疾患解説

健診で「心雑音」と言われたら

― 生理的雑音と病的雑音の違いをわかりやすく解説 ―

はじめに:春の健康診断シーズンに増えるご相談

春、特に4月は健康診断の季節です。当院にも「健診で心雑音を指摘された」と不安そうに来院される方が多くなります。

実はその多くが、「生理的雑音(無害な心雑音)」です。つまり、心臓に病気があるわけではなく、年齢や体格、運動や緊張などが影響して生じる、正常範囲の雑音です。

でも、「雑音=心臓病?」と不安になるお気持ちはよく分かります。

そこで今回は、非常に分かりやすいYouTube動画を見つけましたので、その内容をもとに「生理的雑音」と「病的雑音」の違いについて解説します。


動画の要約:生理的雑音と病的雑音の違い

心雑音にはさまざまな分類がありますが、ここでは臨床で重要な視点として「生理的(無害性)雑音」と「病的(器質性)雑音」の違いに注目します。

1. 生理的雑音(Physiological murmur)

  • 健康な心臓においても発生することがある
  • 別名:無害性雑音、機能性雑音、音楽的雑音
  • 主に収縮期(心臓が収縮して血液を押し出すとき)に出現
  • 原因:運動後、妊娠中、小児など、血流が一時的に増加する状態
  • 特徴:音は弱く、柔らかく、グレード1〜2程度の軽度

2. 病的雑音(Pathological murmur)

  • 心臓の構造的な異常(弁膜症など)により発生
  • 別名:器質性雑音
  • 収縮期・拡張期の両方に出る可能性あり
  • 特徴:雑音が強く(グレード3以上)、荒い音質、クリック音や連続性雑音を伴うこともある
  • 症状(息切れ、チアノーゼ、失神など)を伴うこともあり、精密検査が必要

雑音が聞こえるタイミングも重要な手がかりに

  • 収縮期(S1〜S2の間)の雑音:生理的な可能性もある
  • 拡張期(S2〜次のS1の間)の雑音:ほぼすべてが病的

拡張期に聞こえる雑音は、心臓の弁に明らかな異常があることを示唆しており、無害なものではありません。


雑音の強さと音質での判断ポイント

  • 生理的雑音は弱く、柔らかく、しばしば音楽的
  • 病的雑音は強く、荒く、しばしば“ガーガー”“ザーザー”と聞こえる

また、病的雑音では「クリック音」や「スナップ音」などの特徴的な追加音が聞かれることがあります。


心周期と心雑音の関係を図解してみます。

心周期における心雑音の分類 S1 僧帽弁・三尖弁閉鎖 S2 大動脈弁・肺動脈弁閉鎖 S1 僧帽弁・三尖弁閉鎖 収縮期 (S1-S2間) 拡張期 (S2-S1間) 生理的心雑音(収縮期早期~中期) ・肺動脈弁領域(左第2肋間胸骨左縁):小児、若年者 ・大動脈弁領域(右第2肋間胸骨右縁):高齢者 ・特徴:グレード1-2、柔らかい音楽的、体位変換で変化 病的収縮期心雑音 ・全収縮期性(僧帽弁閉鎖不全、三尖弁閉鎖不全、心室中隔欠損) ・駆出性(大動脈弁狭窄症、肺動脈弁狭窄症、肥大型心筋症) ・後期収縮期性(僧帽弁逸脱症候群) 拡張期心雑音(常に病的) ・全拡張期性(大動脈弁閉鎖不全症、肺動脈弁閉鎖不全症) ・拡張中期~後期(僧帽弁狭窄症、三尖弁狭窄症) 生理的心雑音の原因 ① 高心拍出状態: ・貧血(A) ・妊娠(P) ・甲状腺機能亢進症(T) ・発熱、運動後 ② 年齢関連: ・小児(Still’s murmur) ・高齢者(大動脈弁硬化による) 重要なポイント ・生理的心雑音は常に収縮期性 ・拡張期心雑音は常に病的 ・連続性心雑音も常に病的 ・強度グレード3以上は病的の可能性大

またClaudeを利用して心音シミュレーターも作ってみました。音自体は機械的ですが心雑音の概念(I音、II音との時間的関係、音の持続、増強、減衰など)は正しく作られています。HTMLに変換できないので下記リンクからお願いします。

Claude Artifact


当院での対応

当院では、健診で「心雑音を指摘された」と来院された方に対し、次のような対応を行っています。

  1. 聴診と問診:雑音のタイミング、音の性質、症状の有無などを評価
  2. 必要に応じて心電図や心エコーを実施
  3. 多くの場合は「生理的な雑音」と判断され、心配のないことを説明
  4. 拡張期雑音や症状がある場合には、循環器専門医と連携して精密検査を実施

まとめ:雑音がある=心臓病とは限らない

「心雑音がある」と言われると不安になるのは当然ですが、すべての雑音が病的なわけではありません。

特に若年者や妊婦、小児、運動後などで聞かれる雑音の多くは生理的なものです。

とはいえ、音の種類やタイミングによっては重大な疾患のサインであることもあるため、気になる場合は早めにご相談ください。
専門的な診察により、必要な検査と適切な対応をご案内します。

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