疾患解説

五苓散と心不全の再入院リスクに関する最新研究

当院では漢方薬の処方も積極的に行っており、診断の難しい患者さんや通常の処方が効きにくい患者さんを中心に効果を実感しています。五苓散は、頭痛やむくみの際にも使用することがあり、特に体内の水分調整に役立つとされています。今回は、五苓散と心不全の再入院リスクに関する最新の研究についてご紹介します。


五苓散とは?

五苓散(ごれいさん)は、水分代謝の調整を目的とした漢方薬です。主に以下のような症状に用いられます。

  • むくみ(浮腫)
  • 頭痛
  • めまい
  • 吐き気
  • 水分の偏在による体調不良

特に、五苓散は腎臓の水チャネル(アクアポリン)を調整し、尿量を増やすことで余分な水分を排出する作用があります(1)。


心不全と五苓散の関係

最近発表された全国規模の後ろ向きコホート研究では、五苓散の補助的使用と心不全患者の1年以内の再入院率との関連が調査されました(2)。

研究の概要

  • 対象: 2016年から2022年の間に心不全で初めて入院し、標準的な心不全治療を受けた43万1393人
  • 比較:
    • 五苓散を併用した患者(1957人, 0.45%)
    • 標準治療のみを受けた患者(42万9436人)
  • 評価指標: 1年以内の心不全再入院率

結果

  • 1年以内の再入院率
    • 五苓散群: 22.1%
    • 標準治療のみの群: 21.7%
    • ハザード比(HR) = 1.02(95%信頼区間 0.92–1.13)
  • 結果として、五苓散の併用は心不全の再入院リスクを有意に低下させるとは言えなかった

しかし、腎疾患を持つ患者では再入院リスクが低下する可能性が示されました(HR = 0.77, 95% CI = 0.60–0.97)(2)。


五苓散が有効な可能性のある患者

この研究結果から、五苓散は全体として心不全の再入院リスクを減らすエビデンスは得られなかったものの、腎機能が低下している患者には効果を示す可能性が示唆されました。

これは、五苓散が腎臓の炎症や線維化を抑える可能性があることと関連していると考えられます(3)。

また、五苓散が浮腫や体液バランスの乱れを改善することから、心不全患者のQOL(生活の質)向上に貢献する可能性もあります。


今後の展望

現在、五苓散の心不全に対する効果をより詳しく調べる**無作為化比較試験(GOREISAN-HF試験, NCT04691700)**が進行中です(4)。この結果が出れば、五苓散の心不全治療における有効性がより明確になるでしょう。


まとめ

五苓散は体液バランスを調整する漢方薬で、むくみや頭痛の治療に有効
最新の研究では、心不全の再入院リスクを低下させる明確な効果は確認されなかった
ただし、腎機能が低下している患者では再入院リスクを下げる可能性が示唆された
現在進行中の無作為化比較試験の結果が期待される

心不全の治療は西洋医学が中心ですが、漢方薬の併用によってより良い治療ができる可能性があります。当院でも、患者さんの状態に合わせて漢方薬の活用を検討していきますので、お気軽にご相談ください。


参考文献

  1. Kurita T, et al. Effects of Goreisan on aquaporin expression in the kidney. J Med Sci 2011;11:30–8.
  2. Isogai T, et al. Association between complementary use of Goreisan and heart failure readmission: A nationwide propensity score-matched study. J Cardiol 2024. https://doi.org/10.1016/j.jjcc.2024.09.010
  3. Suenaga A, et al. Goreisan mitigates renal fibrosis in a mouse model of chronic kidney disease. J Pharmacol Sci 2023;153:31–7.
  4. Yaku H, et al. Rationale and study design of the GOREISAN for heart failure (GOREISAN-HF) trial. Am Heart J 2023;260:18–25.

当院では、個々の患者さんに合わせた治療を大切にしています。漢方治療にご興味のある方は、ぜひご相談ください。

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