論文解説

中年期の緑茶およびコーヒー摂取が長期的な認知症予防に与える影響—JPHC佐久メンタルヘルス研究

はじめに

発熱の患者さんも落ち着いてきて、最近は少しゆっくり論文を読む時間ができました。今回は、その中でも特に興味深かった「緑茶とコーヒーの摂取が認知症予防に与える影響」についての最新研究をご紹介します。

認知症は、高齢化に伴い世界的に深刻な健康課題となっており、2019年時点で約5,500万人、2050年には1億3,900万人に達すると予測されています(1)。これまでの研究では、運動や食事などの生活習慣が認知症リスクを左右することが指摘されてきましたが、日常的に飲まれる緑茶やコーヒーが脳の健康に及ぼす影響については、長期的なデータが不足していました。

そこで、日本で行われたJPHC佐久メンタルヘルス研究では、中年期における緑茶およびコーヒーの摂取が、約20年後の認知機能にどのような影響を与えるのかを検討しました(1)。


研究の概要

本研究は、日本の**JPHC(Japan Public Health Center-based Prospective Study)**の一環として実施されました。対象となったのは、1995年時点で44〜66歳だった1,155名で、彼らの緑茶およびコーヒーの摂取状況を調査し、20年間の追跡後(2014〜2015年)に認知機能を評価しました。

方法

対象者: 1990〜1993年に開始されたJPHC研究の一部として、長野県佐久地域に住む1,155名を対象とした。
飲料摂取評価: 1995年および2000年に、緑茶・コーヒーの摂取頻度をアンケート調査。
認知機能評価: 2014〜2015年に**Mini-Mental State Examination(MMSE)**などの神経心理学的テストを実施し、認知機能の低下を評価。
統計解析: ロジスティック回帰分析を用いて、緑茶・コーヒー摂取と認知症リスクの関連を検討。


研究結果

🔹 緑茶の摂取と認知症予防効果

1日2〜3杯の緑茶を飲む人は認知機能低下のリスクが44%低下(オッズ比 0.56, 95%CI: 0.35–0.91)。
4杯以上の摂取では有意な効果は認められなかった(U字型の関係)。
特に男性で顕著な予防効果が観察された(オッズ比 0.38, 95%CI: 0.19–0.76)。

🔹 コーヒーの摂取と認知症予防効果

1日1杯以上のコーヒーを飲む人は、高齢者(1995年時点で53歳以上)において認知機能低下のリスクが46%低下(オッズ比 0.54, 95%CI: 0.34–0.84)。
全体では有意な関連は見られなかった


考察

緑茶の効果—なぜ男性で顕著なのか?

緑茶に含まれるエピガロカテキンガレート(EGCG)やテアニンには、抗酸化作用や抗炎症作用があり、神経細胞を保護する可能性が示唆されています(1)。特に男性は女性に比べて酸化ストレスの影響を受けやすいため、緑茶の抗酸化作用がより強く働くと考えられます。

また、女性ではエストロゲンが脳の神経保護に関与していることが知られており、閉経前後のホルモン変化が認知機能に影響を与える可能性も考えられます(1)。

コーヒーの効果—なぜ高齢者で顕著なのか?

コーヒーに含まれるカフェインクロロゲン酸は、覚醒作用を持ち、神経炎症を抑えるとされています(1)。特に高齢者においては、カフェインの摂取が短期的な認知機能の維持に寄与する可能性が指摘されています。

一方で、本研究ではコーヒーの摂取量と認知症リスクの関係にU字型のパターンは認められず、過剰摂取によるリスクの上昇は見られませんでした(1)。


結論と今後の応用

本研究の結果から、中年期の緑茶およびコーヒーの適度な摂取が、長期的な認知症予防に有益である可能性が示されました(1)。

緑茶は1日2〜3杯が最も効果的で、特に男性に予防効果が大きい。
コーヒーは1日1杯以上が効果的で、特に高齢者において認知機能低下のリスクが低減。
過剰摂取は効果を減少させる可能性があるため、適量を守ることが重要。

この結果を踏まえ、公衆衛生の観点から中年期の適切な飲料習慣を推奨することで、認知症の発症を抑える取り組みが今後の課題となります。


参考文献

(1) Koreki A, Nozaki S, Shikimoto R, et al. A longitudinal cohort study demonstrating the beneficial effect of moderate consumption of green tea and coffee on the prevention of dementia: The JPHC Saku Mental Health Study. J Alzheimers Dis. 2025;1–9.

桂川さいとう内科循環器内科では、生活習慣の見直しを含めた健康相談を行っています。認知症予防について気になる方は、お気軽にご相談ください!

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