2025年7月26日、京都駅前にて開催された「循環器疾患最新治療セミナー」に参加する機会がありました。本セミナーはでは急性冠症候群(ACS)の脂質管理、多職種連携によるリハビリテーション、さらに脂質治療管理に対する新たな治療戦略に関して、第一線の専門家による知見が共有されました。
脂質管理は“プロトコール+多職種連携”が鍵
北條 瞬 先生(三菱京都病院 心臓内科)
北條先生は、ACS患者のLDLコレステロール(LDL-C)管理に関して、2018年から病院で導入された「脂質低下プロトコール」の実例を紹介されました。
- プロトコール導入により、1年後のLDL-C 70mg/dL未満達成率は26%→70%へ
- 入院中に最大量スタチン+エゼチミブ+PCSK9阻害薬(必要に応じて)を導入
- 病棟薬剤師との連携でプロトコール未達を即時フォロー
ポイント:
「The lower, the better」を実践するには、入院中の対応が極めて重要。外来では薬剤追加が難しいため、入院中に最大限の調整を行う方針が効果を上げているとのことでした。
心不全予防に不可欠なリハビリの力
横松 孝史 先生(三菱京都病院 院長補佐・心臓内科主任部長)
横松先生は、心筋梗塞後のリハビリの意義や、心不全予防のための運動療法について解説されました。
- 心臓リハビリにより、再発・入院・死亡率を大幅に低下
- 週2~5回の有酸素運動+週1~3回の筋トレが最も効果的
- 1日3,000~4,000歩で健康寿命が延伸
- 退院後の運動継続を支えるため、スポーツジムや運動指導士との連携が必要
ポイント:
「リハビリは心不全予防のための根幹」。今後は医療保険外でも継続可能な体制の整備が求められています。
特別講演:鈴木孝英先生(JA北海道厚生連 旭川厚生病院)
「これからの冠動脈疾患治療に必要なこと ~脂質管理と地域医療連携の極意~」
非責任病変への新たな視点
- PROSPECT試験により、非責任病変が将来のイベントの主因であることが明らかに
- 造影やFFRではACSへの進展は予測困難なため、NIRS-IVUSによる脂質量(MaxLCBI)・プラークバーデンの評価が鍵
- LCBI 高値、プラークバーデン > 70%、MLA < 4mm²が高リスク指標
予防的PCIの可能性
- PREVENT試験で、虚血陰性の不安定プラークへのPCIが予後改善に寄与
- 従来の「虚血がなければ治療しない」方針を見直す動きも出てきている
LDL-C管理の進化
- 欧州ではLDL-C < 55mg/dL、50%以上の低下が目標
- イメージング試験(PACMAN-AMI, HUYGENSなど)でLDL-C ≒ 30mg/dLまで低下しても安全性確認済み
- LDL-Cの強力な低下により、プラークの安定化・体積減少が可能
多職種連携による治療体制
- 救急搬送時からスタチン+エゼチミブを導入
- 血管内イメージングによる評価 → 高リスクなら退院前にPCSK9阻害薬(レパーサ)処方
- 看護師・薬剤師・栄養士によるチーム支援体制が整備されている
鈴木先生の講演からの学び
- 外来ではなく入院中に薬物治療・患者教育・多職種連携を完了させる体制づくりが重要
- 非責任病変もACSの重要な原因であり、NIRS-IVUSによる可視化が鍵
- 虚血陰性でも不安定プラークには介入するという治療戦略が今後の潮流
- LDL-Cは早期かつ大幅に低下させることが予後改善につながる
おわりに
今回のセミナーでは、循環器疾患の診療において「入院中の薬剤調整の徹底」「多職種連携による二次予防」「イメージングを活用したリスク評価」の重要性が改めて確認されました。
今後も、循環器診療の質を向上させるために、引き続きいろいろな学会や勉強会の機会を活用し、学びを深めていきたいと考えています。
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