最近、貧血精査を希望して来院される中高生のアスリートが増えています。部活動や競技でハードな練習をこなす一方で、疲れやすくなったり、持久力が落ちたりといった症状を感じている方が多いようです。その原因の一つとして、「鉄欠乏性貧血」や「機能性鉄欠乏」が考えられます。特にアスリートにとって、鉄はパフォーマンスに大きく影響する栄養素です。この記事では、これらの貧血について詳しく説明し、適切なケアの重要性をお伝えします。
鉄欠乏性貧血とは?
鉄欠乏性貧血とは、体内の鉄分が不足し、赤血球が十分に作られなくなる状態です。赤血球は酸素を運ぶ役割をしており、鉄が不足すると、全身に十分な酸素が行き渡らず、運動能力が低下してしまいます。
主な症状
- 疲れやすい
- 持久力が落ちる
- めまいや息切れがする
- 顔色が悪い、肌が青白い
- 集中力の低下
特に運動部で活躍する中高校生に多く見られ、ハードな練習をこなすアスリートほど、鉄欠乏のリスクが高まります。早めのケアが大切です。
機能性鉄欠乏とは?
鉄欠乏性貧血とは異なり、機能性鉄欠乏は、体内に鉄は十分にある(フェリチン値は正常または高い)ものの、鉄が効果的に使われていない状態です。アスリートの場合、過度な運動が原因でこの状態に陥ることがあります。
ヘプシジンとは?
ヘプシジンは、鉄の吸収と代謝を調整する重要なホルモンです。主に肝臓から分泌され、腸からの鉄の吸収や、体内での鉄の利用を抑制する働きを持っています。
ヘプシジンの役割
- 鉄の吸収抑制:ヘプシジンは腸の細胞に働きかけ、鉄の吸収を減少させます。これにより、運動後に一時的に鉄が吸収されにくくなります。
- 鉄の放出抑制:体内で鉄が必要な場所(骨髄など)に運ばれる際にも、ヘプシジンは鉄の放出を抑制する役割を果たします。
運動後にヘプシジンのレベルが上昇すると、鉄の吸収や利用が制限されるため、アスリートは一時的に鉄が不足しやすくなるのです。このため、運動後すぐに鉄を摂取しても効果が薄く、数時間後に摂取する方が効果的です。
機能性鉄欠乏の原因
- 運動後のヘプシジンの上昇:運動後に上昇する「ヘプシジン」というホルモンが鉄の吸収を妨げ、体内の鉄を利用しにくくします。
- 足底からの赤血球破壊(フットストライク・ヘモリシス):長距離ランナーなどが、走るたびに足底に衝撃を受けることで赤血球が破壊され、鉄が不足しやすくなります。
- 発汗による鉄の喪失:アスリートは大量の汗をかくため、微量ながらも鉄を失ってしまいます。
鉄欠乏性貧血や機能性鉄欠乏を予防するには?
鉄分の不足を防ぐためには、以下のような対策が有効です。
- 鉄分を含む食品を摂る:レバー、赤身肉、ほうれん草、豆類などが豊富に鉄を含んでいます。
- ビタミンCを一緒に摂る:ビタミンCは鉄の吸収を助けるため、レモンやオレンジといった果物も食事に取り入れましょう。
- 運動後のタイミングに注意:ヘプシジンが上昇する運動後すぐの鉄補充は避け、数時間後に摂取することを心がけましょう。
- 定期的に血液検査を受ける:自覚症状がなくても、定期的な検査で鉄の状態を確認することが重要です。
クリニックでできること
もし上記の症状に心当たりがある場合、専門の医療機関での検査をお勧めします。当クリニックでは、鉄分の状態を詳しく調べる血液検査を行っています。また、必要に応じて、鉄剤の処方や食事指導も行っております。アスリートとして最高のパフォーマンスを発揮するためにも、健康管理は欠かせません。
アスリートは貧血の基準が異なります
高い運動負荷がかかるアスリートでは、一般人の鉄欠乏性貧血の診断基準では不足と考えられるため、一般に基準値は高く設定されます。
ヘモグロビン値 男性:14~15以上 女性:13~14以上
フェリチン値 男性:40~50以上 女性:30~40以上
中学生・高校生の皆さんへ
鉄欠乏性貧血や機能性鉄欠乏は、早期発見と適切な治療で改善できる病気です。貧血を放っておくと、パフォーマンスが低下し、ケガや体調不良につながるリスクもあります。疲れやすい、持久力が落ちたと感じたら、ぜひ一度クリニックで相談してみてください。
当クリニックでの受診の流れ
- 初回診察で症状や食事習慣などをヒアリングします。
- 必要な場合、血液検査を行い、鉄の状態を詳しく確認します。
- 検査結果に基づいて、鉄剤の処方や食事のアドバイスを行います。
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