診療ガイドライン

高血圧ガイドラインが6年ぶり改訂!目標は「全年齢で130/80mmHg未満」—JSH2025のポイントをやさしく解説

本年8月に「高血圧管理・治療ガイドライン2025」が日本高血圧学会から公開されました、この記事では新しい高血圧のガイドラインを解説いたします。


まず結論:何が変わったの?

  • 降圧目標がシンプルに一本化:年齢や合併症に関わらず、診察室血圧は130/80mmHg未満(家庭血圧は125/75mmHg未満)を目指します(1)(2)。
  • 薬の選び方が整理:主要降圧薬(G1)として、Ca拮抗薬・ARB・ACE阻害薬・少量サイアザイド利尿薬・β遮断薬の5系統を並列で位置づけ、患者さんの状態に応じて選択します(2)(3)。
  • 治療は“待たない”:コントロール不十分なら早期に治療を強化。診断後1か月以内に再評価し、必要なら薬物治療を開始・強化します(2)(4)。
  • “行動のガイドライン”へ:生活習慣の具体策やデジタル(アプリ)活用、家庭血圧の重視など、日々の実践しやすさが強化されました(2)。

なぜ130/80mmHg未満なの?

血圧は130/80mmHg以上になると脳・心血管病のリスクが上がることが、多くの研究で示されています。今回のJSH2025では、成人、脳卒中にかかったことがある方、糖尿病、慢性腎臓病(CKD)、高齢者(75歳以上)など幅広い方で、130/80mmHg未満を目指す利益が、不利益(ふらつき、腎機能への影響など)を上回ると判断され、目標が統一されました(2)(3)。

ただし、個別性は引き続き重要です。高齢者や虚弱(フレイル)な方、腎機能が低下している方など、副作用リスクが高い方は“安全域の中で”主治医と到達目標を調整します(2)。

ポイント

診察室130/80、家庭125/75は“平均的な目標”です。血圧は測定の度に上下するので、一喜一憂せず、一定期間の平均や傾向で評価しましょう(3)。


薬はどう選ぶ?—5つの主要降圧薬(G1)を患者背景で使い分け

JSH2025ではG1(主要降圧薬)として、以下の5系統を並列に位置づけ、病態に応じた使い分けを示しています(2)(3)。

  1. 長時間作用型ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬
  2. ARB
  3. ACE阻害薬
  4. 少量サイアザイド系利尿薬
  5. β遮断薬(αβ遮断薬を含む)

β遮断薬は、これまで第一選択薬としては慎重に扱われる場面もありましたが、心臓を保護する作用など有用性・安全性が確立した薬剤(例:ビソプロロール、カルベジロール)は、患者さんの状態に合わせて主要薬として選択されます(2)(3)。

ARNI(サクビトリル/バルサルタン)やMR拮抗薬はG2として、必要に応じて追加を検討します(2)。

当院の実践例

  • 初期はG1から単剤(例:Ca拮抗薬やARBなど)で開始します。
  • 目標未達なら早期に2剤併用(G1+G1、場合によりG2追加)、それでも不十分なら3剤へと段階的に調整します。配合剤の活用で“飲み忘れ”を減らす工夫も有効です(2)。

「1か月以内に判断」がキモ:治療のスピード感

診断から1か月以内に再評価し、十分に血圧が下がっていなければ薬物治療を開始・強化する方針が明確化されました(2)。米国の大規模データでも、初月に治療を始める人は6〜30か月後の血圧コントロール率が有意に良いと報告されています(4)。

「様子見が長すぎる」こと(クリニカル・イナーシャ)はリスクです。早めに手を打つことが、将来の脳卒中・心不全・腎臓病の予防につながります(2)(4)。


家庭血圧と生活習慣:毎日やる“効く”対策

  • 家庭血圧:朝(起床1時間以内・排尿後・朝食前・服薬前)、夜(就寝前)に同じ条件で測り、記録を続けましょう(目標125/75mmHg未満)(2)(3)。
  • 塩分:1日6g未満をめざします(外食・加工食品に注意)。
  • 体重:BMI<25を目安に管理します。
  • 運動:有酸素運動(速歩きなど)と軽い筋トレを合わせて週150分程度行いましょう。
  • アルコール:摂取は控えめに。
  • その他:十分な睡眠、ストレス管理、禁煙も血圧に直結します(2)。
  • アプリ活用:治療補助アプリや血圧記録アプリの活用が推奨されており、目標達成率の向上が期待できます(2)。

よくある質問(FAQ)

Q1. 75歳以上でも130/80mmHg未満をめざすの?

A. 目標は原則として共通ですが、ふらつき・低血圧症状・腎機能の変化などに注意し、安全な範囲で個別調整します(2)(3)。

Q2. 140/90mmHg未満なら終わり、ではない?

A. はい。最終目標は130/80mmHg未満です。140/90mmHg未満は通過点と捉え、継続的に改善を図ります(2)(3)。

Q3. β遮断薬は避けるべき薬では?

A. 状況により主要薬の一つとして使います。心不全や頻脈を合併しているなど、適応が明確な場面で特に有用です。薬剤ごとの注意点を踏まえ、当院では安全第一で選択します(2)(3)。

Q4. いつ受診すべき?

A. 家庭血圧の平均が125/75mmHgを上回る、あるいは診察室で130/80mmHg以上が続く場合、特に朝の高血圧が目立つ方はお早めにご相談ください。診断から1か月以内に治療方針を固めるのが理想です(2)(4)。


当院からのメッセージ

JSH2025は「行動のためのガイドライン」です。測る・記録する・続ける・早めに調整する——この4つが血圧コントロールの要となります。桂川さいとう内科循環器内科では、家庭血圧の記録を重視し、生活習慣の改善と薬物治療の最適化を、患者さん一人ひとりに合わせてサポートします。

朝の血圧が上がりやすい方、なかなか目標に届かない方は、どうぞお気軽にご相談ください。


参考文献

  1. Japanese Society of Hypertension Guideline Committee. Guidelines for the Management of Elevated Blood Pressure and Hypertension 2025 (JSH2025). Tokyo: Life Science Publishing Co., Ltd.; 2025.
  2. Ohya Y, et al. Key highlights of the Japanese Society of Hypertension Guidelines for the management of elevated blood pressure and hypertension 2025 (JSH2025). Hypertens Res. 2025 Oct;48(10):2500–2511.
  3. Ohya Y, Sakima A. JSH2025 guidelines new viewpoints. Hypertens Res. 2025;48:2497–2499.
  4. Barrett RB, Riesser B, Martin B, et al. Treatment in the First Month After Hypertension Diagnosis Improves Blood Pressure Control. Hypertension. 2025 Jun;82(6):1129–1136.
  5. Hisamatsu T, Segawa H, Kadota A, et al. Epidemiology of hypertension in Japan: beyond the new 2019 Japanese guidelines. Hypertens Res. 2020 Dec;43(12):1344–1351.

※本記事は2025年10月9日時点の情報に基づき作成しています。個々の治療は主治医と相談のうえで決定してください。

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