疾患解説

感染性心内膜炎とは?その症状と予防法について

日常診療の中で、発熱を訴える患者さんはよくいらっしゃいます。風邪やインフルエンザなどが原因と思われるケースが多いのですが、その中には、注意しなければならない感染性心内膜炎の患者さんが紛れていることがあります。感染性心内膜炎は、早期に発見し治療を行わないと、心臓の弁が損傷し、重篤な合併症を引き起こす可能性があるため、特に警戒が必要な病気です。発熱が続く場合や、心雑音などの症状が確認された場合は、迅速な診断と適切な治療が重要です。しかし、感染性心内膜炎は早期診断が難しい病気でもあります。この記事では、感染性心内膜炎の原因、症状、診断方法、治療、予防について解説します。


感染性心内膜炎の原因

感染性心内膜炎は、血液中に入り込んだ細菌や真菌が心内膜に付着し、そこで増殖して炎症を引き起こすことで発症します。病原体が血流に侵入する主な原因には、以下のものが挙げられます:

  • 歯科治療:歯や歯茎の治療中に、口腔内の細菌が血流に入り込むことがあります。
  • 感染症:皮膚や他の部位の感染症が血流に乗って心臓に達する場合があります。
  • カテーテルや医療機器:人工弁やカテーテルを用いた医療処置が行われた際に、細菌が侵入するリスクが高まります。
  • 薬物の静脈注射:不衛生な環境で静脈注射を行うと、細菌が直接血流に入る可能性があります。

早期診断の難しさ

感染性心内膜炎は、初期の症状が一般的な感染症と似ているため、早期診断が非常に困難です。発熱、倦怠感、筋肉痛などの症状は他の病気と重なりやすく、感染性心内膜炎を疑うのが遅れることがよくあります。また、症状がゆっくりと進行する場合も多いため、確定診断が難しい側面があります。


主な症状

感染性心内膜炎の主な症状には以下のものがあります:

  • 発熱:長期間持続する発熱は感染性心内膜炎の一般的な症状です。
  • 倦怠感:疲労感や倦怠感を伴い、日常生活に支障をきたすことがあります。
  • 心雑音:心臓の弁が正常に機能しなくなるため、聴診器で心雑音が確認されることがあります。
  • 体重減少:食欲不振や全身の代謝異常により、体重が減少することがあります。
  • 血尿:腎臓に炎症が起こり、血尿が見られる場合があります。
  • 皮膚の斑点:手足に小さな赤い斑点(オズラー結節やジェーンウェイ病変)が出現することがあります。

これらの症状が長引く場合や、複数の症状が同時に見られる場合は、早急に医療機関での受診が必要です。


診断方法

感染性心内膜炎の診断には、複数の検査を組み合わせる必要があります。以下は主要な診断方法です:

  1. 血液培養検査:血液中に存在する細菌や真菌を検出するための検査です。感染性心内膜炎の診断において、病原体を特定するために最も重要な検査です。
  2. 心エコー検査:心臓の弁や内膜に病変があるかどうかを確認します。特に、経食道心エコー(TEE)は詳細な画像が得られ、感染性心内膜炎の診断精度を高めます。
  3. CT/MRI:感染が他の臓器に広がっていないか、あるいは血栓や塞栓が生じていないかを確認するために行われます。

これらの検査を組み合わせることで、感染性心内膜炎の診断が可能になりますが、結果が出るまでに時間がかかることも多いため、医師の迅速な対応が求められます。


治療方法

感染性心内膜炎の治療は、抗菌薬抗真菌薬の長期間にわたる投与が基本です。具体的な治療内容は、以下の通りです:

  • 抗菌薬の点滴治療:血液培養検査の結果に基づき、感染している細菌や真菌に対する適切な薬剤が選ばれます。通常、点滴治療は4~6週間続けられます。
  • 外科手術:感染が進行し心臓弁の機能が著しく損なわれた場合、弁の修復や置換手術が必要となることもあります。

予防策

感染性心内膜炎を予防するためには、日常的な生活習慣や医療管理が非常に重要です。特に、心臓の病気や人工弁を持つ方は以下の点に気を付ける必要があります:

  • 口腔衛生の徹底:口腔内の細菌が血流に侵入しないよう、毎日の歯磨きや定期的な歯科検診を受けることが推奨されます。
  • 歯科治療前の抗菌薬予防投与:心臓の基礎疾患がある方や人工弁を挿入している方は、歯科治療前に抗菌薬を投与することが一般的です。
  • 医療機器の感染管理:カテーテルや医療器具の使用に際しては、感染リスクを避けるため、徹底した衛生管理が求められます。

まとめ

感染性心内膜炎は、細菌や真菌が心内膜に感染することで発症し、早期診断が困難な疾患です。発熱や倦怠感といった一般的な感染症の症状が続く場合、特に心臓病をお持ちの方は、感染性心内膜炎の可能性を考慮し、適切な検査と治療を早急に行うことが重要です。診断には血液培養検査や心エコー検査など複数の検査が必要であり、早期発見が合併症の予防に繋がります。


参考文献

  1. 日本循環器学会. 感染性心内膜炎の治療に関するガイドライン(2017年改訂版). Circ J. 2017;81:589-650.

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