近隣の先生方と月に1回土曜日午後に論文の抄読会をしています。抄読会ではThe New England Journal of MedicineのClinical Problem-Solvingの論文を対象にしてそれぞれ自身の担当するパートを決めて邦訳して全文を読んだ後で論文に関する疑問、意見などを議論しています。今回は”Digging into the Histology“というタイトルの論文でした。
この論文では33歳の潰瘍性大腸炎を治療中の患者さんの治療経過をまとめたもので、最終的には消化管穿孔から外科手術となり、その手術の際の病理組織標本でヒストプラズマ症と診断がつきました。非常に診断が難しかったこと、病理組織検査ではじめて診断がついたため”Digging into the Histology”、すなわち”組織検査を深く掘り下げる”というタイトルになったのだと思います。
最近はChat GPTが非常に賢くなっているため本論文を読み込ませていくつか質問したり、バーチャルカンファレンスをさせたりしています。また新しい試みとして論文全体をマインドマップ表示させてみました。
患者の経過についてまとめてください
患者は33歳の男性で、左側大腸炎を患っている潰瘍性大腸炎の患者です。症状としては、過去8ヶ月間にわたり進行性の疲労感と血便を伴う下痢がありました。最初の診断は7年前にされ、当初は経口および直腸用のメサラミンで治療されていましたが、5年前に潰瘍性大腸炎のフレアが発生し、治療がサブカットン・アダリムマブと経口アザチオプリンの併用療法に切り替えられました。
症状の悪化に伴い、彼は抗TNF-α薬(アダリムマブ)とアザチオプリンを服用していました。2ヶ月前に行われた柔軟なシグモイド鏡検査では、直腸から降行結腸にかけてのセグメントに中程度の活動性大腸炎が発見されましたが、異形成、肉芽腫、またはウイルス性封入体は見つかりませんでした。2週間前にトファシチニブ治療を開始し、アダリムマブ療法を中止しました。
入院後の検査で、患者は貧血、好酸球減少症、低アルブミン血症を示しました。胸部レントゲン検査では、拡散性網状結節性陰影が見られ、腹部CTスキャンでは、直腸および降行結腸の周囲壁の肥厚が確認されました。その後、患者は急激に症状が悪化し、拡散性の腹痛、膨満感、および抵抗感を示し、心拍数と血圧が上昇しました。腹部平板X線撮影では、中腹部に直径6.9cmの局所的に拡張した結腸のループが見られましたが、遊離空気は見られませんでした。
手術中に大腸全摘出術が行われ、十二指腸靱帯より20cm遠位の小腸に狭窄があり、そこにも穿孔が見つかりました。病理検査では、結腸と小腸の標本から肉芽腫とヒストプラズマ・カプスラチューム(Histoplasma capsulatum)に一致する酵母形が確認されました。尿のヒストプラズマ抗原検査も陽性で、補体固定試験ではヒストプラズマ抗体が陽性でした。
治療として、点滴によるリポソームアムホテリシンBと経口イトラコナゾールが行われました。その結果、体重の増加、熱と汎血球減少症の解消が見られ、患者は退院しました。
タイトルのDigging into the Histologyはどういう意味でしょうか?
「Digging into the Histology」というタイトルは、文字通りには「組織学を深く掘り下げる」という意味です。この場合、潰瘍性大腸炎の患者における複雑な病態を理解するために、組織学的な検査や分析を徹底的に行うことを指します。このケーススタディでは、患者の症状や臨床所見だけではなく、組織サンプルの微細な検査を通じて、最終的にヒストプラズマ・カプスラチューム感染症と診断されました。このタイトルは、患者の病状の正確な診断と治療に至るまでの診断プロセスの複雑さと重要性を強調しています。
この症例では手術をして摘出した病理標本で初めて診断がつきましたがもっと早く診断がついた可能性はありますか?
