はじめに
先日、上皇様が心臓の新たな投薬治療のため東大病院に入院されたという報道がありました。上皇様は91歳で、「右心不全」と「無症候性心筋虚血」という心臓の病気を患われており、症状の改善が見られないため新しいお薬を追加されることになったということです。
このニュースを受けて、同じような心臓の病気でお悩みの患者様やご家族の方から、「どのような治療が行われるのか」「どのようなお薬が使われるのか」といったご質問をいただくことが増えています。そこで今回は、心筋虚血と心不全の治療について、わかりやすくご説明いたします。
無症候性心筋虚血とは
「無症候性心筋虚血」とは、心臓の筋肉(心筋)に十分な血液が供給されない状態が起きているにもかかわらず、胸の痛みや息苦しさなどの自覚症状がない病気です。症状がないため気づきにくいのですが、運動などで心臓に負荷がかかると、心筋に酸素が十分に届かない状態になります。
特に高齢の方では、加齢により冠動脈(心臓に血液を送る血管)の動脈硬化が進むため、このような状態が起こりやすくなります。放置すると心筋梗塞などの重篤な合併症につながる可能性があるため、適切な治療が必要です。
右心不全について
心不全とは、心臓のポンプ機能が低下し、全身に十分な血液を送ることができなくなった状態です。心不全には左心不全と右心不全があり、右心不全は右心室の機能が低下した状態を指します。
右心不全では、静脈から心臓に戻ってきた血液を肺に送り出す力が弱くなるため、足のむくみや腹水、息切れなどの症状が現れることがあります。高齢者の心不全は複合的な要因によることが多く、継続的な治療管理が重要です。
治療に使用される可能性のあるお薬
報道によると、上皇様には「心臓の負荷をやわらげるお薬」が追加されるとのことです。このような症状に対して一般的に使用される主なお薬をご紹介します。
β遮断薬(ベータ遮断薬)
最も追加される可能性が高いと考えられるお薬です。代表的なものに以下があります:
- ビソプロロール(メインテート®):選択的β1遮断薬で、心臓への作用が強く、呼吸器への影響が少ない
- カルベジロール(アーチスト®):α・β遮断作用を併せ持ち、心不全治療に広く使用される
これらのお薬は心拍数を下げ、心臓の収縮力を適度に抑えることで、心臓の仕事量を減らし、酸素の消費量を抑える効果があります。また、心筋虚血の改善や心不全の進行抑制にも有効です。
その他の治療薬
症状や患者様の状態に応じて、以下のようなお薬も使用される場合があります:
- 硝酸薬:冠動脈を拡張し、心筋虚血を改善
- ACE阻害薬・ARB:血管を拡張し、心臓の負担を軽減
- 利尿薬:余分な水分を取り除き、心臓の負担を軽減
今回の入院はおそらくβ遮断薬の投与が目的と思われます。
入院での治療が必要な理由
報道では、上皇様が入院して心電図などを確認しながらお薬の量を調整されるとありました。これは以下のような理由からです:
入院治療が必要な理由
- 副作用の監視:脈が遅くなりすぎる(徐脈)や不整脈のリスク
- 適切な用量調整:患者様の年齢や体調に合わせた細かな調整
- 初回投与の安全性:新しいお薬を初めて使用する際の安全確認
- 心機能の評価:治療効果と副作用のバランスを適切に評価
β遮断薬は高齢者の場合は徐脈や心不全の増悪などの副作用が出ることもあり慎重に少量から投与開始となることが多いです。
心筋虚血や心不全は、適切な治療により症状の改善や進行の抑制が期待できる疾患です。しかし、高齢者の方では薬剤への反応に個人差が大きく、慎重な治療が必要となります。
当クリニックでも、このような心臓の病気でお悩みの患者さんの治療に日々取り組んでおります。お薬の調整や副作用の管理については、お一人お一人の状態に合わせて、細心の注意を払って行っております。
最後に
心臓の病気は不安に感じられることも多いかと思いますが、現在の医学では多くの有効な治療法があります。患者様とご家族が安心して治療を受けられるよう、私たちも最善を尽くしてサポートいたします。
ご不明な点やご心配なことがございましたら、いつでもお気軽にご相談ください。皆様の健康をお守りするため、スタッフ一同、診療にあたらせていただきます。
最後になりますが上皇様の回復と一日も早い回復をお祈りしております。
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