近隣の先生方と NEJM (New England Journal of Medicine) の “Clinical Problem Solving” セクションから毎月 1 本を取り上げてディスカッションする抄読会も、今回で 第 23 回 を迎えました。診療後にオンラインで集まり、症例ベースで臨床推論を追体験できるこの時間は、日常診療の視野を広げる貴重な学びの機会となっています。今回取り上げた論文は “A “Hot” Cardiomyopathy”というタイトルです。 NEJMは登録すれば月に2本までは無料で読むことができます。Chat GTPで論文を要約してみます。
【症例の要約】
27歳の女性が、カンナビス喫煙直後に動悸・呼吸困難・胸部圧迫感を訴えて救急外来を受診。既往歴なし。最近8日間、未承認のダイエットサプリ(ガルシニアなど含有)を服用し筋トレを行っていた。初期の心電図で下側壁のST上昇、心筋逸脱酵素(トロポニンTとCK)が著明に上昇していた。冠動脈造影は正常、心エコー・心MRIで左室機能低下・心筋炎様所見あり。その後、デスモプラキン(DSP)遺伝子の病的変異が判明し、最終診断はarrhythmogenic cardiomyopathy(ACM)であった。
【行われた検査および検査結果】
- 身体所見・バイタル:体温 37°C、HR 80、RR 16、BP 115/80、SpO₂ 98%、BMI 30.2。身体所見に特記すべき異常なし。
- 心電図:inferolateral ST上昇 → その後、広範なST上昇(図1)。
- 血液検査:
- CK: 4461 IU/L(↑)
- トロポニンT: 5934 ng/L(↑)
- 炎症マーカー(CRP, ESR)正常
- 感染症関連PCR(SARS-CoV-2, EBVなど)陰性
- 冠動脈造影:冠動脈は滑らかで狭窄なし。
- 心エコー:左室駆出率40%、中等度のびまん性低収縮
- 心臓MRI:
- 初回:T1/T2マッピングで高値、びまん性の遅延造影(mid-wall/epicardial)(図2)
- 12ヶ月後:左室拡張・低収縮持続、びまん性遅延造影持続、T2軽度上昇(図4)
- 心内膜心筋生検:リンパ球浸潤は軽度で診断基準満たさず。巨細胞、好酸球なし → giant-cell myocarditisや好酸球性心筋炎否定
- 18F-FDG PET-CT:心筋の軽度FDG集積 → 心臓炎症疑い(図3)
- ホルター心電図:NSVT(最大210 bpm)を確認
- 遺伝子検査:**DSP遺伝子のframeshift変異(病的変異)**を確認
【最初に疑われた病名と最終診断・診断の根拠】
初期に疑われた病名:
- 心筋炎(ウイルス性、好酸球性、巨細胞性)
- 冠攣縮性狭心症
- たこつぼ心筋症
- 遺伝性心筋症(デスモソーム関連含む)
最終診断:
Desmoplakin (DSP)変異による arrhythmogenic cardiomyopathy(ACM)
診断の根拠:
- 冠動脈造影正常
- 心臓MRIで典型的な「非虚血性遅延造影」
- T1/T2マッピングで炎症所見
- 心内膜生検で他疾患を除外
- 最終的にDSP遺伝子変異(機能喪失型)を同定
【治療と経過】
- 入院中:
- グルココルチコイド(ステロイド)1回静注 → 経口へ移行し漸減
- 心不全治療:ビソプロロール、ラミプリル、エプレレノン
- 退院後:
- ホルター心電図でNSVT → アミオダロン開始
- MRIで1年後も心筋炎症持続
- ICD埋め込みを推奨(本人は検討中)
- 中等度以上の運動制限、サプリ中止、家族スクリーニングを指導
【Figureの解説】
- Figure 1(心電図):
- 洞調律、Q波なし、下壁・前外側誘導でST上昇
- Figure 2(初回心臓MRI):
- T2マッピング:拡散性浮腫
- 遅延造影:びまん性に環状のmid-wall〜epicardialに至る造影(非虚血性)
- Figure 3(PET-CT):
- 軽度の心筋FDG集積 → 持続性の炎症を示唆
- Figure 4(12ヶ月後MRI):
- 依然としてびまん性の遅延造影+T2上昇 → 慢性炎症持続
【救命できた可能性】
患者は生存しており、ICDは未埋め込みながらもアミオダロンにより不整脈はコントロールされている。より早期に遺伝性心筋症を疑い、運動制限・サプリ中止・遺伝子検査を行っていれば、不整脈発生を予防できた可能性がある。
【最終診断の疾患:Arrhythmogenic Cardiomyopathy(ACM)について】
- 遺伝性心筋症、特に**デスモゾーム遺伝子変異(例:DSP)**が原因
- 右室起源とされていたが、左室優位型も存在