この症例において、手術で摘出された病理標本によって初めて侵襲性ヒストプラズマ症と診断されました。もっと早く診断がつく可能性については、以下の点を考慮すると有り得た可能性として考えられます:
- 早期の症状の評価:患者は進行性の疲労感と血便を伴う下痢を経験していました。これらの症状は潰瘍性大腸炎のフレアだけでなく、他の感染症や疾患の兆候とも一致します。これらの症状に対する早期の包括的な評価が行われていれば、異なる診断が考慮される可能性がありました。
- 危険因子の詳細な評価:患者はTNF-α阻害剤とアザチオプリンを使用しており、これらは真菌感染症のリスクを増加させます。これらの治療の背景と患者の職業歴(穀物エレベーターのオペレーター)を考慮して、早期に真菌感染症に対する評価が行われていれば、診断が早まる可能性がありました。
- 画像診断の再評価:胸部X線とCTスキャンで異常が見られた場合、これらの画像所見を基にして、より早期に真菌感染症を疑うことが可能でした。特に、胸部X線での拡散性網状結節性陰影は、ヒストプラズマ症を含む真菌感染症の典型的な所見です。
- 特異的な検査の実施:診断前に行われた検査では、ヒストプラズマ症に対する特異的な検査(例えば、尿中ヒストプラズマ抗原検査や血清抗体検査)が含まれていませんでした。これらの検査が早期に実施されていれば、診断が早まる可能性がありました。
要するに、患者の全体的な臨床像、既往歴、危険因子の詳細な評価、および特異的な診断検査の早期実施により、手術前に診断がつく可能性があったかもしれません。しかし、実際の臨床状況では、これらの疾患の診断が遅れることは珍しくありません。特に、症状が一般的な消化器疾患と類似している場合、診断に至るまでに時間がかかることがあります。
ヒストプラズマ症に関するガイドラインを調べて病態、診断、治療について教えてください
ヒストプラズマ症の病態、診断、治療について、以下の情報をまとめます。
病態
- ヒストプラズマ・カプスラチューム感染症:この感染症は特定の地域、特に北米、中米、南米、アフリカ、アジアにおいて地方病となっています。米国では、オハイオ川とミシシッピ川の流域での発生が最も多いです。
- 感染経路:鳥やコウモリの糞により土壌中での生育が促進され、活動が土壌を撹乱することでH.カプスラチュームに曝露されることがあります。空気の流れによって胞子が数マイル運ばれ、汚染された場所との接触を意識していない人々に感染のリスクがあります。
- 症状の範囲:ヒストプラズマ症は生命を脅かす疾患を引き起こすこともあれば、無症状または軽度の自己限定性の疾患を引き起こすこともあります【18†source】。
診断
- 診断の難しさ:診断は、体の影響を受ける部位に応じて複雑になることがあります。軽度のヒストプラズマ症の場合は検査が必要ないこともありますが、生命を脅かす症例では重要になります。
- 診断検査:医師は以下のサンプルから疾患の証拠を探すことを提案するかもしれません:肺分泌物、血液や尿、肺組織(生検)、骨髄【28†source】。
治療
- 治療の必要性:軽度のヒストプラズマ症では治療が必要ないことがあります。しかし、症状が重症である場合や慢性または播種性の病型である場合は、一つ以上の抗真菌薬による治療が必要になることがあります。重症の場合、治療は3ヶ月から1年続ける必要があることがあります。
- 抗真菌治療:急性および慢性の肺ヒストプラズマ症の治療として、リポソーム型アムホテリシンB(1~2週間、1日あたり3.0~5.0 mg/kg、静脈内投与)に続いてイトラコナゾール(3日間1日3回200 mg、その後1日2回200 mg、合計12週間)が推奨されています。また、腎毒性のリスクが低い患者では、デオキシコレート型アムホテリシンB(1日あたり0.7~1.0 mg/kg、静脈内投与)がリポソーム型の代替として使用できます。さらに、呼吸合併症(低酸素血症や重度の呼吸困難を含む)が発生した患者には、抗真菌療法の最初の1~2週間にメチルプレドニゾロン(1日あたり0.5~1.0 mg/kg、静脈内投与)が推奨されます【19†source】【29†source】。
これらのガイドラインは2007年のものであり、最新の臨床情報を確認することが重要です。また、患者の具体的な状況に応じて治療方法が異なることもありますので、専門医の指導のもとで適切な治療を受けることが必要です。
Figure 4のパネルDの所見について解説してください
Figure 4、パネルDでは、Grocott–Gomoriメタミン銀染色法による染色が行われ、ヒストプラズマ・カプスラチューム(Histoplasma capsulatum)に一致する小さな楕円形の酵母形態が数多く確認されています。この染色法は真菌の検出に有効で、特にヒストプラズマのような真菌を視覚化するのに役立ちます。この所見は、患者の病理組織サンプルにヒストプラズマ症が存在することを示しており、これによって最終的に侵襲性ヒストプラズマ症という診断が下されました。
ヒストプラズマの病理診断にはどのような染色方法が適していますか?
