当院では、日頃より三菱京都病院や京都桂病院といった地域基幹病院と密に連携し、その治療方針に基づいた診療を行っています。循環器内科でよくある疾患の1つに心房細動があります。
心房細動の治療としてカテーテルアブレーション(心筋焼灼術)があります。アブレーション治療を受けられた患者さんから、外来で最もよく聞かれる質問の一つがこれです。 「先生、手術が成功したなら、もう血液サラサラの薬(抗凝固薬)はやめてもいいですか?」
これまでは、「念のため、脳梗塞のリスクがある方はずっと続けましょう」というのが一般的なガイドラインでした。2025年11月に医学界で最も権威ある雑誌の一つ『The New England Journal of Medicine』に、この考えを変えるかもしれない重要な研究(OCEAN試験)が発表されましたので紹介します。
どんな研究だったの?
「アブレーション治療が成功して1年以上再発がない患者さん」約1,200人を対象に、以下の2つのグループに分けて3年間経過を観察しました。
- しっかり予防グループ: 抗凝固薬(リバーロキサバン)を飲み続ける
- ライトに予防グループ: アスピリン(一般的な抗血小板薬)に切り替える
驚きの結果:薬を弱めても大丈夫かも?
研究の結果、以下のことが分かりました。
- 脳梗塞の予防効果に差はなかった 「しっかり予防」でも「ライトに予防」でも、脳梗塞の発症率は極めて低く、統計的な差はありませんでした。
- アブレーション成功の効果はすごい そもそも、どちらのグループも脳梗塞の発症率が予想以上に低かったのです。これは、アブレーションで不整脈をしっかり治すこと自体が、強力な脳梗塞予防になっていることを示唆しています。
- 出血のリスクは「ライト」の方が少ない 当然ですが、強い薬(抗凝固薬)を使っているグループの方が、鼻血や皮下出血などの出血トラブルが多い結果となりました。
つまり、薬はやめられるの?
この研究結果は、「アブレーションが成功して再発がなければ、強い抗凝固薬をアスピリンのような薬に変えられる(あるいは終了できる)可能性」を示唆しています。
ただし、「明日から勝手に薬をやめていい」という意味ではありません!
- 再発がないことがしっかり確認できているか
- 個々の患者さんの脳梗塞リスク(年齢や持病など)
- 出血のリスク
これらを総合的に判断する必要があります。
さいごに
「一生飲み続けなければならない」と思われていた薬が、治療の進歩によって「卒業」あるいは「減薬」できる時代が来つつあります。アブレーション後の服薬について気になる方は、次回の診察時にぜひご相談ください。
参考文献
- Verma A, Birnie DH, Jiang C, Heidbüchel H, Hindricks G, Kirchhof P, et al. Antithrombotic Therapy after Successful Catheter Ablation for Atrial Fibrillation. N Engl J Med. 2025 Nov 8. doi: 10.1056/NEJMoa2509688.

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