シンガーソングライターの山崎まさよしさんが、不整脈の症状により全国ライブツアーを中止すると発表されました。長時間にわたるライブ演奏が困難であるとのことで、ファンの皆さんも心配されていることと思います。このニュースをきっかけに、「不整脈とは何か?」「どんなことに気をつければいいのか?」を考えた方も多いのではないでしょうか。
特に、年齢を重ねた方の不整脈では『心房細動(しんぼうさいどう)』が多く見られます。
今回の記事はこの心房細動を中心に、原因・症状・治療の目的についてわかりやすく解説します。
年齢から考えると「心房細動」の可能性も
心房細動は、年齢とともに発症が増える代表的な不整脈です。
日本では70歳以上の約10人に1人が発症するといわれており、高血圧や糖尿病、心臓病のある方ではさらにリスクが高まります。
そのため、山崎まさよしさんのように中高年以降で「脈が乱れる」「ドキドキする」「息切れがする」といった症状がある場合、心房細動の可能性を念頭に置くことが大切です。
心房細動とは? — 心臓のリズムがバラバラになる状態
心臓は、右心房にある「洞結節(どうけっせつ)」という部分から発する電気信号で規則正しく拍動しています。
ところが、心房細動ではこの電気信号が乱れて、心房(上の部屋)が1分間に数百回もバラバラに震えるように動きます。
その結果、心室(下の部屋)に伝わる信号も不規則になり、脈が「速く」「乱れる」状態になるのです。
そのため、心房細動になると次のような症状が現れることがあります。
- 心臓がドキドキする(動悸)
- 脈が速い・不規則に感じる
- 息切れ、疲れやすい
- めまい、ふらつき
- 胸の圧迫感や不快感
一方で、まったく自覚症状がない場合も少なくありません(いわゆる“隠れ心房細動”)。この場合でも注意が必要です。
なぜ注意が必要なのか? — 心房細動と脳梗塞の関係
心房細動の一番の問題点は、脳梗塞(のうこうそく)の原因になりやすいことです。
心房が細かく震えることで、血液がうまく送り出されず、心房の中に血液がよどみます。
するとその中で血のかたまり(血栓)ができることがあり、それが血流に乗って脳の血管を詰まらせてしまうのです。
心房細動がある人の脳梗塞リスクは、ない人に比べて約5倍高いといわれています。
そのため、**心房細動の治療の第一の目的は「脳梗塞を防ぐこと」**です。
治療の目的①:脳梗塞を防ぐ(抗凝固療法)
心房細動の患者さんには、血栓ができるのを防ぐために「血液をさらさらにする薬(抗凝固薬)」が処方されます。
現在は、DOAC(直接作用型経口抗凝固薬)が主流です。
これには以下のような薬が含まれます。
- エドキサバン(リクシアナ®)
- アピキサバン(エリキュース®)
- リバーロキサバン(イグザレルト®)
- ダビガトラン(プラザキサ®)
これらの薬をきちんと飲むことで、脳梗塞のリスクを70〜80%減らすことが可能です。
血液検査の頻繁な調整も不要で、食事制限が少ないため、継続しやすいのが特徴です。
治療の目的②:リズムを整える(リズム・レートコントロール)
もう一つの重要な目的が、「脈の乱れを整えること」です。
治療には大きく2つの方向性があります。
① 心拍数を整える(レートコントロール)
脈が速くなりすぎると、心臓が疲れて心不全を起こす原因になります。
β遮断薬やカルシウム拮抗薬などを使い、脈拍を安定させます。
② リズムを整える(リズムコントロール)
電気的ショック(除細動)や抗不整脈薬で、一度乱れたリズムを正常に戻す方法です。
最近では、カテーテルアブレーションという治療法が広く行われています。当院でも心房細動の方はカテーテルアブレーションをお勧めすることが多いです。
これは、不整脈を起こしている心房の異常な電気信号の発生源をカテーテルで焼き切る方法で、根本的な治療を目指すことができます。当院では三菱京都病院や京都桂病院と連携しておりいずれかに紹介することが多いです。
心房細動の予防と日常生活の工夫
心房細動は生活習慣とも深く関係しています。
発症や再発を防ぐためには、日々の習慣を見直すことが大切です。
- 規則正しい生活リズムを保つ
- ストレス・睡眠不足を避ける
- 適度な運動(ウォーキングなど)を継続する
- 飲酒・喫煙を控える
- 高血圧・糖尿病・肥満の管理を行う
また、スマートウォッチや家庭用血圧計などで脈の不規則を感じたら、早めに循環器内科を受診するようにしましょう。
まとめ:脳梗塞を防ぎ、心臓のリズムを整えることが大切です
心房細動は年齢とともに増える不整脈であり、命に関わる脳梗塞の原因にもなります。
しかし、早期発見・適切な治療で十分にコントロールできる病気でもあります。
山崎まさよしさんのニュースは、心臓の健康を見直す良いきっかけといえるでしょう。
もし「動悸」「脈の乱れ」「息切れ」などの症状がある場合は、我慢せず早めにご相談ください。
桂川さいとう内科循環器内科では、患者さまの生活に寄り添いながら、心房細動をはじめとする不整脈の診断・治療を行っています。
脳梗塞の予防と心臓のリズムコントロールを両立し、安心して日々を過ごせるようサポートいたします。
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