考慮」と記載されていました。2022年版でもREDUCE-ITの結果を受け、高リスク患者へのイコサペント酸併用に言及していると考えられます(詳細な推奨度は本文中で議論されています)。なお、日本では極端な高TG血症(≧500 mg/dL)に対して膵炎予防目的でフィブラート(ペマフィブラート含む)や魚油製剤を用いる実臨床慣行がありますが、ガイドライン上も同様の方針です。また非HDLコレステロールが補助指標として推奨されており、高TG血症ではnon-HDL-C目標値(LDL目標値+30 mg/dL)を管理目安にするよう提案されています。
4. 総括:最近のレビュー・メタ解析の知見
近年の総括的評価として、トリグリセリド低下療法の心血管予防効果を検証したメタ解析がいくつか発表されています。例えばMarstonらはフィブラート・ニコチン酸・魚油を含む主要RCTを統合し解析した結果、非HDL-C低下量に比例して心血管リスクが低下する一方、純粋なTG低下量あたりのリスク低減効果はLDL-C低下時よりも小さいことを報告しています (Focus – Meta-analysis: Association between triglyceride lowering and reduction of cardiovascular risk | R3I)。この解析では特に高用量EPA投与による心血管リスク低減は単なる脂質低下効果以上の恩恵を与えている可能性が示唆されました (Focus – Meta-analysis: Association between triglyceride lowering and reduction of cardiovascular risk | R3I)。また2023年のメタ解析では、糖尿病患者に限定した場合にTG低下療法が有意なCVDイベントおよび心血管死リスク低減(それぞれ約9%および7%減少)をもたらすとの結果も報告されています (Triglyceride-lowering therapy for the prevention of cardiovascular events, stroke, and mortality in patients with diabetes: A meta-analysis of randomized controlled trials – Atherosclerosis) (Triglyceride-lowering therapy for the prevention of cardiovascular events, stroke, and mortality in patients with diabetes: A meta-analysis of randomized controlled trials – Atherosclerosis)。これら総括から、中性脂肪自体は治療ターゲットたり得るものの、LDL-C低下ほどの明確な効果は期待しにくいことが示されています。ただし、高リスク患者では残余リスク対策として選択的に介入する意義があり、特に高純度EPA製剤など有効性が示された治療を適切に用いることが重要です。 (Focus – Meta-analysis: Association between triglyceride lowering and reduction of cardiovascular risk | R3I) (PROMINENT – A Randomized Trial of Pemafibrate for Triglyceride Reduction in the Prevention of CVD – American College of Cardiology)
**参考文献:**主要研究の結果は各RCTの報告論文(HHS ( Fibrates Revisited: Potential Role in Cardiovascular Risk Reduction – PMC )、VA-HIT ( Fibrates Revisited: Potential Role in Cardiovascular Risk Reduction – PMC )、FIELD ( Fibrates Revisited: Potential Role in Cardiovascular Risk Reduction – PMC )、ACCORD ( Fibrates Revisited: Potential Role in Cardiovascular Risk Reduction – PMC )、JELIS (Eicosapentaenoic acid for prevention of major coronary events – The Lancet)、REDUCE-IT (Cardiovascular Risk Reduction with Icosapent Ethyl for Hypertriglyceridemia – PubMed)、AIM-HIGH (Niacin in patients with low HDL cholesterol levels receiving intensive statin therapy – PubMed)、HPS2-THRIVE (Effects of extended-release niacin with laropiprant in high-risk patients – PubMed)、PROMINENT (PROMINENT – A Randomized Trial of Pemafibrate for Triglyceride Reduction in the Prevention of CVD – American College of Cardiology)など)およびガイドライン ( Comparison of Current International Guidelines for the Management of Dyslipidemia – PMC ) (動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版、主な改訂点5つ/日本動脈硬化学会|医師向け医療ニュースはケアネット)より作成しました。
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