研究

【大動脈弁狭窄症の進行を遅らせる?SGLT2阻害薬の新たな可能性】

今回は、糖尿病や心不全の治療薬として知られる「SGLT2阻害薬」が、実は「大動脈弁狭窄症(だいどうみゃくべんきょうさくしょう)」の進行を遅らせる可能性があるという、非常に注目すべき研究結果をご紹介します。大学病院勤務時代はTAVI(経カテ―テル的大動脈弁置換術)を専門にしていたので大動脈弁狭窄症のニュースは常に注目しています。

大動脈弁狭窄症とは?

大動脈弁狭窄症は、心臓から全身へ血液を送り出す「大動脈弁」が硬くなり、開きにくくなる病気です。その結果、心臓がより強く働かなくてはならず、長期的には心不全の原因になります。高齢になるにつれて発症率が高くなる病気で、これまでは重症になるまで経過観察が基本でした。

現在の課題:薬による治療法がない

残念ながら、大動脈弁狭窄症に対して、進行を抑えることができる薬はこれまで存在しませんでした。進行して重症化すれば、外科的な弁置換手術やカテーテルによる治療(TAVI)が必要になります。

そんな中、SGLT2阻害薬に光が

最新の観察研究(観察的研究)によると、SGLT2阻害薬を使用している患者さんでは、大動脈弁狭窄症の進行が明らかに遅くなっていたことがわかりました(1)。

Shah T, Zhang Z, Shah H, et al. Effect of sodium-glucose cotransporter-2 inhibitors on the progression of aortic stenosis. JACC Cardiovasc Interv. 2025

研究では、軽度〜中等度の大動脈弁狭窄症と診断された患者さんを対象に、SGLT2阻害薬を使用していた群(458人)と、使用していなかった群(11,240人)を比較。5年後に重症へ進行した割合は、SGLT2阻害薬を使用していた人では4.6%、使用していなかった人では10.9%でした。この差は統計的にも有意で、進行リスクを約40%低下させたことになります。

また、薬をより長く使っていた人ほど進行抑制効果が大きかったのも注目です。

なぜ効果があるの?

研究者たちは、SGLT2阻害薬が大動脈弁に発現する特定の受容体に作用し、炎症やカルシウムの蓄積を抑えることで、弁の硬化を防いでいるのではないかと推測しています。ただし、現時点ではメカニズムの詳細は不明で、今後の前向きな臨床試験での検証が待たれます。

すぐに使える薬ではないが…

この研究結果は非常に有望ですが、現時点ではSGLT2阻害薬を大動脈弁狭窄症だけを理由に処方することは推奨されていません。

しかし、糖尿病、慢性腎臓病、心不全といったすでにSGLT2阻害薬の適応がある病気を持っている方で、大動脈弁狭窄症がある場合には、この薬の使用がさらに意味を持つ可能性があります。

まとめ

今回の研究は、大動脈弁狭窄症に対する初の薬物療法の可能性を示した画期的なものです。今後のさらなる研究が進めば、病気の進行を抑え、手術に至る前に生活の質を守る新たな手段となるかもしれません。

当院では、心臓の病気に関するご相談をいつでも受け付けております。気になる症状やご不安がある方は、お気軽にお問い合わせください。


【参考文献】 (1) Shah T, Zhang Z, Shah H, et al. Effect of sodium-glucose cotransporter-2 inhibitors on the progression of aortic stenosis. JACC Cardiovasc Interv. 2025;Epub ahead of print. (2) Lindman BR, El-Sabawi B. SGLT2 inhibition in aortic stenosis: a therapy for the ventricle, the valve, or both? JACC Cardiovasc Interv. 2025;Epub ahead of print.

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