ヒストプラズマの病理診断には複数の染色方法が適しています:
- Grocott-Gomoriのメタミン銀染色(GMS染色):真菌の構造を黒または褐色で染色し、真菌の検出に特に有効です。
- 周期酸シフ(PAS)染色:真菌の細胞壁を鮮やかな赤またはピンク色に染色し、真菌の存在を示します。
これらの染色方法は、ヒストプラズマのような真菌の特定に広く用いられ、病理組織学的検査において重要な役割を果たします。これらの染色を通じて、ヒストプラズマの特徴的な小さな楕円形の酵母形態が検出され、病理診断の根拠となります。
Figure 3のCT所見について解説してください
Figure 3では、腹部および骨盤のCT(コンピューター断層撮影)画像が示されています。これらの画像は、口からの造影剤を使用した後に撮影されました。
- パネルA(腹部の横断面画像):肝臓の前方に微小な空気(気腹)の焦点が示されており、少量の肝周囲の腹水も確認できます。
- パネルB(腹部および骨盤の冠状断面画像):直腸乙状結腸における拡散壁肥厚と、腸管外の造影剤の漏出(矢印に示されている)が確認されます。これらの所見は、右下腹部に造影剤が層を成していることと合わせて、穿孔があることを示唆しています。
これらのCT所見は、患者が重篤な腸管の問題、特に穿孔を起こしていることを示しています。これは、腹部の症状の急激な悪化と、その他の臨床的徴候と一致しています。
経口投与での造影剤はあまり使用しないと思いますがこの症例ではなぜ経口で造影剤を投与したのですか?
この症例で経口造影剤を使用した理由は、腸管の穿孔をより明確に評価するためでした。CTスキャンにおける経口造影剤の使用は、腸管の構造を視覚化し、壁の異常、腫瘍、炎症、閉塞、穿孔などの問題を特定するのに役立ちます。特に、腹部疾患が疑われる場合、経口造影剤は腸管の輪郭をはっきりと示し、診断の精度を高めるために重要な役割を果たすことがあります。この症例では、造影剤が腸管外に漏れ出ているのを確認することで、穿孔の存在をより明確に証明することができました。
本症例では腸管穿孔が疑われたのはどのような経過からですか?