- 「hot phase(炎症期)」で心筋炎やACS様の症状を呈することあり
- 線維脂肪変性・遅延造影・浮腫が特徴
- 若年発症・致死性不整脈を来しうる
【ガイドラインに基づく解説】
2023年ESCガイドラインによると:
- ACMは構造的・機能的変化、組織所見、不整脈、遺伝的背景の組み合わせで診断
- 心臓MRIが診断の鍵で、biopsyは一部症例で推奨
- 遺伝子検査と家族スクリーニングは重要
- ICDは、LVEF低下+NSVT+遅延造影ありの場合、一次予防として推奨【ESC 2023】
【タイトルの意味の解説】
“A ‘Hot’ Cardiomyopathy” は、「炎症性の心筋症」または「活動期の心筋症」を意味する。ACMの一部は「hot phase」を呈し、心筋炎や急性冠症候群と類似する臨床像を示す。炎症、浮腫、心筋障害が目立つこの時期は、しばしば診断困難である。
バーチャルカンファレンスも行ってみます。
それでは、この症例「A ‘Hot’ Cardiomyopathy」に基づいたバーチャル症例検討会(カンファレンス)を開始します。以下の3名の医師が参加します:
- はな子先生(1年目の研修医)
- サトシ先生(指導医、15年目のベテラン内科医)
- タケシ教授(内科学教授、議論をまとめます)
🩺 Step 1. はな子先生のプレゼンテーション(症例要約)
はな子先生:
皆さん、こんにちは。本日、私が担当する症例は、27歳の女性です。
彼女はカンナビス喫煙後に動悸・呼吸困難・胸部圧迫感を感じて救急外来を受診しました。数日前からダイエット目的で未承認のサプリ(Garcinia cambogiaなど)を服用しながら筋トレも行っていたとのことです。
受診時の心電図ではinferolateral ST上昇があり、トロポニンTとCKが著明に上昇していました。ただし、冠動脈造影は正常でした。心エコーと心臓MRIで左室機能低下と心筋炎のような像がみられました。初期に**心筋炎(特に巨細胞性や好酸球性)**を疑い、ステロイド治療が開始されました。
しかし、心筋生検ではそれらの診断を否定され、遺伝子検査でDSP(デスモプレア)遺伝子変異が検出され、**arrhythmogenic cardiomyopathy(ACM)**と診断されました。
現在はアミオダロンで不整脈をコントロール中で、ICD埋め込みの検討中です。
🧑⚕️ Step 2. 症例を中心にディスカッション
はな子先生の質問①:
この症例では最初に心筋炎を疑っていますが、心筋炎とACMの“hot phase”はどうやって区別するんですか?
サトシ先生:
いい質問ですね。臨床的にはどちらも胸痛・トロポニン上昇・ST変化・心機能低下を伴うため、区別が非常に難しいです。ただし重要なのは心臓MRIのパターンです。
心筋炎では通常、限局性のsubepicardialまたはmid-wallの造影がみられますが、ACMのhot phaseではびまん性で環状の遅延造影が特徴的です。また、家族歴や遺伝子検査も非常に有用です。
はな子先生の質問②:
遺伝子検査をもっと早くすれば、診断は早まったのでしょうか?
サトシ先生:
その通りです。最近の研究では、急性心筋炎様の症状で来院した患者のうち、約8%が遺伝性心筋症の病的変異を持っていたと報告されています。とくにDSP変異は“hot phase”を呈しやすいという特徴があります。したがって、このような症例では早期の遺伝子検査を積極的に考えるべきです。
🧓 Step 3. タケシ教授のまとめ
タケシ教授:
よく議論できていましたね。私から総括します。
この症例は、典型的な**“Hot Phase”のarrhythmogenic cardiomyopathy(ACM)です。最初は急性心筋炎との区別が困難**でしたが、心臓MRIの特徴的なパターンと、心筋生検で他の疾患が除外されたことから、最終的にDSP変異によるACMと診断されました。
この疾患は、若年者に致死的不整脈をもたらす可能性があるため、ホルター心電図、MRI、家族スクリーニング、ICDの検討が重要です。また、“炎症性心筋症状=全て感染症”ではなく、遺伝性心筋症を常に考慮する必要があると再認識させられるケースです。
🎓Take Home Message(教授から)
「若年女性の急性心筋炎様症状では、遺伝性心筋症の可能性を常に念頭に置き、早期にMRIと遺伝子検査を活用すべし。」
最後にいま話題のNotebook LMを用いて対談を行ってもらいました。
医学用語などの読み仮名の誤りはありますが内容はわりと正確です。
いろいろなツールを利用して勉強していきたいと思います。
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