この症例において、腸管穿孔が疑われたのは、以下の経過からです:
- 急激な症状の変化:入院3日目の朝、患者は急激に症状が変化し、拡散性の腹痛、膨満感、抵抗感が発生しました。
- バイタルサインの変化:心拍数の増加と血圧の変化が確認されました。
- ラボ結果の変化:白血球数の変化、ヘモグロビン値の上昇、血清ナトリウムおよびカリウムレベルの変化、CRPレベルの上昇が観察されました。
- 腹部レントゲンおよびCTスキャンの所見:腹部平板X線で腸管の拡張が見られ、CTスキャンで腸管の壁肥厚、気腹の存在、および造影剤の漏出が確認されました。
これらの臨床的および画像診断的所見は、腸管穿孔の存在を強く示唆しました。
この論文をもとに症例検討会をシミュレーションしてください。 1. 患者病歴の要約、診断名、診断に至るプロセス、考察に分けてまずはな子先生が説明してください。段階的に考えて下さい。 その後、その内容を3名で議論してください。1人目は研修医のはな子先生:医師になって1年目、疑問を素直に投げかけてください、2人目は指導医であるサトシ先生:医師になって15年目のベテランです、はな子先生の質問に親切に答えてあげます。3人目は循環器教授であるタケシ教授:はな子先生とサトシ先生の議論を聞いた上で助言をしたり、議論をまとめたりするモデレーターの役割を果たします。会話形式でお願いします。この議論のゴールは“研究内容の十分な解説、それに加えて残された課題を明らかにすることです。ゴールに到達するまではな子先生、サトシ先生、タケシ教授で議論を繰り返してください。ゴールに到達したらタケシ教授が議論の内容をまとめてください。
症例検討会シミュレーション
はな子先生(研修医): こんにちは、私は研修医のはな子先生です。今回の患者さんは33歳の男性で、7年前に潰瘍性大腸炎と診断されました。最近、疲労と血便を伴う下痢が悪化し、体重も大幅に減少しました。彼はアダリムマブとアザチオプリンを使用していましたが、症状が改善せず、トファシチニブに変更されました。しかし、その後も症状は改善せず、急激な腹痛と膨満感で緊急入院しました。画像診断で腸管の穿孔が疑われ、手術で全大腸切除が行われました。病理検査でヒストプラズマ・カプスラチュームが確認され、侵襲性ヒストプラズマ症と診断されました。この症例で疑問なのは、なぜ初期の段階でヒストプラズマ症に気づけなかったのでしょうか?
サトシ先生(指導医): はな子先生、良い質問です。この症例では、患者さんの症状が潰瘍性大腸炎の典型的なものであり、さらに彼は免疫抑制薬を使用していたため、最初は潰瘍性大腸炎のフレアと考えられました。ヒストプラズマ症は比較的珍しく、特に非地方病地域では診断が遅れることがあります。しかしながら、免疫抑制状態の患者で典型的でない症状が見られる場合は、より幅広い鑑別診断を考慮すべきでしたね。
タケシ教授(循環器教授): サトシ先生、はな子先生、この議論は非常に有益です。はな子先生が指摘したように、早期診断の重要性を理解することは重要です。免疫抑制された患者では、通常とは異なる症状が現れることがあり、それが診断を難しくする原因となります。このケースは、臨床医にとって重要な教訓を提供しており、特に免疫抑制状態の患者を扱う際には、より広範な感染症のスクリーニングを行うことの重要性を教えてくれます。
タケシ教授の議論のまとめ: 本症例では、潰瘍性大腸炎という既存の診断と免疫抑制薬の使用が、ヒストプラズマ症の初期診断を複雑にしました。研修医として、はな子先生は重要な疑問を提起し、サトシ先生が経験に基づいてそれに答えました。このケースから学ぶべき教訓は、特に免疫抑制状態の患者に対するアプローチにおいて、標準的な診断フレームワークにとらわれず、より広い視野を持つことの重要性です。この症例は、臨床医が直面する複雑な病態と、異なる症状の背後に隠れる可能性のある珍しい病気の存在を示しています。したがって、症例検討会の目的である研究内容の十分な解説と残された課題の明確化は達成されたと言えます。これからも、異なる専門分野の意見を積極的に取り入れながら、臨床判断の幅を広げていくことが重要です。
最後にこの症例をマインドマップに変換してください。
いかがでしょうか。論文もChat GPTを組み合わせて読み込むことで理解が深まるように思います。クリニックを開院すると勉強の機会が減りますが研鑽を続けていきたいと考えております。
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